物言わず動きもせぬマーヤに
オスカーは取りついて涙を流す。
世界の全生命と
マーヤの命を測りにかけ
オスカーは世界を取った!
とうに納得した上での行動でも、
自らの手で行えば、
涙を流さぬわけにはいかぬ!
理性と感情とが
完全には一致せぬ
人間というものの業である!
よく演じてくれたね。あれならバレなかったわけだ。
――世界滅ぼすとか、なんだとかかんだとか言って、この姫さんは根っこのところで単なる姫さんだからね。
何、演じたつもりはない。そなたに言ったことはすべて、宮のまことの大御心と考えよ。
へえ、上等……!
……まったく……本当にしようがないな……ヒトというものは……おもちゃの献身に応えきれぬものだとは知っていたが……ヒト同士でもこのように不義を働くか……大人どもでもない、君たちが……
………………
……おねえさまっ……おねえさまっ……おねえさまっ……おねえさまぁ……!
ああも綺麗に、一発で心臓ブッ刺しといて泣くの……?
人でなしめ。
宮と違ってオスカーはこの陰謀に加担しておらず、アレはとっさの出来事だ。何よりも肉親なのだ。言い尽くし得ぬ思いがあるものよ。
物言わず動きもせぬマーヤに
オスカーは取りついて涙を流す。
世界の全生命と
マーヤの命を測りにかけ
オスカーは世界を取った!
とうに納得した上での行動でも、
自らの手で行えば、
涙を流さぬわけにはいかぬ!
理性と感情とが
完全には一致せぬ
人間というものの業である!
……かおを、お上げなさい、オスカー。
私は死んでなど、おりませんから……!
!?
あな! あな! あな!
こは何事ぞや!?
50口径弾を八発と!
心臓への刺突を受けて!
命長らえたる者がいるとは!
神々よ! 精霊よ! 天狗よ!
その他いと高きすべての者よ!
ああ! 我が問いに答えたまえ!
この光景は何事ぞや!?
生死の境を!
絶対の理を!
冒涜せるこの者は何ぞや!?
カタリとやら。そなたの言う通りでした。それまでの私には、甘さがありました。ヒトであるゆえの甘さが。
――ですが、もう大丈夫です。そなたらの不義によって私はヒトとしての命を失くし、神として完成しましたから。
ああ! ああ! ああ!
神! 神! 神!
ヒトを! 獣を! トイを!
そのような凡百なる者を!
超克せる到達者!
いと神聖なるその高みに!
マーヤは既に上ってしまった!
もはやマーヤは戻れない!
オスカーと遊びしあの庭に!
アドルフと戯れたあの園に!
永久に!
もはやマーヤは戻れない!
……あなたは「え」ですね、おねえさまのかいた、おねえさまの「え」。ヒトとしてのおねえさまがいなくなってしまったから、あなたは「え」をかいたおねえさまでもあり、おねえさまのかいた「え」でもある。
そういうことです。もはや私の存在を支えるのは私の夢であり、私の夢を支えるのは、夢を見る私。私は私だけで完結しているから、誰にも害することができない。
……こうなってしまうと、そなたらの不意打ちに怒る気持ちもあまりわいては来ないのです。それでも、新世界創造をやめるわけには参りません。私の最後の夢、つまり、私そのものですから。
そういうわけで、協力してくださいね。オスカー、カタリ。嫌かもしれませんけれど、逆らうことはできないのです。ごめんなさいね。
!? くそ、体が!?
勝手に、お姉さまの方へ……!?
先ほど、私の絵を手伝ってくれたでしょう? 手伝う振りのつもりだったかもしれませんが、いずれも同じことです。
形だけでも、そなたらは私の従者になることを認めてしまった。一度認めたのなら、もう永久に従者です。心変わりをしようと、この事実は変わりません。
例えるならば黄泉戸喫!
一度為したることゆえに!
もはや二度とは戻れない!
時の流れは片一方!
片一方にしか流れない!
さて。とりあえず、ほかの者たちから武器を奪って捨てさせなさい。刃傷沙汰はもう結構。返り血が絵にかかっては台無しですから。
うわーっ! おれは何も持ってないぞっ!
僕も。ま、ボディチェックぐらい、もっと早いうちにするよね、普通。
俺は飛び出しナイフ持ってるけど! けど! 斬り合いするつもりなんかなかったぜ! 本当だぜ!
ごめんね、ゲンペイさん。ぼくは、それでも取らないではいられないのです……
オスカーはゲンペイから!
刃渡り四センチほどの!
ヤンキー装飾飛び出しナイフを
奪い取り!
夢の無明に投げ捨てた!
果たしてどこに消えたのか!?
神々とても知り得ざるべし!
……宮は王である。ムー=アトランティス二重帝国の神官王だ。ゆえにムーの秘宝『ダゴンの宝剣』を常に帯びている。が、これは国家重代の秘宝。渡す訳にはゆかぬ。
ダゴンだろうがなんだろうが、渡してもらうよ……
そうであろうな。
ゆえに、宮は逃げるとしよう。我がうるわしき波の下の都に!
聞こえているな! 逆枝(さかえだ)! 宮を玉座に戻すがよい!
トキヒトは命令する!
臣下の天狗に!
アトランティス
第6有翼兵団副団長!
鴉天狗逆枝は!
己が法力を発揮!
ワープゲートを経由し群馬へ!
群馬より海底帝国へ!
主を都に連れ戻す!
皆さらば! こうなれば世界を頼むぞ!
ちぇっ……別にトキヒトのことは嫌いじゃないけど、こうも見事に逃げられるとなんか腹立つな……!
なんか、ちょっとずるい感じするよな……
それ、マーヤ。僕らをどうするつもり?
あなたがたにも、協力してほしいのです。トイファイターの従者が五人いれば、白痴の邪神になり変わるのも、一時間とかからずできるでしょうから。
……それ、トイファイトして、あんたが勝ったら、ってのじゃダメか……?
構いませんよ。私も、遊ぶのは好きですから。――ヒトのマーヤも、トイファイトを嫌っていたわけではないのです。ただ、忙しかったものですから。ヒトが生きるというのは、なかなかの難事業です。そなたらもヒトならば、わかるでしょう?
ふむ。何はともあれ、再びトイファイトができるということか。
よろしい。正々堂々とやりたまえよ。今度あのような無作法をしたら、私にも考えがある。
っし!
じゃあ行くぜ、アルテュール! カケト!
いいね。向こうは三人。こちらも三人。トロワ・コントル・トロワのトイファイトは初めてだ。最終決戦にふさわしい華々しさ! トレビアン!
そう言われてみると燃えてくるな!
っし! トイファイトだ! オスカー! カタリ! マーヤ! いいな!?
ええ。楽しく遊びましょうね。
……こう言われちまった以上、逆らいようがない。……でも愚痴っとくよ。なんで僕はこう、悪党の手先になって君らと戦うことが多いのやら……ホントこの世はクソ……!
おねえさまとかたをならべてトイファイトができることに、いろんはありません。せかいのために、わざとまけたりできないのはざんねんですが。
結構、結構!
では諸君! 各々のトイを用意し! ファイトフィールドにつきたまえ!
やってやるぜ!
よろしくね。
負けないからな!
こちらこそ。そなたらの幸福でもある新世界のために、私は絶対に勝つとします。
もうヤケだ。好きにするよ。
もう、楽しむほかありませんしね……!
Toy Set……