もし、使いこなすことができていれば……

慶子

どれくらいで完成するの?

慶子が目をキラキラさせて薄笑いして、翔さんに聞いた。

経次郎

………………。

現金なヤツ……。
さっきまでケンカ腰だったのに。

さすがにすぐはできないな。ヒヒイロカネが馴染むのを待って、錆びとかも取らないとだし。

慶子

………………

慶子が不気味なほどにうっとりしていた……。
でも、錆びと聞いて、

経次郎

もしかして、その赤い雫、赤さびの色ですか?

と、聞いてみた。

赤さびとか言うなよ。もうちょっと……

そう言いかけて、翔さんはちょっと考える。

まあ、そうかもしれないけど……

経次郎

赤さび……。
血じゃないんだ。

ホッとした。

ただ……、

経次郎

修理してる間、叢雲さまは……?

天叢雲

…………。

さっきから、ついてきてる。
ボクが名前を言うと、顔を上げてこっちを見た。

ああ、それなら、ちゃんとそれ用の部屋が用意してあるから。

天叢雲

おぬしについて行っても良いぞ

叢雲さまはボクを見たまま言った。
思わず後ろに誰かいるのか確かめる。

誰もいなかった。

経次郎

ボク?

天叢雲

そろそろ地上の様子も見てみたい。ずっと海の中で、その後も土の中だったからな。

経次郎

いいんですか?

と、小さな声で翔さんに聞いてみた。

いいも何も、俺らに決定権はないよ。
叢雲さまが行きたいって言うんなら、そうするしかないし。

俺ら?

経次郎

ボクも決定権はないってことですか?

うん。

翔さんは、はっきりとうなずいた。

むしろ、光栄だって思ってもらわないとね。

経次郎

光栄?

なのか?

慶子

…………。

慶子が嬉しそうだ……。

天叢雲

おぬしは、わらわが行くのが嫌なのか?

経次郎

いえ、まさか。
そんなことありません。

思ってたのとは感じが違うけど……。

オリハルコンがあるって聞いて来たのに、天叢雲剣に会えるだなんて……。

天叢雲

ふん。

叢雲さまは、鼻で笑った。

天叢雲

わらわを使いこなすことができれば、戦では負けぬぞ。

経次郎

持ってた平家、滅んでますよね。

天叢雲

それは、その……。なんだかよくわからないものが、源氏の側についておったんじゃ。

経次郎

なんだかわからないもの?

天叢雲

おぬし、知らんのか?

経次郎

えっと……。

経次郎

なんか変だなと、思ったことはあります。まるで、追い風に吹かれるみたいな感じがしてました。

あの頃、いくさ場で、そういう物を感じていた。

当時のことだと思うんだけど、ボクは戦わないといけない状況にいて、不利な感じが伝わってくる。

義経

あ……。

なんか、勝てそうな気がした。
根拠はわからない。

ただ、「行ける」とだけ思えた。

義経

行けそうな気がする……。

ヤバいっすよ。
敵、あんなにいっぱいこっちくるし!

義経

いや、行ける。
臆するな。

……そんなこと言われても。

行けそうな気がしたから、行ってみた。

義経

これ、逃したらダメだ。

なんだかわからなかったけど、そんな感じで突っ込んでた。

マジで?!

とか言いつつ、皆ついてきてくれた。

弁慶

遅れを取るな!
殿に続け!

義経

…………。

義経

ひとりでも行くつもりだったけど、皆がいてくれると、助かるな。

気が付くと、まわりに皆がいてくれた。

ホントにひとりで行ってたら、たぶん、歴史に名前なんて残ってなかった。

義経

……みんなが、いてくれる。

義経

ひとりだったら、
何もできなかった

という、イメージがある。

天叢雲

ふむ。

叢雲さまは何かを考えているみたいだった。

我らの里も、いくつか地上にありますよ。

天叢雲

人の営みを近くで見てみたい。

そうですか。

やけに翔さんの機嫌がいい気がした。

経次郎

厄介払いができて喜んでるのか?

天叢雲

……。

なんか大変そうな気がする……。

慶子

……。

こっちもか……。

それじゃあ、海爾さんと合流できたら、みんなで地上に行きましょう!

経次郎

ん?

みんな?

コレ、置いてくるから、ちょっと待っててくださいね。

天叢雲

わらわをコレとか言うでない。

あ、すみませ~ん。

叢雲さまの本体、ジジイに預けてきます~。

軽い……。

そう言って、翔さんは洞窟の奥に入って行った。

経次郎

あ……。

ついて行こうかと思ったけど、慣れているためかすごく速い。
慶子と叢雲さまを置いて行くわけにもいかない気もしたし。

もし、使いこなすことができていれば

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