御霊抜き

叢雲さま、いいですか?

天叢雲

良いと言うとろうが。

んじゃ、御霊抜きしま~す。

経次郎

なにそれ?

いち、にーの、さん!

翔さんの掛け声と共に、叢雲さまが持っていた剣が落ちる。

経次郎

さっきと何が違うんだ?

そう思いながら叢雲さまを見ると……、

天叢雲

……………。

急に厚着になってた……。

経次郎

え?

御霊抜き終了っ!

経次郎

何?
今の……。

剣の修理するから、その間、魂別のところに居てもらうんだよ。

経次郎

へー。

こう見えても、実はすっごく修行してるんだっ! 御霊抜きっつう、すんごく難しい儀式も、俺様にかかればいちにのさんでできるんだぞ!

経次郎

へー

もっと驚けよ!

経次郎

いえ、驚いてます。
すごいですね~。

ちっとも驚いた感ないし。

天叢雲

そうなのだ。
こいつは驚かぬのだ。

経次郎

驚いてます。

経次郎

ただ、なんかもう、リアクションする元気ないっていうか。叢雲さま、厚着になったよ。すごいなーって感じです。

天叢雲

おばばが言っておった通り、クソ可愛げがないのお。

経次郎

二位の尼さま、そんな風に言ってました? 可愛げはあると思ってたんですけど。

天叢雲

自分で言うところがおかしいであろう。

経次郎

そーですか?

天叢雲

皆、怒っておったぞ。
恩を仇で返す不届きものがと。

経次郎

それ、義経じゃなくって、兄上の方じゃないですか?

そっちの方が有名だろう。

天叢雲

どっちも大差なかろう。

経次郎

そうですか。

天叢雲

何を喜んでおる?

経次郎

なんか、兄上と一緒って、嬉しいなって。

天叢雲

……愚か者め。

言われなくてもわかってるよ……。

お話の途中、すみませんが、これ、ジジイのとこ、持ってっときますね。

天叢雲

うむ。

翔さんは叢雲さまの持っていた剣をひょいと抱える。

経次郎

伝説の秘宝だよね?

無造作っていうか、こともなげに持っている。

あ、ヒヒイロカネ見る?

翔さんが振り返って聞いてきた。

慶子

見たい。

速攻で慶子が食いつく。

こっちだよ~w

そう言って、翔さんは洞窟の少し奥に行く。

行き詰ったところに着くと、不気味な物が山積みされていた。

経次郎

何? これ……。
ここでなんかヤバい事件でもあったわけ?

暗くてよくわかんないんだけど、赤黒くて何かの肉片のような物がゴソゴソ、うじゃうじゃとあった。

経次郎

そういえば、兄ちゃんが「うじゃうじゃ」って言ってたな……。たしかにうじゃうじゃだ……。

経次郎

肉片みたいだ……。

経次郎

ここで殺されても、発見とかされないかも……。

慶子

これが、オリハルコン……。

経次郎

あ、しまった。
慶子、ガン見してるし……。

経次郎

慶子、気分が悪くなったんなら、あっちに行こう。

そう言って、慶子の手を引こうとしたが、じっとオリハルコン(らしきもの)を見つめ、そこから動かない。

慶子

ううん。
うじゃうじゃ、もふもふなオリハルコン……。

そう言って、触ろうとする。

経次郎

やめなさい!
(もふもふ違う!)

慶子

あ……。

慌てて引っ張った。
慶子は名残惜しそうに赤黒い物体を見ている。

経次郎

ばっちい物は不用意に触れちゃダメって言ってるだろ。

慶子

でも、お兄ちゃん。
オリハルコンだよ……。
お兄ちゃんも好きだよね、こういうの……。

経次郎

………………。

こういうときは、慶子なんだな……。
策士なクソ坊主が……。

確かに、修行もしていない人間は触れない方がいいな。

まあ、見てなっ!

そう言って、翔さんは剣をその塊に近づける。

経次郎

…………。

慶子

…………。

肉片みたいな赤い物が、自分から剣に巻き付いた。

経次郎

ちょっと面白いかも……。

慶子

わ~w
すごい~、楽しい~

慶子の目がおかしくなった。

慶子

いいな~、いいな~
もふもふオリハルコン……。

経次郎

そういえば、昔から武器オタクだ……。

経次郎

でも、これ、ホントに武器の材料になるのか? 肉団子みたいな物しかできなさそうだけど……。

剣は巻き付かれるようにオリハルコンに包まれ、細長い真っ赤な塊になった。

経次郎

これって……、
生き物なんですか?

金属なんだけど、この剣を直したいって思うヒヒイロカネだけがくっつくんだよ。

経次郎

思う?

材料がそんなことを思うのか?

無機物と有機物の中間みたいなものだから。

あとはジジイんとこ持ってって、鍛冶屋に預ければ直るんだ。

そう言って、翔さんは剣を肩に担ぐ。

経次郎

………………。

すると、パタパタと剣から何かがたれる。

経次郎

血痕?

なんか、聞けなかった。
オリハルコンが、いったいどんな作りになっているのか……。

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