アスター・エーデルシュタイン

……アンタには感謝してる

アスター・エーデルシュタイン

姉さんを助けてくれたことを

ナルシス・エーデルシュタイン

私は何もしていない。手術を施したのはシャンブルだ

アスター・エーデルシュタイン

けど、シャンブルに手術をさせるには相当額の金が必要だろ?

アスター・エーデルシュタイン

2年くらい前だっけ?エーデルシュタイン家が数千万という大金を動かして自らの土台を削り出したって噂を聞いたんだ

アスター・エーデルシュタイン

裏社会にも顔をよく出しているもんでね、こういった表に出なさそうな噂話も耳に入ってくるんだよ

ナルシス・エーデルシュタイン

耳にしたも何も、お前は事の顛末を知っているだろう?

アスター・エーデルシュタイン

まあね。でも、身内として聞くのと部外者として聞くのとでは大分印象は変わってくる。なにせ、そのエーデルシュタイン家の投資は具体的な投資先や理由が一切流れてこなかった。色んな尾びれがついてたよ

アスター・エーデルシュタイン

まぁ、名士で知られるナルシス・エーデルシュタインが孤児院から引き取った養子の手術のために多額の金を闇医者に支払ったなんて、とんでもないイメージダウンになっちゃうしさ。俺は何も流してないから安心して

ナルシス・エーデルシュタイン

何か下手に流したら、自分の素性がバレてしまうからな、アスター・クライノート

ナルシス・エーデルシュタイン

3年前、宝石商界に突然現れた鑑定士。車いすに乗りながらも天才的な鑑定眼で一気に名声を得、裏社会とも通じる鑑定士

ナルシス・エーデルシュタイン

そんな男がエーデルシュタイン家の養子だと知られたら、どうなるだろうな?

アスター・エーデルシュタイン

…………

ナルシス・エーデルシュタイン

少なくとも顧客は明確に減りはしないさ。だが……

アスター・エーデルシュタイン

……顧客が俺を見る目が一変する

ナルシス・エーデルシュタイン

それが嫌だから、偽名であるクライノートを名乗っているのだろう?エーデルシュタイン家から逃れるために

アスター・エーデルシュタイン

……なんで知ってるのか知らないけど、おおよそ正解だよ。ただ、最後は間違ってる

アスター・エーデルシュタイン

エーデルシュタイン家から逃げるためじゃない、エーデルシュタイン家にこれ以上借りを作らないためだ。家名がなくても自分や姉さんを守れるために、俺はエーデルシュタインを捨てたんだ

ナルシス・エーデルシュタイン

……ほう

アスター・エーデルシュタイン

まぁ、実際エーデルシュタイン家のことは嫌ってたよ。理由は、アンタには分からないだろうけど

ナルシス・エーデルシュタイン

……エーデルシュタイン家というだけで自分を見る目が一変する

ナルシス・エーデルシュタイン

大貴族であるエーデルシュタイン家の養子と聞けば、誰もが畏怖し、委縮するだろう。下手に機嫌を損ねたら家ごと潰されかねないからな

アスター・エーデルシュタイン

……なんで分かるの?

ナルシス・エーデルシュタイン

自分しか分からないなどと過信するな。お前と同じ境遇を私も受けている。分からないはずがあるまい

ナルシス・エーデルシュタイン

対等な友人を作ろうにも畏怖され、親が定めた相手としか結婚することができない。大貴族であれ小貴族であれ、家名はいわば呪いだ

ナルシス・エーデルシュタイン

だが、子供にそれを押し付けるのはさすがに酷だったか

アスター・エーデルシュタイン

…………

ナルシス・エーデルシュタイン

お前が出奔してすぐに連れ戻せと母から言われた。なのに、私は3年もお前を放置した。なぜか分かるか?

アスター・エーデルシュタイン

……いいや

ナルシス・エーデルシュタイン

お前達には自由に生きてほしかったからだ。呪いに縛られることなく、自分達のやりたいことを好きにやってほしかった

ナルシス・エーデルシュタイン

縛られるのは、血の繋がっている親だけで十分だ

アスター・エーデルシュタイン

……矛盾してるね

アスター・エーデルシュタイン

一番縛りの強いエーデルシュタイン家に養子として迎えておきながら、自由に生きてほしいなんて

ナルシス・エーデルシュタイン

束縛を全否定はしていないさ。クネート・グミ孤児院から引き取った君達をまっとうに育てるには、逆にエーデルシュタイン家くらいしっかり守ってくれないとダメだった

ナルシス・エーデルシュタイン

……まっとうに育たなかった子供もいるようだが

アスター・エーデルシュタイン

ほっとけ!

ナルシス・エーデルシュタイン

まぁ、そんな息子も姉を想う心を忘れていない。結局全員まっとうに育ってくれたということだ

アスター・エーデルシュタイン

…………

アスター・エーデルシュタイン

ここ最近さ、この家を出て感じたことがあるんだ

ナルシス・エーデルシュタイン

なんだ?

アスター・エーデルシュタイン

人ってさ、住むところが無くなっても生きていくことは可能なんだ、生きていくための支えがあれば。

アスター・エーデルシュタイン

けど、その支えが亡くなってしまったら、たとえ住むところがあっても人は死んでしまう。……姉さんが怪盗シャムロックになってから、より実感したよ

ナルシス・エーデルシュタイン

住むところがエーデルシュタイン家で、支えはクリエということか。本当に姉のことが好きなんだな

アスター・エーデルシュタイン

……怖い表現使わないでよ。ただ、姉さんは唯一の肉親だから

ナルシス・エーデルシュタイン

そうだな、お前とクリエは血が繋がってる分他の子供達よりも絆が強い。私達よりも、よっぽど家族として成立している

ナルシス・エーデルシュタイン

……だからこそ、お前は私に懐かなかったのかもな

アスター・エーデルシュタイン

言ったろ、アンタには感謝してるって。アンタがいなければ今頃は姉さんも俺もここにいなかったかもしれないんだ

アスター・エーデルシュタイン

今更だけど、なんでアンタがクネート・グミ孤児院解散に手を出したの?いずれは経営不振で取り壊されるのは分かってたはずなのに。貴族としての点数稼ぎのつもりだったの?

ナルシス・エーデルシュタイン

子供が欲しかったから、じゃダメか?

アスター・エーデルシュタイン

いや、無理があるでしょ

ナルシス・エーデルシュタイン

まぁ、お前の言う通り点数稼ぎも理由にはある。こちらは稼ぐどころか母から大目玉を食らってしまったが

ナルシス・エーデルシュタイン

同時に子供が欲しかったというのも本当だ。政略結婚はご免被ると逃げ回っているせいで未だに妻がいない私だが、昔から子供は好きでな。密かに貴族の子供たちが通う保育院を訪問したりしていた。勿論、視察という名目でな

アスター・エーデルシュタイン

で、ついに魔が差してクネート・グミ孤児院の子供たちに手を出してしまったと

ナルシス・エーデルシュタイン

変な表現をするな。クネート・グミ孤児院のことを知ったのはたまたまだ。騎士たちが噂しているのを聞いたんだ、あそこの神父が子供たちを売買しているとな

ナルシス・エーデルシュタイン

点数稼ぎや子供ほしさというのもあったが、一番の動機は詰まるところ正義感だ。幼い子供たちを売る神父が許せなかった。未来ある子供たちの明日を閉ざしてしまう行為が

アスター・エーデルシュタイン

…………

ナルシス・エーデルシュタイン

アスター、敢えてお前に聞こう。私を恨んでいないのか?私が引き取ったせいでお前はエーデルシュタインの縛りを知ってしまった。たとえクリエが一緒だったとしても、お前は孤児院の暮らしの方が良かったと今でも思うか?

アスター・エーデルシュタイン

……何その質問。否定してほしいの?自分のしてきたことは間違いじゃないって

ナルシス・エーデルシュタイン

…………

アスター・エーデルシュタイン

正直さ、あまり記憶にないんだ。姉さんやザートや、仲のいい子供達と貧しいながらも騒がしく暮らしたなってくらいでさ

アスター・エーデルシュタイン

でも、アンタの話が本当なら、クネート・グミ孤児院はいずれ無くなってた。そうすれば俺は今も姉さんと一緒にいられなかったかもしれない。暮らしに不自由があるとかじゃない、「家族」を切り離さないでくれたことは素直に嬉しい

アスター・エーデルシュタイン

だから、ありがとう。……父さん

ナルシス・エーデルシュタイン

…………

ナルシス・エーデルシュタイン

ああ……こちらこそ

アスター・エーデルシュタイン

なんか、いつも悪いね。可愛げのない息子でさ

ナルシス・エーデルシュタイン

気にするな。そういう子供がたまに素直になってくれるから愛おしいんじゃないか

アスター・エーデルシュタイン

……本当にさぁ、よくそんな寒いこと平気で言えるよね

ナルシス・エーデルシュタイン

どこが寒いというんだ?

ザート・エーデルシュタイン

失礼します、アスター、ナルシス様

ナルシス・エーデルシュタイン

ザートか?どうかしたのか?

ザート・エーデルシュタイン

クリエがいなくなったんです!!

23ct  エーデルシュタインとして

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