タナイスト、最近機嫌いいな

シルフ

そうか?

俺はいつものように馬車に揺られていた。今回の目的地はクラヌスのスカイライン付近の森。そこに、ここ最近の常連客が待っている……まあ、稼ぎは0に等しい…それどころかマイナスなのだが……。

その髪飾り付けてるってことは…いつもの貴族さんか?

シルフ

まあな…てか、よく見てるな。キモ

そんな事言うなよなぁ…?うし、ついたぞ

シルフ

行ってくる

へーへ……

馬車から飛び降り、俺は待ち合わせ場所へと走った…今まで、こんなことなかったのにな…それもこれも全部…

アルマ

あっ、シルフ!こっちこっちー!!

シルフ

ん……

森の一角、開けた広場のようなその場所に、前と同じように赤いフードを羽織ったアルマが待っていた……。
『仕事』と偽ってこいつと会うようになったのは、あの外交パーティーの後からだった。あの後も二三言話して、互いの迎えが来たわけだが…言葉巧みにあいつは俺の娼館の住所を聞き出し、1週間後には手紙が来た。全く、館主に中を見られなくてよかった…。

アルマ

また遅刻だよ?

シルフ

すまん。昨日の客が面倒なやつでな…なかなか帰れなかったんだ

アルマ

そっかぁ…で、オシャレに時間をかけてきてくれたんだ?

シルフ

オシャレ?言うほどしてないが

アルマ

言うほどってことは、ちょっとはしてくれてるんでしょ?嬉しいな

シルフ

む……と、友達…だから、な……

アルマ

にへへ…

アルマはふにゃっと顔をほころばせ、俺の頭に手を伸ばした。

アルマ

羽飾りも

少し青みがかった羽飾りに手を触れ、頬を赤らめる……この羽飾りは、ここで初めてこいつに会いに行った時に貰ったものだ。手作りなんだそうだ。デザインもなかなか良く、簡単につけられるため非常に気に入っている…最も、アルマに会いに行く時以外付けてないが。

シルフ

割と気に入っててな。それに、飾りっけがあった方がマシに見えるだろ?

アルマ

マシって…どんな格好したって、シルフは綺麗だよ、きっと

シルフ

……お前さぁ…それむやみやたらに女に言うなよ…?

アルマ

え、なになに嫉妬?

シルフ

違えよ。天然タラシだって言いたいんだ

アルマ

天然…たら…?鱈美味しいよね!

シルフ

……お前はそのままでいい…

アルマ

シルフ

で、今日は何するんだ?

アルマ

あっ、えっとね、今日はーー

そのまま半日ほど一緒に遊び、俺は僅かな休息から地獄へと戻る。でも、アルマと会うようになってから、いくらか気持ちが楽になった。日常が地獄なのに変わりはないが…それでも、以前よりかは救われている気がした…。

しかし、俺がやっと手に入れた安息は、予想していたより早く取り上げられることになったーー。

シルフ、最近はずいぶん充実しているようじゃないか?

シルフ

………そう見えますか?

ある日のこと、俺は館主に呼び出された。理由は薄々感づいている。館主の手には、アルマからの手紙が握られていた。

ああ。お前は気づいてないかもしれないが…傍から見てよく笑うようになった

シルフ

………そうですか

ああ、そうだ。何かいいことでもあったのか?

シルフ

………いえ、何も

まだシラを切るつもりか?

怒りを抑えるように話していた館主だったが、どうやら限界のようだ。手紙を床に投げつけ、俺の首を掴み、その場に押し倒した。後頭部を激しくぶつけ、喉に加えられた圧迫感に息が詰まる…意識が飛びかけたがなんとか耐えた。

最初に言ったはずだ。特定の相手を持つなと

シルフ

が……ぁ…!!

しかも、金一枚も取らずに、だと?お前はバカか?こんなことがほかの客に知られればどうなるか…特にお前は!

首にかけられた手に力が込められる…呼吸ができず、自然に涙が零れた。

お前はこの娼館の花だ。わかっているのか?お前は誰の色にも染まってはいけない…誰のものにもなってはいけない…この意味が、わかるか?

シルフ

かん……しゅ、……やめ………やめて、くだ…さ…!!

何とかそれだけ言うと、館主は首から手を外した。俺は酸素を求め、喘ぐように呼吸を繰り返した…。しかし、休む暇もなく館主は俺の髪をつかんで無理やり立たせ、そのままベッドへと投げ飛ばした。

シルフ

っ……!!

縁に思い切り顔をぶつけ、口の中に鉄の味が広がる…倒れ込んだ俺の上に、館主が馬乗りになり、襤褸切れのような服を破き始めた…。

シルフ

か、んしゅ…!!

お前がどんな立場の魔族なのか、再確認させてやる…覚悟しておけよ?

シルフ

館主…!待って、やめて、やめてください…やめてください…!!

館主が娼婦や男娼を犯す…それは、俺はもちろんほかの奴らもひどく恐れていたことだ。館主に犯される…それはつまり…。

お前は俺の人形だ。俺の言うことを聞いて、黙って犯され続ければいい…

それからのことは…あまり記憶にない。ただ、殺されると思ったことは覚えている。このまま嬲り殺されるのではないか、と。その間に、俺の中で何かが壊れてしまったようだ。嘘の笑みが得意だったはずなのに、それすらもできなくなってしまった。

その日以来、俺の元にアルマからの手紙が届く事は無かった…アルマからもらった羽飾りも、館主に取り上げられてしまった。

pagetop