僕は小屋を飛び出しいってしまった
シーラの姿を探した。

そして洞窟の奥、
デリンと戦ったフロアの片隅に
彼女の姿を見つけた。



土を盛ったお墓らしきものの前に座り込み、
大泣きしている。

なんて声をかけていいか分からない……。
 
 

アレス

シーラ……。

シーラ

うっ……うぅ……。

アレス

このお墓、
きっと手紙に書いてあった
サララって子が
作ってくれたんだろうな……。

シーラ

う……う……。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

結局、僕は声をかけることができず、
シーラを見守ることしかできなかった。

それからどれだけの時間が経過したのか
分からない。




でもシーラの様子が少し落ち着いて
寄り添ってあげながら洞窟を出た時には、
すでに夜になっていた。

とりあえず今夜はウェンディさんの小屋に
泊まらせてもらうことにする。


これからリパトの町や
シーラの故郷の村へ移動するのは
無理だと思ったから。

ウェンディさんとの思い出が詰まった
この小屋で過ごすのは
彼女にとってツライかもだけど……。
 
 

シーラ

…………。

アレス

シーラ、ご飯ができたよ。
一緒に食べよう。

シーラ

……食べたくありません。

アレス

でも食べないと体に良くないよ?

シーラ

アレス様だけでどうぞ……。

アレス

シーラ……。

 
 
シーラは食事には見向きもせず、
ベッドに横になって布団を被ってしまった。

仕方ないので食事は片付けることにする。


シーラがこんな状態じゃ、
僕だって心配で食事が喉を通らないもん……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 

アレス

……ん?

 
 
深夜、僕は何かの物音に気付いて目が覚めた。

小屋の中は真っ暗だけど、
窓から差し込む月や星の光のおかげで
辛うじて周囲が目視できる。


よく目を見開いてみると、
シーラはベッドで上半身を起き上がらせ、
無言のままぼんやりとしていた。
 
 

アレス

シーラ、
相当ショックだったんだね……。

シーラ

……ウェンディ様……
会いたい……もう一度、
会いたいです……。

シーラ

ふふ、私も死ねば……
あの世で会えますよね……。

 
 
その瞬間、
彼女の手に握られているナイフが
月の光を反射してきらめいた。


切っ先はシーラの喉に向いている!
 
 
 
 
 

アレス

ダメだよっ、シーラ!

 
 
 
 
 
僕はその場から飛び起き、
シーラの手からナイフを奪い取った。


ちょっと僕の手が切れちゃったけど、
この程度の傷なんてどうでもいい。
とにかくシーラが無傷で良かった……。



一方、シーラは僕の方をボーッと見て
瞳に大粒の涙を浮かべている。
 
 

シーラ

……う……あ……。

アレス

シーラ!
なんてバカなことをっ!

シーラ

バカなことじゃないっ!
私はウェンディ様に
会いに行くのっ!
邪魔しないでっ!

アレス

っ!?

 
 
いつもは丁寧な言葉遣いのシーラが
感情のままに声を荒げていた。


ビックリして怯んでしまったけど、
僕だって引き下がることなんてできない。
だってシーラは自分で死のうとしたんだもん!

そんなの……絶対に嫌だから……。
 
 

アレス

死んだらそれまでだよっ!
それにこんなことして
ウェンディさんが喜ぶと思うのっ?

シーラ

喜んでくれるっ!
きっとあの世で
寂しい思いをしているからっ!

アレス

それは違うっ!
シーラはウェンディさんの気持ちを
無視する気なのっ?

シーラ

どういうことっ?

アレス

手紙に書いてあったでしょ?
これからも僕を助けていけって!
死んじゃったらそれはできないよ?

シーラ

アレス様にはたくさんの
仲間がいるじゃないですかっ!
私ひとりががいなくなっても
大丈夫ですよっ!!!

アレス

大丈夫じゃないっ!
僕にはシーラが必要なんだ!
これからもずっと!

シーラ

っ!?

 
 
僕は意を決し、
今まで胸の中に秘めてきた想いを口にする。


だってシーラは……。
 
 

アレス

僕はシーラのことが好きだから。
シーラがいなくなったら
僕は今のシーラと
同じような気持ちになっちゃうよ。

アレス

そんな仕打ちをする気なの?

シーラ

う……あ……。

 
 

 
 
僕はシーラを優しく抱きしめた。
温かさといい匂いが伝わってくる。

心臓の鼓動はどんどん早くなる。



きっとシーラは僕のドキドキとか
想いとか体温とか息遣いとか、
全部感じ取っていると思う。

ちょっと照れくさい……。



でもそれでいいんだ。
僕の気持ちが嘘じゃないって
気付いてもらえるから。
 
 

アレス

楽しいことも苦しいことも
そして悲しいことも。
2人で一緒に分かち合っていこうよ。
僕の心は全てシーラのものだ!

シーラ

あ……。

アレス

だからシーラの心も
僕に預けてくれないか?

シーラ

う……うぅ……
ズルイですよ……アレス様……。
こんな時に……。

シーラ

そんなことを言われたら……
私……
死ねないじゃないですか……。
断れないじゃないですかぁ……。

 
 
シーラは全身を震わせながら泣いていた。

そして僕のことを強く抱きしめ返してくる。
彼女の鼓動も僕の肌を通して伝わってくる。


すごく速くて熱くて、なんだか愛おしい。
 
 

アレス

だって僕、
シーラに死んでほしくないもん。
ずっとそばにいてほしいもん……。

シーラ

アレス様ぁ……。

アレス

もう“様”は付けないで。
呼び捨てにしてほしいな。

シーラ

うん、アレス……。

アレス

シーラ……。

 
 
僕たちは月明かりの下で見つめ合い、
キスをした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
数日後、僕たちはリパトの町に戻った。

そして入口のところで待っていると、
クレアさんが転移魔法でやってくる。
 
 

アレス

クレアさんっ!

クレア

……その清々しい顔。
アレスもシーラも
どうやら吹っ切れたみたいね。
安心したわ。

アレス

クレアさんはウェンディさんが
亡くなっていたこと、
知っていたんですか?

クレア

さぁね。
私、平界のことには
あまり興味がないから。

 
 
クレアさんはこんなことを言っているけど、
きっと知っていたんだと思う。
その上で事前に僕にアドバイスをくれたんだ。


つまり僕とシーラの絆を信じて、
全てを任せてくれたということ。

クレアさんらしいな……。
 
 

クレア

じゃ、転移魔法を使うわよ?

アレス

はいっ!

シーラ

お願いしますっ!

 
 
シーラは僕の腕に
しっかりとしがみついている。

そんな彼女に僕は目を合わせ、微笑みかけた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
グラドニアに戻ったら、
僕はシーラと一緒に
クリスくんに“あの決意”を伝えようと思う。



それはウェンディさんの小屋にいた時、
シーラとふたりで決めたこと。
きっとクリスくんなら賛成してくれるはず。


万が一、反対されても賛成してくれるまで
何度でも頼み込むつもり。

だってそれがシーラの望みだから。
僕は彼女と一緒に歩いていくって決めたから。






――えっ? “あの決意”とは何かって?




それはまだ秘密っ♪

いつかまたどこかで
僕たちの冒険の話をすることがあったら
その時にねっ!



さよならは言わない。
だって『さよなら』なんて、
もう二度と会えないみたいじゃないか。

だからこそ、
代わりにこの言葉をみんなに贈りたい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アレス

またねっ!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
※以下は2016年11月のサービス終了に伴い、
書いたものです。
気持ちだけ受け取ってくださいませ~っ!


サービスが継続になったので、
お話はまだまだ続きますっ!
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
長い間、たくさんの方に
応援いただきありがとうございました。



ストリエさんのサービス終了に伴い、
これにて『勇者様はレベル1』は
一区切りとさせていただきます。



まだまだ描きたいお話や今後の展開も
たくさんあります。
ストリエさんが続いてくれるのなら、
続けて書いていきたいのですが……。



いつかどこかで公開できる日が来ることを
願っています。
 

みすたぁ・ゆー

  

pagetop