工藤 柊作

ここの学校って静かですね


教室へ向かう途中、俺はそんなことを言った。
モダンな雰囲気の廊下は嫌いではない。

時雨 詩織

教室が少なすぎるのよ。一学年2クラスしかないから


時雨先生がさらっと言った。
俺は思わず聞いた。

工藤 柊作

ここ、高校ですよね?

時雨 詩織

ええ。確かに私立高校よ

工藤 柊作

他市から募集したりしないんですか?


俺の言葉にため息をつく先生。
先ほど自分が江岸にしたばかりなのに、いざ他の人にやられるとムッとする。

時雨 詩織

工藤くん、ここへは何で来たの?

工藤 柊作

電車ですが?

時雨 詩織

岸ノ巻に止まる電車は2、3時間に1本よ。そんな交通の不便な市の学校に、他市の学生が来たいと思う?


言われてみれば、岸ノ巻駅が悲しいほどに無人駅なのを思い出す。

工藤 柊作

じゃあ、ここに通っているのは全員岸ノ巻に住んでる人ってことですか?

時雨 詩織

その通りよ。前はもう少し学生も多かったんだけど、過疎化の影響でね。何人かは他市の公立高校を受験して、寮生活の人もいるみたいね


…思っているより、この市は大変のようだ。

時雨 詩織

そういえば、叔母さんから連絡があったわよ


時雨先生が言った。

時雨 詩織

うちの甥をよろしくお願いしますって

工藤 柊作

叔母……!?

なんであの女が出てくるんだ!
今まで静かだった感情が一気に熱を帯びる。
誰よりも率先して俺を追い出そうとしておいて二度と帰ってくるな、と念を押しにやったのだろうか。

生活費を送ってもらってる以上、俺に何も言う資格はないのだが………

時雨 詩織

とても静かな声をしていたわ。きっと優しい人なのね


違う。
優しくなんかない。
本当に優しいなら、俺一人をこんな辺境の地にとばしたりしない。
邪魔だから厄払いされただけだ。
しかも、高校二年生という、中途半端な時に。

工藤 柊作

…………


先生に反抗したかったが、声が出なかった。
今では、俺を生かすも殺すも叔母次第なのだ。

時雨 詩織

さぁ、着いたわよ


ようやく目的の教室に着いた。
ドアの上に
【2-1 担任;時雨詩織】
と書かれたシールが貼ってある。

時雨 詩織

心の準備はいい?


先生が優しく聞いてくる。
絶対叔母よりいい人だ、この人。
俺は頷くと、先生はドアに手を伸ばした。

pagetop