遙斗

………

ふと気が付くと、俺は薄暗い所に横たわっていた。

遙斗

どこだ、ここ…?

ぼんやりとした意識で辺りを見ながら考える。

遙斗

あれ?
俺、何してたんだっけ…

そこは古ぼけた感じの広い和室だった。

夏の夜だというのに空気はひんやりとしており、クーラーでもかかっているのかと思ったが、パッと見た限りでは、そんなものがあるようには見えない。

遙斗

俺の家じゃねーな。
いつ、ここに来たんだっけか…

わざわざ考えなくても、うちの家は洋風の家だ。
こんな古い日本家屋じゃない。

まだハッキリとしない頭で考える。
確か俺は家で勉強をしていたはずだった。
それで小腹が減ってコンビニにでも行こうと思ってて…

遙斗

………

そうだ。
家にいる時に美緒先輩から電話がかかってきた。
その時の先輩の尋常ではない様子に俺は慌てて家を飛び出した。

そして、先輩の家の近くにいた時に闇に落ちた。

遙斗

んな馬鹿な!

慌てて、その記憶を否定する。
そんな非現実的な事があるはずがない。

だとすれば…

遙斗

拉致られたのか…?

そう考えるのが現実的だった。

きっと美緒先輩は何者かに拉致されて、それを探していた俺も、そいつに捕まった…
少し無理はあるが、そう考えるのが自然な気がした。

しかし、それにしても気味の悪い場所だ。
何というか雰囲気があり過ぎる…

漠然とそんな事を思っていると、ふと前に美緒先輩が言っていた言葉が浮かんできた。








美緒

明滅している外灯の下を
通ってはならない

美緒

闇を通った者は別の世界へと足を
踏み入れ、二度と戻って来ることは
ないだろう…



























遙斗

まさかな…

笑ったつもりだった声は、自分でも分かるくらいに掠れていた。

遙斗

馬鹿馬鹿しい!

何かを振り切るように言って、俺はその場から立ち上がる。

もし俺が拉致られて、この場所にいるのなら、もしかしたら美緒先輩もいるかもしれない。
今は先輩を捜すのが先決だ。

遙斗

とにかく行ってみるか

腹を決めると俺は目の前の引き戸を引いた。







遙斗

……

引き戸を開けた目の前には、古い板張りの廊下が続いていた。

何となく引き戸を開ければ外に通じているような気がしていたので、予想が外れて一瞬、躊躇する。
けど迷ってばかりもいられない。
廊下の右側は行き止まり、左の方は更に長い廊下が続いている。
だとすれば左に進むしかないだろう。

遙斗

…っと、そういえば

ポツリと呟き、その時になって自分が土足のままだったことに気づく。
しかし、薄汚れたようにも見える古い板間に靴を脱ぐ気にはならなかった。

遙斗

ふん、知ったことか。
こんな所に連れてきた奴が悪いんだ

前方の見えない廊下の先を目指し、俺は土足のままで板の間の上を歩き始めた。
















あれから、もうどれくらい歩いただろう。

廊下の先には始めに俺がいた部屋と同じような和室があった。
その和室を過ぎ、外へと続いているように見える引き戸を引いて現れたのは、前に見たのと同じような板張りの廊下。
どこまでも続くかのような長い板張りの廊下の先にあるのは薄暗い和室。
そして、その先にあるのは、やはり板張りの廊下。

廊下が左に曲がっていたり右に曲がっていたりしなければ、同じ場所をグルグル回っているのではないかという錯覚に囚われそうになる。
しかし、形状の異なる廊下が、辛うじてさっきまでとは違う場所を歩いているのだと確信させていた。

だが、ただそれだけだ。
外へと通じている訳でもなければ誰かがいる訳でもない。
こんなに広い家だというのに全く人の住んでいる気配が感じられない。
まるで廃屋か何かのように…

遙斗

くそっ!
どこまで続いてんだよ

美緒先輩を捜さなければならないというのに、もはや自分がどこにいるのかも分からない。
この家は中にいる者を惑わせる迷路のような場所なのか。
それとも、或いは何か普通ではないことが起こっているのか。
どこまでも続く薄暗い和室と廊下の繰り返しに平常心が削がれていく。

最初は何者かに拐(かどわ)かされて古い廃屋にでも監禁されたのかと思ったが、それにしては広すぎる。
何部屋過ぎても、いくら廊下を進んでも、どこまでも古い日本家屋が続いている。
もしかしたら、ただ単に本当にひどく広い家なだけなのかもしれない。

だけど、もう既に何部屋を過ぎた?
その数を数えるのはとうに忘れた。

遙斗

ったく、どこまで広い家なんだよ。
金持ちかっての…

半ば疲れながら、もう何度目になるかも数え忘れた引き戸を引いた。



























美緒

……!

遙斗

その狭い和室に美緒先輩はいた。
部屋の奥の襖の前に自らの肩を抱くようにしてしゃがみ込んでいる。

遙斗

美緒先輩!

先輩の姿を見た途端、俺はそちらの方へと駆け寄る。

遙斗

大丈夫っすか、
先輩!?

美緒

あ…

うつむいたままの先輩に呼びかけると美緒先輩が顔を上げた。
そして、俺の顔を見た途端、飛び込むようにして抱きついてきた。

遙斗

なっ…

とっさのことに思わず焦る。
先輩の手が俺の背中に回され、俺にしがみつくようにして抱きついた先輩の腕が、俺のことを確かめるようにして手繰るように動く。

遙斗

せんぱ…

美緒

怖い…

驚いて言いかけた俺の言葉を遮り、先輩は消え入るような声で言った。
暑い夏の夜だというのに、先輩の身体は冷たいと感じる程に冷え切っている。

この場所が肌寒いせいもあるだろう。
先輩の家の近くを探していた時は汗をかく程に暑かったのに、ここは涼しいと感じる程にひんやりとしている。
それこそ、まるでクーラーでもついているかのように…

だからこそ、俺よりも長い時間ここにいるだろう先輩の身体が冷えていても無理はない。

遙斗

もう大丈夫っす!

ここがどこなのかが分からない以上は、何の根拠もなかったが、何よりも先輩を安心させたかった。

遙斗

俺が来たからには
大丈夫っすよ

先輩を安心させようと、そして冷え切ったその身体を温めようと、俺に抱きつく先輩の細い背を擦りながら言った。

美緒

本当に…?

俺にしがみついたままで、先輩が小さな声で聞いてくる。

遙斗

任せてください!

本当は何の確証もなかったが、とにかく先輩を見つけたからには、この場所から出るのが先決だ。
警察なり何なりはその後ででも…

そこまで考えてふと気が付いた。
警察に連絡を入れればスマホの位置情報やら何やらで、ここに迎えに来てもらえるのではないのか。
なぜもっと早く気が付かなかった。
自分でも思った以上に取り乱していたのかもしれない。

遙斗

ちょっと待ってください。
今、警察に連絡入れるんで…

そう言ってズボンのポケットからスマホを取り出した俺の手を美緒先輩が取った。

美緒

無理よ

囁くように小さく言った先輩は、今にも泣きだしそうに見える。

遙斗

無理って何で…

美緒

この場所はどこにも
通じていない

美緒

どこへかけても
繋がりはしない

遙斗

圏外ってことっすか…?

先輩に言いながらも俺は110番をプッシュした。

ザ―…

スマホから聞こえる耳障りな雑音には聞き覚えがあった。
美緒先輩からかかってきた時に先輩の声に被さるように聞こえていた、あの雑音だ。

遙斗

……

美緒

私も色々な所へ
かけたわ

美緒

でも通じたのは
佐上君だけ…

ポツリと言った先輩が再び俺に抱きつくようにして、しがみついてきた。

美緒

私…家に帰る途中で壊れた
街灯の下を歩いていたの

美緒

そうしたら誰かに暗い所に
引きずり込まれて…

美緒

それで気が付いたら
ここにいて…

美緒

どんなに歩いても別の部屋に行っても
どこまでも部屋が続いてて…

美緒

それで、私…

俺と同じだ…
俺も先輩を探していて壊れかけた街灯の辺りで何者かに足を掴まれ、闇に引き込まれた。

そんな馬鹿な…
あの時のことはハッキリと覚えてはいたが、あまりにも現実離れし過ぎていたので、俺の思い違いだろうと思っていた。
先輩がいなくなったこと、連絡が取れなくなってしまったこと、前に先輩から聞いていた話で、俺の脳みそが勝手に怪談仕立てに思い込んだのだろうと思おうとしていた。

けど、美緒先輩も俺と同じ経験をしたというのならば…


いったい、ここはどこなのか?
俺達が今体験していることは何なのか…?

馬鹿げているとさえ思える、この事実を受け入れるしかないのか?
これは現実離れした非日常的なことなのだと…

美緒

それに、ここには
"何か"いるの

そんなことを考えていると、美緒先輩が小さな声で言った。
まるで、その"何か"に聞かれるのを恐れるかのように…

遙斗

何かって…

遙斗

俺達と一緒で、ここに連れて
こられた奴じゃないっすか

美緒

……

敢えて明るく言って笑ってみたが、先輩はただ黙ったままだった。
ただ何かに怯えているように俺の服を強く掴み、手繰る。
先輩の尋常ではない様子に俺まで不安に捕らわれそうになる。
けど、ここで俺が暗い感情に負けてしまったら何もできなくなってしまう。

遙斗

大丈夫っすよ、先輩。
俺に任せておけば…

カラ元気を振り絞り言いかけた時だった。




ガサ…






遙斗

すぐ傍の引き戸の向こうで何かが動く音がした。




ガサガサ…





何か大きな影が引き戸の障子越しに見える。
何かが引き戸一枚を隔てた向こうにいる。

それが何なのかは分からない。
ただ分かっているのは、その音がただ人が歩いただけの音ではないということだけ。



ガサ…





何かを引きずるような音が更に近づいたような気がする。
引き戸のすぐ向こう、本当にすぐ近くにいる。
戸を開ければ手が届くだろう程の近くに…

遭ってはならない。
見てしまったら、たぶん終わる。
何故だか分からないが、そう思った。

遙斗

こっちだ!

直感にも近い感覚でそう思った瞬間、俺は美緒先輩の手を取ると、影の映る引き戸の反対側の戸を開けた。




















そこには今まで通ってきたのと同じような板張りの廊下だった。
廊下の片方は行き止まり、そしてもう一方は闇の中へと続いている。
その先がどこに行き着くのかは分からない。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。

遙斗

走って、先輩!

美緒

……

しっかりと手をつないだ先輩にほとんど叫ぶようにして呼びかけると、俺は先輩の手を引いて走り出した。
そして、暗い板間を走り、その先で曲がっている廊下を駆け抜ける。























美緒

…佐上君

俺に手を引かれたままで美緒先輩が俺の名を呼んだ。
不穏な物音を聞いた部屋を駆け出してから、もう何部屋過ぎただろう。
予想した通り、暗い廊下の先には薄暗い和室。
どこまでも似たような暗くて広い空間が続いている。

美緒

ダメよ、佐上君!

美緒

もう…ダメ…

その声に、俺は廊下の真ん中で立ち止まる。

遙斗

無理させて、
すんません

遙斗

けど今は…

逃げるしかない…と言いかけた時…



ガサ…





廊下の右側に並ぶ引き戸の方から、あの音が聞こえてきた。

美緒

っ!

怯えたように息を飲んだ先輩が俺の手を強く掴む。

先輩が言っていたダメという言葉は、もう走れないという意味ではなく、今、引き戸の向こうにいる"何か"から逃れられないという意味だったのか…

遙斗

こっち!

音のする場所とは反対側にある引き戸を開けて走り込む。

















視界に現れたのは今までに通ったのと同じような和室。
その広い和室を過ぎ、その奥にある引き戸を開ける。












そこに広がっているのは、やはり今までと同じような両側に引き戸の並んだ薄暗い板張りの廊下。

どこまでも際限なく続く和室と廊下の連続。
それでも足を止める訳にはいかない。

美緒

もう無理よ…

低く囁くような声で美緒先輩が言った。
その声に立ち止まり先輩の方を見ると、彼女は俺がつないだ手と反対の手で自らの肩を抱くようにして立っていた。

かなりの部屋や廊下を走り抜けたというのに美緒先輩は息切れもしていない。
その様子を見ながら意外にもスポーツ得意少女だったのかもしれないなどと場違いなことを考えた。

遙斗

無理じゃないっす

遙斗

諦めたら、そこで
終わりっすよ

自分でも、らしくないことを言って笑って見せるが、先輩はうつむいたままだった。

遙斗

とにかく、今は
ここから外に出て…

言いかけた言葉が止まる。
微かに何かが聞こえたような気がした。



ガサ…





俺が向かおうとしていた通路の先から、こちらの方へと近づいてくるような微かな物音。



ガサガサ…





美緒

もうダメ!

先輩が叫んだ。

遙斗

ダメじゃない!

怒鳴るようにして言い返し、先輩の手を引くと、俺は音が聞こえている正面の廊下を避け、左側の引き戸へと向かった。

そして、勢いよく戸を開け放つ。



















遙斗

走れ!

乱暴な言葉遣いになっていることに気付きながらも、俺は先輩の手を引いて駆け出した。





















そこに続くのはさっきと同じような暗い廊下。

得体の知れな"何か"は間違いなく俺達を追っている。
だけど見たら終わる。
何故だか分からないが、その確信があった。

美緒

ダメよ、もう…

俺に手を引かれたままで先輩が言う。

遙斗

ダメじゃない!

反射的に言い返し、廊下を駆け続ける。

美緒

だって、もう…

遙斗

大丈夫だ…

"何か"の音を逃れて、どれだけ走っただろう。

美緒

もうダメだよ…

遙斗

ダメじゃ…

言いかけた言葉を飲み込んだ。
どんなに開けてもきりのない引き戸。
どこまでも駆け続けても続いている暗い廊下と、その先に広がる和室。

もし、あの物音の主と出会ってしまったら、俺達はどうなるのだろう。

不意に死という文字が脳裏に広がる。

だけど諦める訳にはいかない。何としてでも先輩と一緒にここを出る。
諦めずに戸を開け続ければ、必ず外へと続く道があるはず…

美緒

本当に…

ポツリと先輩が言った。
本当にダメだと言おうとしたのか。
偶然にも俺が考えていたことと内容が重なっていた。




 ……本当に………?





本当にそうなのか?

ここに来てから、どれくらいの部屋を過ぎた?
幾つの引き戸を開け放って来た?

それなのに、一度も開いている引き戸には出会わない。
それは延々と続く一方通行の道を何処までも駆け続けているからじゃないのか?

美緒

もう…ダメだよ

何度目かの先輩の声が聞こえた。

遙斗

もう…ダメなのか?

走り続けて息が苦しい。
足もどんどん重くなってくる。
終わりのない逃亡を続けるよりも、あの音の前に姿を晒した方が楽になれるんじゃないのか?

美緒

もう…

遙斗

…そうかもしれない

後ろから聞こえる先輩の声に走る速度を緩め、小さく呟く。

遙斗

これ以上は、もう
無理なのかもしれない…

おそらく次の和室か廊下に続いているのだろう引き戸に手をかけたところで立ち止まり、そう言った。

美緒

……

遙斗

…けど

先輩の方を振り返ると、美緒先輩は何とも言えない表情で俺を見ていた。
その顔を見て俺は決意する。

遙斗

俺は絶対に先輩と一緒に
ここを出ますよ!

自分自身に言い聞かせるように敢えて強い口調で言った。

我ながら、いつでもいい加減で調子のいい自分の言葉とは思えない。
けど、たぶんここは格好をつけておく場面だ。

遙斗

だから一緒に
がんばりましょう

美緒

……

無理に笑って言った俺の言葉に先輩は黙った。
ただでさえ疲れ、怖がっている先輩に、これ以上の無理をさせるのは正直辛い。
けど、今言っておかなければ後悔する。
そう考えて敢えて口に出して先輩に告げた。



ガサ…





遙斗

ロクに格好をつける暇もなく、右手の方の引き戸から、またあの音が聞こえて来た。

遙斗

先輩、早く!

立ち尽くしたままの先輩に声をかけ、俺は手をかけていた戸を力いっぱい開け放った。

















遙斗

!?

その部屋は今までの部屋とは違っていた。

ただの広いだけの和室ではなく、床は板の間で部屋の奥が床の間になっている。
そして、床の間の壁には鞘にしまわれた刀のような物が飾られていた。

遙斗

やった!
武器だ

真剣を扱ったこともなければ剣道のたしなみなんてなかったが、棒状の武器があれば俺達を追っている"何か"に立ち向かうことができるかもしれない。

すぐにも床の間に向かうと刀台にかかっている刀を手に取った。
ずっしりと手にかかる重さから、中身は本当に金属だと分かる。

遙斗

こいつがあれば
何とか…

言いながら左手で刀の鞘を持ち、右手で刀の柄を掴むと、ゆっくりと鞘から引き抜いた。








鞘から現れたのは重い金属製の刀だった。
これがあれば、もしかしたら何とかなるかもしれない。
実戦はおろかケンカもほとんどしたことなんてなかったが、能天気にそう思った。

遙斗

先輩、これで大丈…

そう言いかけた瞬間、手の中にあった刀の刃が、まるで砂が崩れるようにしてボロボロと崩れ去っていく。

遙斗

……………

あまりの事に声が出ない。
ようやく手に入れた武器だったのに…

遙斗

何で…

一瞬、希望が見えたからこそ武器を失った絶望は、より大きかった。

遙斗

何でだよ…

全身の力が抜けて、思わず、その場にへたり込む。
本当はとっくに気づいていた。
ずっと走り続けていた足はとうに疲れ切っている。
これ以上走るのは無理だと身体はずっと告げていた。



ガサ…





音がする。
部屋の左にある引き戸の向こう側から…

美緒

終わり…ね

俺の側に俺と同じようにしゃがみ込んだ先輩がポツリと言った。

遙斗

先輩!

刀の鞘を握ったままでとっさに、すぐ側にいる先輩を抱きしめた。
ずっと走り続けていたというのに、先輩の身体は相変わらず冷えたままだった。

先輩を助けたかった。
そのつもりで捜していたのに…

遙斗

まだだ…

何の確証もないのにそう言った。

遙斗

まだ終わらない。
先輩と一緒に、ここを出るんだ

言葉と裏腹に心に広がっていくのは絶望…



ゴソリ…





その時、部屋の右側の引き戸の方からも何かが動くような物音が聞こえてきた。
まさか両側から…

正面は刀の飾られていた床の間、背後は俺達が入ってきた廊下。
左側の引き戸からは、ずっと俺達を追っている物音が、右側からは新たな物音が聞こえている。
もはや、これ以上どこへも進みようがない。
前にも後ろにも、右にも左にも…



ゴソ…





後から聞こえてきた右側の引き戸がわずかに震える。
まるで何者かが、こじ開けようとでもしているかのように…

美緒

……

先輩が俺の服をきつく掴む。

今にも開こうとする引き戸を、俺はただ黙って見ていることしかできなかった。

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