勉強でどうやって差をつけようかと考えて数日が過ぎた。

その日の5時間目は、ステップアップの時間だった。

うちの学校はステップアップなんてオシャレな名前にしているけど、やってることは学級活動だ。

委員ごとに集まって話し合ったり、ペア組んで勉強したり、クラス会の計画立てたり、まあ、普段の授業でできないことをやる。

そんな時間だった。

ざわつく教室の中、今日はペアで勉強をする時間だと担任から告げられる。

ペアはくじ引きで決まる。

くじを引いたあと牧や千裕を見るけど、違うらしい。

既に別の人とペアを組んでいた。

誰だろう。周りをキョロキョロするあたしに、後ろから声がかかる。

三宮くん

松崎さん

絢香

あ、もしかして

三宮くん

うん。
今日のペア僕だから

そこにいたのは、いい体格の三宮豊くんだった。

勉強はできる方だったと思う。

ついでに体育もそこそこだったと思う。

人望もそこそこ。

そんな印象の男の子だ。

ただちょっと、変わっている。

というか、自信なさげ。

そんな、三宮くん。

絢香

あ、そっか。
よろしくね

三宮くん

きっと松崎さんの足引っ張るだろうけど

絢香

そんなことないよ

三宮くん

いや、そうなったらごめんね

絢香

大丈夫大丈夫。
逆にあたしがかもしれないし

三宮くん

それはないよ

絢香

まあ、とりあえず、頑張ろうね

三宮くん

うん。
よろしく

自信ない発言はしていたもの、二人でやってみれば、どちらも質問もせず、時間が過ぎていき、結局最初と最後の挨拶だけで終わってしまった。

なんだ、あたしはそんなに取っ付きにくいの?

放課後、帰ろうとしていたあたしに、千裕が声をかける。

千裕

絢香、今日帰りちょっといい?

絢香

私は構わないけど、教室で待ってたほうがいい?

千裕

今微妙だから帰り、いつものところで

絢香

勉強して待っとくから、ゆっくりでいいよ

千裕

泰明には俺が言っとく

絢香

あたしもメールで入れとく

そう言って千裕は部活に走っていく。

あたしは先に泰明にメールを入れておく。

友人同士で変な誤解とか、めんどくさいし。

一応、あたし泰明の彼女だし、泰明以外の男子と二人っきりに自発的になる時は、連絡する。

当然のように、了承のメールが来て一安心。
あたしは、帰る準備をして、いつものお店に向かう。

勉強して待っていると、19時半過ぎに千裕はやってきた。

トレイにはコーヒーとハンバーガー。

絢香

そんで、何?

千裕

悠美の事なんだけど

絢香

なんか聞いた?

千裕

あの机、お前がやったんじゃないかって、噂をちょっと

絢香

うーん。
ほかにも変な噂流れてるしね

千裕

記録はとってる?

絢香

2人であってる時は必ず

千裕

携帯は?

絢香

スクショも保存もしてる

千裕

じゃあ、大丈夫か?

絢香

それで、大丈夫じゃなかったら、私もびっくりだわ

千裕

……もし、泰明が変なこと言っても、気にすんなよ

絢香

何言ってんの。
泰明が変なこと言うわけないじゃない

千裕

ならいいんだけどさ

絢香

変なのー

千裕

俺は、何があっても味方だから

絢香

何かないようにするのがあたしの役目です

千裕

まあ、もしもの時だよ

絢香

……わかった


もしもなんて来るはずないって、思っていたあたしは、高校生活を舐めすぎていたし、考え方が幼かったんだと思う。

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