何ということか。まだ準備が出来ていないというのに。「時が来て」しまった。
ともあれ旅立ちの日だ。教会で祝福を受け集合場所である町の門に行くとしよう。
何ということか。まだ準備が出来ていないというのに。「時が来て」しまった。
ともあれ旅立ちの日だ。教会で祝福を受け集合場所である町の門に行くとしよう。
祝福を終えたころ、教会に息も絶え絶えで這ってくる男が一人
ここに…いた…のか…みんな…待ってるぞ…
ヨシオおじさん。また凄い怪我ですね。馬車にでも轢かれましたか?
そうだ…早く…集合場所に行ってやれ…みんな…待ってるぞ…
今にも死にそうですね。何よりです。ではまた
そう言って俺は教会を後にした。だが決して、けっっして俺が冷酷な若者というわけではない。なぜなら--
あっ!居た居た。遅ーい!
教会を出たとこで赤毛で中肉中背、中おっぱいの女が走ってきた。幼馴染のアカネだ。どこにでもいる風貌だと思うので後の部分は好きに想像してくれてかまわない。
待ちくたびれて来ちゃったよ。ヨハンおじさんには会えた?
ああ。今さっき。今頃死んでると思う。馬車に轢かれたらしい。
そ!なら安心!じゃあ先に行ってみんなに伝えとくから早く来てねー。
そう言って傍に立てかけてあったデッキブラシによいしょっと言って跨るアカネ。
…なんの真似だ?
魔女は血の力で飛ぶのよ~!
…その光景を横目に俺は先を急いだ。ここは冷酷な奴だと思われても仕方ないと思う。
あっ!ひどっ!ツッコミなし!
その時、後ろからさっき聞いたばかりの声がした。
うんうん。相変わらず仲いいね~。青春だね~。
と、聞き逃しがたい事を言いながら教会から出てくるヨシオおじさん。怪我一つない健康体だ。
早かったですね、ヨシオおじさん。あと、俺とこいつはただの幼馴染で、青春要素はひとかけらも無いのでお間違いなく。
ははっ!それはすまんかった。
-そう、この人は普通じゃない
馬車の人も慣れたもんでね。死にやすいように突っ込んできてくれたから助かったよ。
-それどころか「俺たち」は普通ではない
どんな馬車よ!
ホントにな!
-世界の滅びを止めると決意した、「血の力」を持つ者たち、いわゆる「勇者御一行」なのだ。
はは。じゃあ今度こそ先に行ってるね。ではまた~。
そう言って両手両足から炎を噴射して飛び去って行くアカネ。あれじゃ魔女〇じゃなくてアイ〇ンマンだ。
ふう。それでヨシオおじさんは?一緒に行きます?
ちょっと家に寄ってから行くよ。服がボロボロだし。
この人の「血の力」は「不死」。死んだら怪我が治り生き返る異能だ。ただし死ななければそのまま、普通の人間と変わらない。
これで先ほどからの会話の意味がお分かり頂けただろう。
死にそうでよかったとはつまりそういうことなのだ。決して俺が冷酷なのではない。
分かりました。ではお先に。
ちなみにアカネの「血の力」は大まかにいうと「炎」だ。詳しくはまた後に語る機会があるだろう。
-さて、やっと集合場所だ。
この旅立ちの朝に集いしは9人の精鋭。
A、B、C、D、E、F、GそしてY、Zの9人。
30人弱は揃えるつもりだったのだが仕方がない。
神託が下ったのだ。その内容とは
-「世界はあと一か月で滅びる」-
それは「魔王」に脅かされている絶望の時代にさらに重ねられた絶望だった。
嘆き諦める者、滅びを止めようと抗う者に世界は二分された。
俺は、諦めたくはなかった。だから仲間を集めた。
遅せえぞ。
門に来た俺を見て声をかけるものが一人。ベルモント、アカネと同じく俺の幼馴染で寡黙な奴だ。
アカネとヨシオおじさんは東の国から来たが俺とベルモントやその他大半はこの大陸の出身だ。だから二人は名前の響きが違う。
すまん。神父のお祈りが大げさだったんだよ。
まあ、いいさ。…ホントに行くんだな。
ああ。もちろんだ。
はいはーい!旅だちの朝だってのに暗くなってどうすんの!
別に暗くなってねぇよ。
楽しい旅にしましょうね♪
アカネはムードメーカーだ。こんな旅では必要な存在だろう。正直助かる。
できるだけ、な。
各地の教会に下った神託は魔王によって世界が滅ぼされると解釈された。
最近目に見えて「魔物」や「闇の軍勢」が勢いを増しているためだ。
倒すのだ、魔王を。だが世界のため、ではない。
親父の悲願を果たし、旧友に報いるためだ。
-たとえそれがこの命と引き換えであったとしても-