教室の広さは都会とあまり変わらなかった。
その広さに15~20人程度の生徒がいるのだから、広く感じるのはそのせいかもしれない。
ガヤガヤしていたクラスが先生が来たことで静寂を宿す。


見渡してみると、(やっぱりというべきか)江岸がいた。

江岸 梨奈

……♪

こちらと視線が合うと、にっこり笑って手を振ってきた。

時雨 詩織

みんな、おはよう


時雨先生が言うと、全員が

おはようございまーす

と返した。
小学生並にぴったりタイミングが一致している。

時雨 詩織

今日はホームルームの前にお知らせがあります。既に誰かさんが話したかも知れませんが


完璧に江岸のことだ。

時雨 詩織

このクラスに新しい仲間が加わることになりました。工藤柊作くんです。みんないつも通り明るく接してあげて下さい


即座に全員が

はーい

と返事をする。
鳥肌がたつ程の一致具合だ。
変なところで感心していると、時雨先生に

時雨 詩織

さ、自己紹介して

と言われた。

工藤 柊作

ナメられちゃダメだ…

そう思い、前を向いて口を開こうとすると…

待てよ。なんでそんなことを考えてるんだ?

心の中で声が聞こえた。





最初はそのつもりだったじゃないか。

誰とも馴れ合わずに生きていく。

誰の情けも受けない。

叔母に岸ノ巻へ飛ばされた時にそう誓ったじゃないか。

誰かの情けや施しなんてほんの一瞬のものだ。
そんなもの、まやかしにすぎない。
人は自分しか興味ないんだ。


ならば俺も……

露樹 梓

あんた、誰とも仲良くならないって言ったそうじゃない


突然頭に響いた露樹さんの声。
あれは確か、昨日の……。

露樹 梓

でもね、それは無理な話よ……


岸ノ巻の人々はみんな温かい。
たった1日で早くも自分の殻を破られてしまった。

江岸 梨奈

あたし、工藤くんの最初の友達になる!!

俺はふと、江岸に目を向ける。

江岸 梨奈

…………


彼女はあんなぞんざいな態度をとった俺と友達になりたいと言った。
優しいのか、人がよすぎるのか。
でも、あの言葉に少しでも救われた自分がいたことははっきりと覚えている。

工藤 柊作

友達か……


クラス全員が期待の眼差しで俺を見ている。
だが、江岸だけは変わらず、笑顔のままだ。
期待を通り越して、信頼されているらしい。

ならば……。

工藤 柊作

答えてやるかな……


改めて前を見据え、はっきりと言う。

工藤 柊作

工藤柊作です。よろしくお願いします

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