第2チームのシャトルランが始まる。

悠美は3レーン向こう側だった。

悠美もあたしも同じタイミングで走るからには、何かしらの意図を持って走るはずだ。

悠美は多分あたしに負けるわけにはいかない。

あたしは、今日の朝のことで負けるわけにはいかない。

微妙な緊張感があたしと悠美の間に流れる。

先生の開始の合図とともに、走り始めるあたしたち。

身体能力で負けるわけがない。

あたしの周りにいるのは、身体能力上位の男子だ。

小さい頃から鍛えられている。






負けるつもりなど毛頭なかった。

楽勝で勝てると思っていた。

しかし、悠美も強かった。

10回繰り返したところで、女子は半分になっていた。

女子の平均に達したところでもう半分いなくなった。

最後は、あたしと悠美の二人になった。

途中までは、互いに互いを見る場面もあったが、もう、そんな余裕はなくなった。

意地の張り合いみたいになったけど、僅差であたしは勝てた。

勝ったはいいけど、これは……

あれは、途中で余裕の時にやめればよかったね

絢香

あんなについてくるとは思わなかった

データ上では全然負けてるんだけどね

絢香

あれも意地なのかしら

意地でしょうとも

絢香

あー、もう!

絢香

さらっと勝って、眼中にないから朝のことは関係ないよってしたかったのに!

してやられたね

絢香

総合はどうなってるの?

1位はあなたで、次点で悠美ね

絢香

そっちも僅差?

いや、頭一つって感じだけど

絢香

印象的にはさっきのが強いよね

次はどうするの?

絢香

勉強かな?

そっちなら大丈夫じゃない?

絢香

それを願うわね

体育が終わり着替えながら反省会。

やられた。悔しい。

悔しいで終わればいいのだけれど。

更衣室を出ると、ちょうど泰明に会った。

その隣には、幼馴染の長嶺和博がいた。

長嶺

お疲れ様!

長嶺

南波に押され気味?

絢香

総合ではダントツですー

長嶺

そ、頑張ってんじゃん

えっと、この人は長嶺君でいいのよね?

じゃれあっていると牧がちょっとごめんねと聞いてくる。

そうか、牧と和博は初対面か。

絢香

そうだよー。
長嶺君とは生まれた病院からの仲です

長嶺

俺が先に空気に触れました

絢香

その10分後に私が空気に触れました

へー。
そんなことあるのね

長嶺

俺、早産だったから

あ、それは知ってる。
調べたから

絢香

それって、なんかためになる情報なの?

いや、情報集めてたら長嶺君の早産話が多かった

長嶺

俺ってそんなに早産インパクトあんのかな?

泰明

結構みんな健康体で生まれてるからだろ

絢香

泰明は、絡まってたんでしょ?

泰明

それでも、生きてんだから人間てすごいよな

絢香

突然いい話にしないでよ

次が授業もなくてお昼のご飯なので、ゆっくりしながら帰る。

このなんの変哲もない時間が、かけがえのない時間だったことに気がつくにはあたしはまだ、幸せの少女すぎたのだと思う。

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