番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

駅に近付くにつれて
コスプレしてる奴が
増えてきたな

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

今日はハロウィン本番
ですからね。
みんな気合い入ってますね

美家 王子(びいえ おうじ)

そういえば今日は
魔女の仮装しないの?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

うーん……。
昨日やったから
満足しちゃいました

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

おい、お前ら。
今日だの昨日だの
何の話をしてんだよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

昨日、うちで一足先に
ハロウィンパーティを
開いたんですよ

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

な、なんだって!
王子もコスプレしたのか!?

美家 王子(びいえ おうじ)

いや、俺は魔女の……

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

王子が魔法少女の
コスプレ!?

美家 王子(びいえ おうじ)

なんで魔法少女なんだよ。
魔女の仮装をさせられ
そうになったけど、
断ったんだよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

写真を撮ってみなさんに
お見せしようと思ったのに、
残念です

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

なんで俺をパーティに
誘わなかったんだよ!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

すみません。
攻めを全員誘うとなると、
うちに入りきらないんです

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

一人の攻めだけを
贔屓(ひいき)するわけ
には行かなかったんですよ

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

何なんだその理由は

美家 王子(びいえ おうじ)

そもそも暮男って、
そういうイベントは
興味ないんじゃないか?

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

確かに俺はああいう
チャラチャラした
イベントは嫌いだ

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

でも、
お前がコスプレした
ってんなら話は別だ!

美家 王子(びいえ おうじ)

だから俺は
仮装してないって

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

それにしても、
急に人通りが
多くなりましたね

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

ああ……。
ここがハロウィンの
メインの場所だからな

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

BL王子。
迷子にならないように
気をつけ……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

た、大変です!

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

どうした?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

BL王子がいません!

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

なんだって!?

美家 王子(びいえ おうじ)

(うう……。
人波に流されて
藤吉さん達とはぐれた)

美家 王子(びいえ おうじ)

ぐすんっ……。
心細いよう……

美家 王子(びいえ おうじ)

うえーん!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

どうしたの?
迷子になったのかな?

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ。
喜連先輩!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

……せんぱい?
っていうか、
どうして僕の名前を?

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ。
俺、子供の姿だったんだ

喜連 稲仁(きれ いなひと)

子供の姿???
おかしなこと言う子だな

美家 王子(びいえ おうじ)

あの、俺……。
こんな姿ですけど、
実は美家 王子なんです!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

は?

喜連 稲仁(きれ いなひと)

……あ、そういうことか。
君、美家くんの弟だね?
僕のこと写真で見たのかな

美家 王子(びいえ おうじ)

違いますって!
美家 王子、
本人なんです!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

うーんと……。
僕が知ってる王子くんは
こんなにちっちゃくないよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

昨日の晩、
ヴァンパイアに噛まれて
子供になったんです

喜連 稲仁(きれ いなひと)

ふふっ、面白い子だな。
心配しなくても、
ちゃんとお兄ちゃんを
見つけてあげるからね

美家 王子(びいえ おうじ)

(うう、信じてもらえない。
仕方ないか。俺自身、
信じられない事態だし)

ぷにぷに

喜連 稲仁(きれ いなひと)

それにしても、
よく王子くんに似てるな

美家 王子(びいえ おうじ)

ふにゃっ!?
ほっぺたつままないで
下さいよ~

喜連 稲仁(きれ いなひと)

可愛すぎて、
食べちゃいたいくらいだよ

美家 王子(びいえ おうじ)

へっ!?
食べちゃダメだよ!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

あはは。
本当に食べるわけ
ないじゃないか

喜連 稲仁(きれ いなひと)

そういえば、
ハロウィンのお菓子を
買ったんだ。
これ、キミにあげるよ

美家 王子(びいえ おうじ)

わあ~!
かぼちゃの入れ物に
キャンディが入ってる!
ありがとう、お兄ちゃん

喜連 稲仁(きれ いなひと)

どういたしまして。
お返しに、僕にも
お菓子くれない?

美家 王子(びいえ おうじ)

ごめんね……。
何も持ってないんだ

喜連 稲仁(きれ いなひと)

いいよ?
お菓子くれないなら、
イタズラするから

美家 王子(びいえ おうじ)

はい?

喜連 稲仁(きれ いなひと)

はむっ

美家 王子(びいえ おうじ)

ひゃあ!
ほっぺたを唇で
はさまないで~!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

やっぱり柔らかいなあ。
はむはむ……

美家 王子(びいえ おうじ)

あははっ!
くすぐったい!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

本当に可愛いな。
このまま連れて
帰ったらダメかな?

美家 王子(びいえ おうじ)

だ、ダメだよ~。
おうちに帰れなく
なっちゃう……

喜連 稲仁(きれ いなひと)

だよね。
おうちの人を早く
見つけないとね?

美家 王子(びいえ おうじ)

うんっ

美家 王子(びいえ おうじ)

(このお兄ちゃん
綺麗で優しくて、
いい匂いがするなぁ)

美家 騎士(びいえ ないと)

嘘だろ……。
王子……なのか?
いや、そんなまさか……

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ!!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

あ、騎士先生。
こんにちは

美家 騎士(びいえ ないと)

こんにちは、喜連くん。
その子は……?

喜連 稲仁(きれ いなひと)

後輩の弟なんですけど、
迷子になったみたいで……

美家 王子(びいえ おうじ)

兄ちゃん!
俺だよ、王子だよ!

美家 騎士(びいえ ないと)

えっ!?
本当に王子か?

喜連 稲仁(きれ いなひと)

知ってる子なんですか?

美家 騎士(びいえ ないと)

いや、知らない子だけど、
俺の弟の小さい頃に
そっくりなんだ

喜連 稲仁(きれ いなひと)

そっくり……?
まさか先生の弟って、
美家 王子くんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

そうだよ。
俺と騎士兄ちゃんは
兄弟なんだ

喜連 稲仁(きれ いなひと)

そうだったんだ!
じゃあ騎士先生は、
この子とはぐれたから
探してたんですね?

美家 騎士(びいえ ないと)

いや……。
探していたのは王子で、
この子じゃないよ

美家 王子(びいえ おうじ)

だから、俺が王子なの!
事情があって子供に
なっちゃったんだよ!

美家 騎士(びいえ ないと)

えっ?

喜連 稲仁(きれ いなひと)

面白い子ですよね。
一生懸命にお話を
考えたんだよね?

美家 王子(びいえ おうじ)

作り話じゃないってば

喜連 稲仁(きれ いなひと)

とにかく保護者が
見つかって良かった!
それじゃあ騎士先生、
僕はもう行きますね

美家 騎士(びいえ ないと)

あ、ああ……

美家 王子(びいえ おうじ)

ばいばーい!
綺麗なお兄ちゃん!

美家 王子(びいえ おうじ)

(……あれ?
俺、喜連先輩に
なんでこんな事を)

chu!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

バイバイ

美家 王子(びいえ おうじ)

ひゃっ!
ホッペにチュウされた!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

ふふっ、またね

美家 騎士(びいえ ないと)

……で。
君は本当に俺の弟の、
美家 王子なのかい?

美家 王子(びいえ おうじ)

本当だよ!
信じてよ!

美家 騎士(びいえ ないと)

俺の顔を見るなり、
兄ちゃんと言ったし。
あまりにも王子の小さい頃に
似すぎている

美家 騎士(びいえ ないと)

信じるしかないんだろうな。
子供になったということを……

美家 王子(びいえ おうじ)

良かった、信じてくれて

美家 騎士(びいえ ないと)

まったく、
連絡の一つくらい
入れてくれよ

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、しまった。
メールするの
忘れてた……

美家 騎士(びいえ ないと)

藤吉さんの家に行ったきり
帰って来ないから、
みんな心配してたんだぞ

美家 王子(びいえ おうじ)

ごめん……

美家 騎士(びいえ ないと)

まあ、いいさ。
それで、どうして子供に
なったんだ?

美家 王子(びいえ おうじ)

ヴァンパイアに血を
吸われたら気絶して、
起きたらこうなってたんだ

美家 騎士(びいえ ないと)

は?

美家 王子(びいえ おうじ)

信じられないだろ?
でも事実なんだよ

美家 騎士(びいえ ないと)

いや、信じるよ

美家 王子(びいえ おうじ)

ええっ、信じるの!?
なんか投げやりに
なってない?

美家 騎士(びいえ ないと)

投げやりじゃないよ。
ヴァンパイアというのに、
心当たりがあってさ

美家 王子(びいえ おうじ)

心当たりってまさか、
知り合いにヴァンパイアが
いるとか?

美家 王子(びいえ おうじ)

……って、
そんなわけないかあ

美家 騎士(びいえ ないと)

いや、それが
そんなわけあるんだよ。
俺の大学時代の同級生に
ヴァンパイアがいたんだ

美家 王子(びいえ おうじ)

兄ちゃんどんな大学
行ってたんだよ!?

美家 騎士(びいえ ないと)

普通の美大だよ?
王子も知ってるだろ

美家 王子(びいえ おうじ)

美大には普通、
ヴァンパイアは
いないよ

美家 騎士(びいえ ないと)

そう言われても

ぶるっ

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ……

美家 騎士(びいえ ないと)

どうした?

美家 王子(びいえ おうじ)

おしっこ……

美家 騎士(びいえ ないと)

トイレに行きたいのか?
しょうがないなあ。
よいせ……っと!

美家 王子(びいえ おうじ)

わーい、肩車だあ♪

美家 騎士(びいえ ないと)

ははは。
中身まで子供に
戻ってるな

美家 王子(びいえ おうじ)

ハッ!!
なんでトイレ行くのに
肩車するんだよ!

美家 騎士(びいえ ないと)

だってこの人混みじゃ
トイレの場所が
わかんないだろ?

美家 王子(びいえ おうじ)

ああ、高い位置から
探せってことか。
えっと……

責田 好(せめだ こう)

騎士先生!?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、コウだ

美家 騎士(びいえ ないと)

責田くんじゃないか。
偶然だね

責田 好(せめだ こう)

そ、その、王子に
そっくりな可愛い子は
どうしたんですか!?

美家 王子(びいえ おうじ)

そっくりじゃなくて、
俺は本人……

美家 騎士(びいえ ないと)

親戚の子なんだ

責田 好(せめだ こう)

こんなに可愛い親戚が
いたなんて!!

美家 王子(びいえ おうじ)

なんで本当のこと
言わないの?

美家 騎士(びいえ ないと)

言ったら大事に
なりそうだろ

責田 好(せめだ こう)

騎士先生、
お願いがあります!

美家 騎士(びいえ ないと)

ん? 何?

責田 好(せめだ こう)

その子を抱っこさせてください!
そして思う存分撫で繰り
回させてください

美家 王子(びいえ おうじ)

断る

責田 好(せめだ こう)

即答!?

美家 王子(びいえ おうじ)

俺はトイレに
行きたいんだよ~!
兄ちゃん、トイレあっち!

美家 騎士(びいえ ないと)

急がなきゃ!
ごめんね責田くん。
じゃあ、また!

責田 好(せめだ こう)

(人ごみに消えて行って
しまった……。
すげー可愛かったな)

責田 好(せめだ こう)

(あの子に恋して
しまったかもしれない)

責田 好(せめだ こう)

(正気になれ、俺。
相手は幼稚園児だぞ!)

責田 好(せめだ こう)

(第一、俺には
王子がいるのに!
浮気してすまん王子!!)

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

チクショー。
王子はどこへ
行ったんだ……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

早く見つけないと、
知らない人に誘拐
されるかもしれませんね

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

それだけじゃねえ。
のんびりしてたら
本物の幼児になっちまう

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

えっ!?
どういうことですか?

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

昨晩、心まで幼児化
しかかってたんだよ。
肉体が精神に影響
してるのかもな

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

早くしないと
取り返しのつかない
ことになりますね

番長 暮男(ばんちょう ぐれお)

まあ完全に幼児化したら、
俺が一から育てるけどな!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

光源氏ですね!
それも悪くありませんね!

美家 王子(びいえ おうじ)

何だろう……。
悪寒がする……

美家 騎士(びいえ ないと)

大丈夫か?

第27話 BL王子とハロウィン - 中編

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