俺は一人その場に立ちながら、辺りを見回した。
良く見れば、何度か戦場で顔を合わせたり、剣を交えた事のある奴もいた。それでも明日はコイツ達と共に戦うんだ。本当に楽しみだ。

何だか身体の奥から熱いモノが込み上げてきた―――違う。熱いんだ。


何だ?背中が―――熱い。

血だ。

俺の血で熱いんだ。

何で?俺・・・いつの間に―――刺されたんだ?

身体の力が抜ける。立っていられない。


―――まさか敵襲なのか?・・・いや、違う。皆は楽しく飲んでる。別に変わった様子はまったくない。俺だけが狙われたんだ。何で俺が―――クソ!意味わかんねぇ。ってか、倒れてる場合じゃないだろ―――あれ?起き上がれない―――駄目だ意識が遠のく。
明日が決戦なんだ!何でこんな戦場でも何でもない場所で―――俺が―――俺は―――チクショー!―――無念だ。

無数に聞こえる怒声と交わる剣戟の音。飛び交う矢と大砲と魔法。次々と倒れる兵士たち。腕を落とされても泣いてる暇などない。仲間が倒されても、立ち止まる事もできない。隙を見せた時が死ぬ時。それが戦場だった。




―――俺は最後の決戦を見ていた。死んでもこの世の続きが見れると初めて知った・・・いや、死なないと分からないんだから、初めて知って当然なのだが・・・。俺の声は誰にも届かない。誰に触れることも触れられることもできない今、俺は戦場を歩き見る事しかできなかった。

あれは?ディガン?



ディガンはグルードを担ぎながら戦っていた。
グルードは明らかに息絶えていた。しかし、その現実を受け止めたくないのか、それとも幼なじみの相棒だからなのか、ディガンは担ぎながら戦っていた。
担ぐディガンの命も時間の問題なのは目に見えていた。助けたいが、声も届かず剣を抜いても守る事もできない。

気付けばディガンはヴァルハリアの兵に囲まれていた。
俺は当たる事のない剣を何度も振る。

やめろ―――!

届かぬ声を何度も叫ぶ。
すると、ディガンを取り囲むヴァルハリアの兵が倒れた。
目にも止まらない矛さばき。一撃一撃が鎧の少しの隙間を的確に捉える。

・・・ティアーか・・・

ディガンは力無く言葉を発する。

ディガン久しい

―――何だ?ティアー?聞いた事あるぞ。金色のティアー・・・そうだ。あのティアーだ。金色傭兵団の団長。確か今はヴァルハリア国の専属だったんじゃ?

・・・やってくれるか?

あぁ。そのつもりで来た

―――ちょっ!何でディガンに矛を向けるんだ。仲間の兵を討ち取って何で!?ディガンを助けてくれんじゃねぇのか!



俺はディガンの前に立ち、両手を広げた。

やめてくれ!頼む!助けてくれ!

だが、触れられる事も触れる事もない身体。言葉も願いも届かない。
俺の身体を擦り抜け、正面からディガンの心臓を一突き。
まるで身体が一つになった様に、俺とディガンの慟哭までもが重なった。


俺とディガンで唯一違うのは、俺は既に死んでいて、ディガンは今死んだという事。

ティアーは突き刺した矛を抜くと一筋の涙を零したが、俺にはその意味は分からなかった。

戦力は五分と五分のはずだった。だが、重要な戦局で勝ちを重ねた『ヴァルハリア国軍』が優勢となっていた。
劣勢になった『聖ファラール国軍』に残された策はなく、アレムが直接最前線に立ち獅子奮迅の活躍を見せるほかなかった。

しかし、敗色が濃くなった『聖ファラール国軍』の士気は低く、逃げる兵や傭兵の姿もあった。前線で戦うアレムは次第に囲まれ、あっけなく討たれてしまい長きに渡る聖ファラール国のアレムとヴァルハリア国のルディの直接の対決を見るまでに至らなく、この最終戦争は終結を迎えた。まさに軍の配置が的確で戦略での勝利と言える戦いだった。

その後、残った聖ファラール国の領が僅かな抵抗を見せるものの、直ぐに降伏。ラディア大陸の戦争はヴァルハリア国の統一で終焉を迎えた。

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