もし、使いこなすことができていれば……
もし、使いこなすことができていれば……
どれくらいで完成するの?
慶子が目をキラキラさせて薄笑いして、翔さんに聞いた。
………………。
現金なヤツ……。
さっきまでケンカ腰だったのに。
さすがにすぐはできないな。ヒヒイロカネが馴染むのを待って、錆びとかも取らないとだし。
………………
慶子が不気味なほどにうっとりしていた……。
でも、錆びと聞いて、
もしかして、その赤い雫、赤さびの色ですか?
と、聞いてみた。
赤さびとか言うなよ。もうちょっと……
そう言いかけて、翔さんはちょっと考える。
まあ、そうかもしれないけど……
赤さび……。
血じゃないんだ。
ホッとした。
ただ……、
修理してる間、叢雲さまは……?
…………。
さっきから、ついてきてる。
ボクが名前を言うと、顔を上げてこっちを見た。
ああ、それなら、ちゃんとそれ用の部屋が用意してあるから。
おぬしについて行っても良いぞ
叢雲さまはボクを見たまま言った。
思わず後ろに誰かいるのか確かめる。
誰もいなかった。
ボク?
そろそろ地上の様子も見てみたい。ずっと海の中で、その後も土の中だったからな。
いいんですか?
と、小さな声で翔さんに聞いてみた。
いいも何も、俺らに決定権はないよ。
叢雲さまが行きたいって言うんなら、そうするしかないし。
俺ら?
ボクも決定権はないってことですか?
うん。
翔さんは、はっきりとうなずいた。
むしろ、光栄だって思ってもらわないとね。
光栄?
なのか?
…………。
慶子が嬉しそうだ……。
おぬしは、わらわが行くのが嫌なのか?
いえ、まさか。
そんなことありません。
思ってたのとは感じが違うけど……。
オリハルコンがあるって聞いて来たのに、天叢雲剣に会えるだなんて……。
ふん。
叢雲さまは、鼻で笑った。
わらわを使いこなすことができれば、戦では負けぬぞ。
持ってた平家、滅んでますよね。
それは、その……。なんだかよくわからないものが、源氏の側についておったんじゃ。
なんだかわからないもの?
おぬし、知らんのか?
えっと……。
なんか変だなと、思ったことはあります。まるで、追い風に吹かれるみたいな感じがしてました。
あの頃、いくさ場で、そういう物を感じていた。
当時のことだと思うんだけど、ボクは戦わないといけない状況にいて、不利な感じが伝わってくる。
あ……。
なんか、勝てそうな気がした。
根拠はわからない。
ただ、「行ける」とだけ思えた。
行けそうな気がする……。
ヤバいっすよ。
敵、あんなにいっぱいこっちくるし!
いや、行ける。
臆するな。
……そんなこと言われても。
行けそうな気がしたから、行ってみた。
これ、逃したらダメだ。
なんだかわからなかったけど、そんな感じで突っ込んでた。
マジで?!
とか言いつつ、皆ついてきてくれた。
遅れを取るな!
殿に続け!
…………。
ひとりでも行くつもりだったけど、皆がいてくれると、助かるな。
気が付くと、まわりに皆がいてくれた。
ホントにひとりで行ってたら、たぶん、歴史に名前なんて残ってなかった。
……みんなが、いてくれる。
ひとりだったら、
何もできなかった
という、イメージがある。
ふむ。
叢雲さまは何かを考えているみたいだった。
我らの里も、いくつか地上にありますよ。
人の営みを近くで見てみたい。
そうですか。
やけに翔さんの機嫌がいい気がした。
厄介払いができて喜んでるのか?
……。
なんか大変そうな気がする……。
……。
こっちもか……。
それじゃあ、海爾さんと合流できたら、みんなで地上に行きましょう!
ん?
みんな?
コレ、置いてくるから、ちょっと待っててくださいね。
わらわをコレとか言うでない。
あ、すみませ~ん。
叢雲さまの本体、ジジイに預けてきます~。
軽い……。
そう言って、翔さんは洞窟の奥に入って行った。
あ……。
ついて行こうかと思ったけど、慣れているためかすごく速い。
慶子と叢雲さまを置いて行くわけにもいかない気もしたし。