アカネ

で、ゼロ。次の目的地はどこなの?

町を出発した俺たちは馬車の上で揺られていた。
ともかく時間は限られている。一刻も早く目的を果たさねば。

ゼロ

獅子の国だよ。
獅子王に会って助力を乞う。

そう、俺の名前はゼロだ。
何者にでもなれるとも言えるし
何物にもなれないとも言える、そんな名前だ。

ベルモント

…簡単に言うじゃねぇか。
いけるのか、それ?

ゼロ

それしかないんだ。
最短ルートだし、ついでに協力も得られれば上出来くらいに思ってるよ。

アカネ

でもそれって生ける伝説アントニダスと同じルートね。

ゼロ

「失敗したルート」だけどな。今回はこのルートを使うしかないだろう。

-獅子の国-
この世界には人でない種族が多数存在する。例えば亜人、その中でも誇りに重きを置く獅子の亜人が暮らす町。それが通称「獅子の国」だ。

俺の住んでいた町から「人」の生活圏を越えて「魔王の領地」に到達するにはこの国を抜けるのが一番だ。

ベルモント

勝算はあるのか?

ゼロ

もちろん。

シーマ

ア、アントニダス様の偉業を失敗扱いするなんて!無礼です!

会話に割り込んできたこの少女はシーマ。
今回の「魔王討伐遠征」に志願してきた勇気ある若者の一人だ。
小柄で華奢だがちゃんと主張するべきところは主張している、そんな感じだ。

シーマ

アントニダス様は確かに魔王こそ倒していませんが、人間の版図拡大に多大な貢献をし、人の世に希望をもたらした英雄の中の英雄です!それを失敗だなんて!

ゼロ

悪かったよ…身内ネタのつもりだったんだ。
世間が言うような蔑みの意味なんかじゃない。

シーマ

み、身内ネタ??

ゼロ

あー、もしかして募集要項とか深く見ないほう?

シーマ

魔王討伐遠征と聞いて!

ゼロ

(面接したときはもっとしっかりした子だと思ったのに…)

アカネ

身内も身内、ゼロはアントニダスさんの一人息子。正当な「勇者」の血統よ!

シーマ

ほんとですかぁ~

ゼロ

(とんでもない子採用しちゃったかな…)

魔王討伐隊モシクハ勇者御一行ハ
ワタクシがゲンセイナルシンサのモト、
メンセツによってサイヨウシマシタ。

ゼロ

親父は十数年前の古傷で、もうまともに戦えない。だから息子の俺が旗印として「勇者」を名乗り正式な「魔王討伐隊」を結成したんだ。わかってくれるか?

シーマ

(何それ美味しいの?
という顔をしている)

ベルモント

もしかして、あんた…
生粋の世間知らずかい?

シーマ

生まれ故郷の田舎を出たのは
今回が初めてデス!

アカネ

ははは!
何それ、かわい~い~!

ゼロ

世間の事情に疎いってことか。
以後気を付けよう。

ベルモント

いや、こりゃあ世間に疎いとかそういうレベルじゃないと思うぞ。

ゼロ

だよなぁ・・・

道はまだまだ長そうだ…

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