落書き事件から3時間。

授業を受けながら、あたしは思った。

もしこれ、あたしのせいになったらたまったものじゃない。

でも、現状あたしが一番怪しい。

とみんなは思っている。ハズ。

だって、他に悠美に嫌がらせする理由がある人他にいないもんね。

黒板に書いてある文字を真剣に写す振りをしながら、全然別のことに真剣になるあたし。

田島くんの言う通り、確かにみんながどう思うかだしね。

困ったことに、この高校での新しい友達はほとんどいないし、周りが男ばっかりってのも、あまり心証は良くないだろう。

そこに、あの事件だ。

ほーう。困ったぞ。

これは、ちょっと誰かに手を貸してもらうしかないかしら?


4時間目は移動教室だ。

これは都合がいい、とあたしは着替えを持ってお目当ての人に特攻する。

絢香

まきー

なにー

牧は、荷物をまとめながら返事をする。

調べ物は牧に頼むのがいい。

何せ序列役員だ。情報通だ。

絢香

ちょっと、頼みごといい?

いいけど、多分頼むまでもないと思う

カンのいい牧は、こっそりメモ用紙を渡してきた。

手で握り、服の中に隠す。

絢香

ほんと?!

うん。
だいたい調べはついてるし、まかせて

絢香

ありがたーい

じゃあ、詳しいことは帰りがけでも

絢香

ほんとありがとう

教室を移動しながら話す。

友達にこんな真似ってあまりさせたくない。

絢香

私、牧にあんまりこういうこと頼みたくないんだよね

適材適所だよ

絢香

申し訳ないっす

その気持ちだけで嬉しいから!

絢香

よかったー。
いい友達持ったよ

こんなことになって牧に頼るのはほんとに心苦しい。

でもそれを嫌な顔しないで助けてくれる友達がすごくうれしかった。

体育の時間は、体力テストだった。

男女別で行われる体力テストは、学年でやると意外と時間かかる。

待ち時間はもっぱら男女ともに見学会になる。

それは別にいいのだけど、やはり、見られながら走るのと見られず走るのでは、恥ずかしさが違う。

絢香ちゃんて、50m何秒だった?

絢香

今年は6秒5だった

はやーい。
あたし9秒8だよ

絢香

だいたい10秒ね

砲丸投げなら結構いったよ

絢香

何メートル?

5メートル

絢香

ちなみに去年は?

肩を痛めたのに、1メートル

絢香

逆に尊敬するわ

そういえば、泰明くんと千裕くんて、結局どっちが運動できるの?
データ上は本気でおんなじくらいなんだけど

絢香

えー、難しいなぁ。
向き不向きかな?

どんな感じ?

絢香

例えばね

男子の方を見れば、ちょうど50mそうだった。

レーンには5人ほど並んでおり、その中に噂の2人もいた。

ピストルの音とともに走り出す二人。

初めにゴールを切ったのは泰明、次に僅差で千裕。

はやいねー

絢香

多分800m以下なら泰明だけど、800mこすなら千裕だろうね

そうなの?

絢香

うん。
なんでも短時間勝負なら、圧倒的に泰明だと思う

泰明くん、持久走とか弱い感じなの?

絢香

堪えられないんだよねぇ

絢香

それでも、一般よりは全然上だけどね

先生が次の種目をはじめるように指示を出す。

立ち上がったあたしたちは、シャトルランの説明を受ける。

二人ペアになり、片方がやっているときはもう片方が記録を取るということだった。

ちょうど近くにいたあたしたちはペアを作る。

悠美たちは、いつものグループでペアを分けていた。

シャトルランどうする?
絢香ちゃん先やる?

絢香

どうしようかな

悠美ちゃんは、後にするみたいだよ

絢香

じゃあ、私もあとにする

やっぱり、やり返すんだ

絢香

違うわよ。
眼中にないわよって知らしめるの

どっちでもいいけど、わかった。
先にやる

牧はヘトヘトになりながらも女子の平均回数はやっていた。

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