俺は何となくディガンの事が気になり後を追った。

周囲を良く見れば、何度か戦場で顔を合わせたり、剣を交えた事のある奴もいた。昨日の敵は今日の友…ってのか、こんな世の中じゃ、これが当たり前か。今更思い返すと、不思議な感覚だ。

人を掻き分けると、ディガンの背中が見えた。

だが、その後ろにはナイフを持った男が立っている。

ディガン!!

叫んでも声は届かない、俺は必死に周囲の人を押しのける…

(間に合え!間に合え!間に合え!!)

男がディガンにナイフを付き立てようとした所で、俺はそいつに飛び掛っていた。
二人が地面に数度転がる間に、男のナイフを取る事に成功し、互いに離れると―――立ち上がる…はずだった。

だが、立ち上がったのは男だけで、俺は立てないでいた。

熱い。
背中が―――熱い。

男はみんなに取り押さえられていた。

…何だ…俺は背中を触ると、ぬったりとした感触が掌に伝わる。俺はそれを目の前に持ってきて把握する。真っ赤な…俺の血だ。

何で?俺・・・いつの間に―――刺されたんだ?

おい!!

…ディ…ディガン…

喋るな!救護班は!?誰か呼べ!!早く!!

…ディ

大丈夫だ。大丈夫だぞ

―――だめだ。
声にならない―――意識が遠のく。
いくらディガンを守れたからって、こりゃねぇぞ。何でこんな戦場でも何でもない場所で―――俺が―――俺は―――チクショー!―――無念だ。

無数に聞こえる怒声と交わる剣戟の音。飛び交う矢と大砲と魔法。次々と倒れる兵士たち。腕を落とされても泣いてる暇などない。仲間が倒されても、立ち止まる事もできない。隙を見せた時が死ぬ時。それが戦場だった。



―――俺は最後の決戦を見ていた。死んでもこの世の続きが見れると初めて知った・・・いや、死なないと分からないんだから、初めて知って当然なのだが・・・。俺の声は誰にも届かない。誰に触れることも触れられることもできない今、俺は戦場を歩き見る事しかできなかった。

あれは?ディガン?…それに、グルード?


ディガンとグルードは傷だらけで睨み合っていた。
傭兵の仲間たちを率いるディガンと、ヴァルハリア兵を率いるグルード。

何故、同じ傭兵団の二人が対峙しているのだ?

おい、グルード。ちゃんと説明しやがれ

言っても無駄だろ

少ない会話の後、二人は直ぐに剣を交える。

数回、剣が交わった後、ディガンの剣が折れ、そのままグルードの剣がディガンの胸を貫いた。

ぐっ…

終わりだ…この戦争も…お前も

おい!なんだこれ!!ふざけんな!!

だが、触れられる事も触れる事もない身体。言葉も願いも届かない。


グルードは突き刺した剣をディガンから抜くと、溜息を溢した…それは、安堵なのか何なのか、今の俺には分からなかった。

戦力は五分と五分のはずだった。だが、重要な戦局で勝ちを重ねたヴァルハリア国軍が優勢となっていた。
劣勢になった聖ファラール国軍に残された策はなく、アレムが直接最前線に立ち獅子奮迅の活躍を見せるほかなかった。
しかし、敗色が濃くなった聖ファラール国軍の士気は低く、逃げる兵や傭兵の姿もあった。前線で戦うアレムは次第に囲まれ、あっけなく討たれてしまい長きに渡る聖ファラール国のアレムとヴァルハリア国のルディの直接の対決を見るまでに至らなく、この最終戦争は終結を迎えた。まさに軍の配置が的確で戦略での勝利と言える戦いだった。

その後、残った聖ファラール国の領が僅かな抵抗を見せるものの、直ぐに降伏。ラディア大陸の戦争はヴァルハリア国の統一で終焉を迎えた。

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