ルクリュ・プレシアンス

王子様達、結局先に帰っちゃいましたねえ

フィン・マサークル

転送魔法で都の近くまで移動して、そこからあたかも姫を救ってきたみたいな風に城に戻るって言ってたよ

フィン・マサークル

……バレるだろうけど

ジュレ・パトリオット

関係者には既にほとんどバレてるし

ルクリュ・プレシアンス

あのお2人これからどうなっちゃうんでしょうか……

ジュレ・パトリオット

何とかなると思う。王子の父親も、姫様の弟も優しいから

ルクリュ・プレシアンス

父親?弟?

メートル

…………

フィン・マサークル

姫様は妊娠していませんでした

ルクリュ・プレシアンス

え!?

リチュエル

どういうことだ?妊娠してると言ったのはお前の方だろう!?

フィン・マサークル

ジュレ君に姫様の体を透視してもらいましたが、姫様のお腹には赤ちゃんの気配はありませんでした

ルクリュ・プレシアンス

待ってください!姫様は妊娠高血圧症候群なんじゃないんですか!?

フィン・マサークル

姫様は想像妊娠です

リチュエル

想像……?

フィン・マサークル

妊娠していないのに妊娠していると本人が思い込んで、お腹が膨らんだり妊娠と同じような症状がでることです。恐らく、それで妊娠高血圧症候群が姫様にも発症してしまったのです

リチュエル

妊娠が、彼女の思い込みだったというのか!!

フィン・マサークル

その通りです!!

ルクリュ・プレシアンス

そ、それで、どうすれば姫様は助かるんでしょうか!?

フィン・マサークル

想像妊娠は調合師で完治させることができない。王子じゃないと治すことができない

リチュエル

……俺?

フィン・マサークル

王子、想像妊娠も妊娠高血圧症候群も、原因のひとつはストレスです。姫様が感じているのは妊娠への不安と、それでも子供を産みたいという願いが強烈なストレスを与えてしまっているのです

リチュエル

彼女を、落ち着かせてやればいいのか?

フィン・マサークル

ええ。彼女が一番欲しがっているものは安心です。それは王子じゃないと与えることができません

フィン・マサークル

姫様の精神を落ち着かせるための薬は私達が用意します。あとは王子次第です

リチュエル

……分かった

フィン・マサークル

失礼します

リチュエル

ああ。昨日ぶりだな

フィン・マサークル

姫様のご様子は?

リチュエル

非常に元気だ。今回の件が夢だったのではないかと思うほどにな

フィン・マサークル

それは何よりです

リチュエル

…………

リチュエル

彼女は、妊娠していたことを忘れていた

リチュエル

お前はあの時彼女を安心させてあやれと言ったな?だが、彼女は俺が何もしなくても落ち着いていた。妊娠したことを忘れていたのはどういうことだ!?

フィン・マサークル

まず、お伝えしていなかったのをお詫びします。姫様には薬のほかに別の薬も投与させてもらいました

リチュエル

妊娠の記憶を消したのか?

フィン・マサークル

いいえ、私は魔法は使えませんし、人の記憶を消し去れる薬などきいたことありません。私が使ったのは記憶に霧をかける薬です

フィン・マサークル

ノインという極めて貴重な薬ですが、最も強く意識している事柄を一時的にぼかす働きがあります。一時しのぎでしかありませンが、これで姫様の妊娠の問題を解消させてもらいました

リチュエル

一時しのぎと言ったが……その霧が晴れたらどうするんだ?

フィン・マサークル

失礼ながら、それを支えるのが夫である王子の仕事かと

リチュエル

……まだ正式に結婚していないんだが

フィン・マサークル

それに、霧がかかった記憶に酷似する記憶が生まれた場合は、統合されて霧が晴れます。つまり、王子が早く結ばれて姫様に本当に妊娠してもらうのが一番かと

リチュエル

仮にも王族に言う台詞とは思えんな

フィン・マサークル

元はと言えば、王子がしっかり避妊すればよかったんですから。私はたとえ王族だろうと患者として接しますし、思ったことは言おうと心がけています

リチュエル

……まったく、見上げた女だ

リチュエル

此度の一件は俺と彼女が原因でもあったし、とにかく彼女を救ったことには礼を言う。報酬は欲しいだけオルグに言ってくれ

リチュエル

表向きは俺は今回は関わっていないことになっているしな

フィン・マサークル

ありがとうございます

リチュエル

だが、それとは別でお前には頼みがある

フィン・マサークル

頼み?

リチュエル

グリヴの滞在する間、お前が彼女の体調を管理しろ。勿論、報酬は上乗せする

フィン・マサークル

できません!私は目の前の患者を一人でも多く助けるために調合師をしているんです!たとえ姫様でも、それは――――

リチュエル

その患者である姫様からの頼みなんだが?

フィン・マサークル

…………っ

リチュエル

お前に拒否権がないわけではない。だが、いてくれると彼女も幾分か楽になるというわけだ

フィン・マサークル

……随分ずるい方法をとるんですね

リチュエル

人のことは言えないだろう?

ルクリュ・プレシアンス

フィンさーん!

フィン・マサークル

ルクリュさん、ジュレ君

ジュレ・パトリオット

姫様付の調合師になるって聞いたけど……

ルクリュ・プレシアンス

私よりも身分が上になりました!!

フィン・マサークル

まぁ患者の頼みだったら断れないし

メートル

私は止めたんですがねぇ

フィン・マサークル

で、姫様の調合師と兼任して、付近の村の病気の人とかも見て回りたいなと思って。王子にもそれは認めさせたんだ

ジュレ・パトリオット

王族相手に交渉事で勝つとかすごいことだけどね

ルクリュ・プレシアンス

で、そのための準備としていったん帰ると。そしてその護衛ということで私達が呼ばれたということですね!

ルクリュ・プレシアンス

ルクリュ・プレシアンス張り切っちゃいます!!

フィン・マサークル

頼りにしてるね、ルーちゃん

ルクリュ・プレシアンス

る、ルーちゃん!?

ルクリュ・プレシアンス

初めて呼んでくれました~~!!!!

ジュレ・パトリオット

一応あっちに馬車停めてあるから。行こう

フィン・マサークル

そうだね

ルクリュ・プレシアンス

放置しないで下さい!!

メートル

王子には、なかなかうまくごまかせたんじゃないですか?

フィン・マサークル

……うん

メートル

仕方ありませんよ。たとえノインが毒草だったとしても、あれを使わなければ姫様の想像妊娠を完全に治療することはできませんでしたし、最大限副作用を抜くために他の薬草も混ぜました。しばらくは慢性的な咳は続くでしょうが、大事には至らなくて安堵するべきです

フィン・マサークル

……人を助けるためなら毒も盛らせないといけない。こんなに心に重くかかるなんて

メートル

フィンさん、辛くなりましたか?

フィン・マサークル

っ……それでも、私は目の前の患者を治したい!

メートル

その意気です。私も精一杯サポートさせて頂きます

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