弟子を取る1年ほど前、国軍から招集された。
膠着し始めた隣国・エタ国との戦争を終結させるため、国に呼び出された。

その際に、滅ぼすつもりでやれと耳打ちされた。
それだけで、私が召喚された意味が分かってしまった。

今や、自国内で私に勝てる者はいない。
名実ともに最強だった私に、戦争の終結を押し付けたのだ。

今にして思えば、当時の私はあまりにも若かった。
国相手に戦えることへの高揚感と、誰にも負けるはずがないという自尊心
それは、あまりにも傲慢でひとりよがりだった。

気づいた時には、目の前は焦土と化していた。
女子供が泣く声も、誰かが身じろぐ気配もない。

見ろ、これがお前のしたことだ。

私の中の誰かがそう呟いた。



私はそれ以来自分の魔力に二重の封印を施し、戦争といったものから完全に一線を引いた。
今でも、時々滅ぼした国の顔も知らぬ人々が夢の中で慟哭している。
なんでこんな目に合わなくちゃいけなかったんだと。
私たちの未来を返せと。

魔法使い・ソール・グルナディエは戦争を終わらせた英雄とたたえられた。
しかし、当の本人にとってそれほど辛い罵倒はなかった。

私が全ての封印を解除することは、それから一度もなかった――――

水男

…………

セヘル

頭巾を取っただけ!?それが封印だったと!?

セヘル

これはなんと面白い冗談であろうか!なるほど、芝居としてはなかなか傑作だったぞ異物よ。褒めてやろう

セヘル

ん?

セヘル

陣が……消えて行って……?

セヘル

なんだ……何が起こっている!!

水男

フードは、私の魔力の最後のフタ。外せば自然と溢れ出てくる

水男

神よ、真の神降ろしの始まりだ

セヘル

ぬふぉ……!!

セヘル

バカな……何故跳ね返すことができない!?この神の眼は全ての異物の攻撃を跳ね返せるはず……

水男

言ったはずだ。私の名前は――――

水男

水男だとな

セヘル

あり得ん……十国の者が、本当につけた名前だというのか!!そんな馬鹿なことが……

水男

お前は今まで掲げられた椅子の上でしか物事を見てこなかったのだろう。この国の民がどれほど優しく勇気があるのかを知らなかったのだろう

水男

海で溺れてた私を助けてくれ、さらに水男という名前まで与えてくれた。ゴーレムを倒した私を認めてくれ、ディスナティとの戦争を止めるために力を貸してくれた。漂流してきた異国の私にだ

水男

それは異国の魔法使い・ソール・グルナディエとしてだけではなく、十国の民・水男としても認めてくれたから。私はディスナティと十国の、謂わば中間点に立つ人間だ

セヘル

中間点……

水男

親友が治める国であり、人々がどこまでも優しく生き生きしている……十国を愛する気持ちは神にも負けない。そして、それを上から分かった気になってかき回す神気取りのロリコン野郎を、私は決して許さない

水男

終結せよ!!エル・ド・ラド・ラム!!

セヘル

それが禁術というわけか!己の血を媒介に強くなるとは、どちらが妖術か分からんわい!!

セヘル

だが、この神とてただ手をこまねくだけはせぬよ

セヘル

なっ!!

榊 十四郎

なんとか……間に合ったか!

セヘル

十四郎!貴様はこの神が倒されることの意味を分かっているはずだ!神の敗北は国の敗北だということを!!

榊 十四郎

っ……負けじゃありませんよ!十国の民は立ち向かうことを知っている!たとえこの国に神がいなくなったとしても、再び異国との戦が訪れても……

榊 十四郎

貴様に支配されるほど、俺たち十国の人間は弱くないぞ!!

セヘル

ぐおおっ……!!

セヘル

十四郎……貴様…………!!

榊 十四郎

……神よ、貴方に育ててもらったこと、今でも感謝してます

榊 十四郎

俺の想いを全て乗せて、親友が貴方の目を覚ましてくださいましょう

榊 十四郎

頼んだぞ、水男

水男

終わりだ、神よ

セヘル

この神が……この神が神罰の対象者に敗北するなど……!!

水男

はああああああああああっっ!!!!

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