御霊抜き
御霊抜き
叢雲さま、いいですか?
良いと言うとろうが。
んじゃ、御霊抜きしま~す。
なにそれ?
いち、にーの、さん!
翔さんの掛け声と共に、叢雲さまが持っていた剣が落ちる。
さっきと何が違うんだ?
そう思いながら叢雲さまを見ると……、
……………。
急に厚着になってた……。
え?
御霊抜き終了っ!
何?
今の……。
剣の修理するから、その間、魂別のところに居てもらうんだよ。
へー。
こう見えても、実はすっごく修行してるんだっ! 御霊抜きっつう、すんごく難しい儀式も、俺様にかかればいちにのさんでできるんだぞ!
へー
もっと驚けよ!
いえ、驚いてます。
すごいですね~。
ちっとも驚いた感ないし。
そうなのだ。
こいつは驚かぬのだ。
驚いてます。
ただ、なんかもう、リアクションする元気ないっていうか。叢雲さま、厚着になったよ。すごいなーって感じです。
おばばが言っておった通り、クソ可愛げがないのお。
二位の尼さま、そんな風に言ってました? 可愛げはあると思ってたんですけど。
自分で言うところがおかしいであろう。
そーですか?
皆、怒っておったぞ。
恩を仇で返す不届きものがと。
それ、義経じゃなくって、兄上の方じゃないですか?
そっちの方が有名だろう。
どっちも大差なかろう。
そうですか。
何を喜んでおる?
なんか、兄上と一緒って、嬉しいなって。
……愚か者め。
言われなくてもわかってるよ……。
お話の途中、すみませんが、これ、ジジイのとこ、持ってっときますね。
うむ。
翔さんは叢雲さまの持っていた剣をひょいと抱える。
伝説の秘宝だよね?
無造作っていうか、こともなげに持っている。
あ、ヒヒイロカネ見る?
翔さんが振り返って聞いてきた。
見たい。
速攻で慶子が食いつく。
こっちだよ~w
そう言って、翔さんは洞窟の少し奥に行く。
行き詰ったところに着くと、不気味な物が山積みされていた。
何? これ……。
ここでなんかヤバい事件でもあったわけ?
暗くてよくわかんないんだけど、赤黒くて何かの肉片のような物がゴソゴソ、うじゃうじゃとあった。
そういえば、兄ちゃんが「うじゃうじゃ」って言ってたな……。たしかにうじゃうじゃだ……。
肉片みたいだ……。
ここで殺されても、発見とかされないかも……。
これが、オリハルコン……。
あ、しまった。
慶子、ガン見してるし……。
慶子、気分が悪くなったんなら、あっちに行こう。
そう言って、慶子の手を引こうとしたが、じっとオリハルコン(らしきもの)を見つめ、そこから動かない。
ううん。
うじゃうじゃ、もふもふなオリハルコン……。
そう言って、触ろうとする。
やめなさい!
(もふもふ違う!)
あ……。
慌てて引っ張った。
慶子は名残惜しそうに赤黒い物体を見ている。
ばっちい物は不用意に触れちゃダメって言ってるだろ。
でも、お兄ちゃん。
オリハルコンだよ……。
お兄ちゃんも好きだよね、こういうの……。
………………。
こういうときは、慶子なんだな……。
策士なクソ坊主が……。
確かに、修行もしていない人間は触れない方がいいな。
まあ、見てなっ!
そう言って、翔さんは剣をその塊に近づける。
…………。
…………。
肉片みたいな赤い物が、自分から剣に巻き付いた。
ちょっと面白いかも……。
わ~w
すごい~、楽しい~
慶子の目がおかしくなった。
いいな~、いいな~
もふもふオリハルコン……。
そういえば、昔から武器オタクだ……。
でも、これ、ホントに武器の材料になるのか? 肉団子みたいな物しかできなさそうだけど……。
剣は巻き付かれるようにオリハルコンに包まれ、細長い真っ赤な塊になった。
これって……、
生き物なんですか?
金属なんだけど、この剣を直したいって思うヒヒイロカネだけがくっつくんだよ。
思う?
材料がそんなことを思うのか?
無機物と有機物の中間みたいなものだから。
あとはジジイんとこ持ってって、鍛冶屋に預ければ直るんだ。
そう言って、翔さんは剣を肩に担ぐ。
………………。
すると、パタパタと剣から何かがたれる。
血痕?
なんか、聞けなかった。
オリハルコンが、いったいどんな作りになっているのか……。