榊 迦楼羅

んっ……

榊 迦楼羅

ここは……天国か?

残念ながら違いますよ、迦楼羅様

榊 迦楼羅

……お前は。久しいな

村長

迦楼羅様、大変お久しゅうございます

榊 迦楼羅

其方は兵士として士官してくれていた……随分と老いてしまったな

村長

残念ながら年には敵わなかったもので。お見苦しいところをお見せいたします

榊 迦楼羅

いや、良い。年相応に老いることができるのは実に幸せなことだ

榊 迦楼羅

して、其方たちがここにいるということは……やはり、ここは天国か?

迦楼羅様、何笑えない冗談を仰っているのですか。ここは天国ではありません。故に、貴方はまだ生きておられる

榊 迦楼羅

……あの時私は、魔法使いの一撃を受けて死亡したはずだ

ええ。確かに剣撃を受け止めた左腕は吹き飛びました。そして、貴方が被っていた仮面もです

榊 迦楼羅

仮面?

衝撃ではじけ飛んでしまいました。他にも内傷はかなり受けておられるご様子で。当分は安静だそうですよ

榊 迦楼羅

……あの仮面は十国の神を継いだ者が被ることを義務付けられていたもの。それが壊されたなど………

ええ。つまり、神は堕ちました。この十国から神はいなくなったのです

榊 迦楼羅

……何を言っている?

あの仮面は恐らく洗脳の類の古い強力な妖術が眠っていたのでしょう。そうでなければ、仮にも榊迦楼羅があそこまで大敗することはなかった

あの仮面は十国を裏で支配するための媒体だったのです。ですが、それが破壊されたことで十国は裏からの支配を失い、将軍が実質的な最高司令になったのです

村長

十四郎様ならきっとご立派に役目を務められるでしょう。十国は新たな時代に差し掛かったのです

榊 迦楼羅

……私は、これからどうすればよいのだ

どうぞゴロゴロしていてください。神になったことで一応死んだことにされてしまっていますし、神も堕ちてしまった今、貴方は隠居してグータラ過ごすしか道はないかと

榊 迦楼羅

私は神という権力に味を占めてしまった。自らの妖術を利用して以前より親しいディスナティに戦を吹っかけ、十四郎を殺めようとしてしまった……この重き罪は裁かれることはないのだろうな

十字架として背負いなさいませ。貴方には背負う責任があるのです

榊 迦楼羅

……うむ、そうだな。甘んじて受けよう。それが私の罪であるのなら

アムレート

ソルセルリー、十国に残るって本当?

ソルセルリー

うん。今回のこともあって、妖術に興味が出てきたんだ

ソルセルリー

せっかくソール様の後衛を任されたのにあっさり負けちゃったから、自分をもっと鍛えたいって言うのもあるけど

アムレート

それは、私だって同じよ。気に病む必要はないわ……

ソルセルリー

ううん、別に落ち込んでるわけじゃないの。けど、もっといろんなことを知って、もっと強くなればソール様と同じ場所が見えるのかなって

アムレート

そっか……応援しかできないけど、頑張ってね

ソルセルリー

うん。ありがとう!

風ノ助

いやぁチャームって裁縫も上手いんだな!俺不器用だから憧れるよ!

チャーム

あれくらいなら基本だから風ノ助さんも練習すればできるようになりますよ。裁縫に必要なのは集中力だから

アムレート

…………

ソルセルリー

…………

チャーム

あっ

風ノ助

あ、体はもう大丈夫か?

ソルセルリー

爆ぜればいいのに

風ノ助

なんで!?

榊 十四郎

…………

榊 風音

兄上、気持ちは分かりますが、今は落ち着いてください

榊 十四郎

しかし………

マジー・プリエール

そんなにそわそわしなくても、先生は逃げませんよ。十四郎将軍

榊 十四郎

だが、まだ目が覚めていないだろう?

榊 十四郎

ソールが目が覚めて最初に見るのは俺でなくてはならんのだ!!

榊 風音

お願いだから落ち着いてください

レーグル・ブリエール

本当に中が良いんですね、ソール様と榊将軍は

レーグル・ブリエール

私には親友と言えるものがおりませんので、純粋に羨ましいと思います

榊 風音

ええ。そして、兄上とソールさんの関係は以前の十国とディスナティの関係の象徴のようなもの。我々としても、隣国でもあるディスナティといがみ合うのはどうも落ち着きませんから

レーグル・ブリエール

以前のスパイの件は、やはりセヘル神の?

榊 風音

ええ。セヘル様がいない今となっては分かりませんが、どういう意図にせよ十国とディスナティの関係を一気に悪化させてしまった。そういう意味では、落ち度はこちらにあります

レーグル・ブリエール

それは、どんな条件も飲む、ということかな?

榊 風音

とはいえ、同胞を殺されているのは事実ですし、ある程度は妥協してもらうかもしれませんがね

マジー・プリエール

あーもう!いつまでも腹の内探り合ってても仕方ないでしょ。ちょっとずつ関係を修復していけばいいんすよ

マジー・プリエール

それに、もう十国とディスナティは戦争しませんよ。無理やりにでも止めますからね、先生と俺たちが

レーグル・ブリエール

……まぁ、それもそうですね

榊 風音

雨降って地固まる、とはいかないんでしょうけど。僕らも兄上たちを見習うべきでしょう

榊 風音

十国はディスナティと戦をしたくない。これだけ言えれば済む話なんですから

レーグル・ブリエール

……そんなはっきり言えるとは

榊 風音

自分の心に聞いてみただけですよ

榊 十四郎

……もういいか?

榊 風音

兄上は交渉事も覚えていかないといけませんね

ソール・グルナディエ

……ん

古森

お目覚めか、水男殿

ソール・グルナディエ

……古森、ここはどこだ?

古森

私の家だが?

ソール・グルナディエ

そうではなく、私の頭はどこに置いてあるんだ?

古森

私の膝だが?

ソール・グルナディエ

うわあああぁぁああっぁああ!!

古森

……傷ついたぞ

ソール・グルナディエ

やかましいっ。普通に枕の上で良かっただろう!!

古森

そういう気分になったからだが?

ソール・グルナディエ

待ってやめて怖い!!

古森

まる3日も寝ていたからな。これでも心配していたのだぞ

ソール・グルナディエ

……そうか

古森

驚かないのだな?

ソール・グルナディエ

数年ぶりに第二魔法源まで解放したのだ。反動で何日も寝込むくらい想定したさ。ひどいと1週間意識が戻らないこともある

シャルム・ソー

あ、先生目覚めたんだ

ソール・グルナディエ

ああ。おはよう、シャルム

若奈

おはよう、ソールさん。もう夕方だけど

ソール・グルナディエ

……だいぶ寝坊したみたいだな

シャルム・ソー

まぁ船に間に合わないほど大寝坊してないからいいんじゃない?

ソール・グルナディエ

…………船?

シャルム・ソー

レーグル様達が乗ってきてた船も沈んじゃったからね。ディスナティの船がこっちに向かってきてるんだ。あと2日でこの村に着くって

ソール・グルナディエ

…………っ!

ソール・グルナディエ

……そうか。ディスナティに帰れるのか

シャルム・ソー

そうだね。やっと……だね

若奈

…………っ

古森

…………っ

ソール・グルナディエ

さすがに……寂しいな

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