将来の夢って持っていなきゃいけないんでしょうか?

真希

由乃ちゃん、由乃ちゃん

由乃

なんでしょう? 宮永さん

真希

由乃ちゃんの将来の夢ってなに?

由乃

夢、ですか?

真希

そうそう。ちなみに私はねー、幼稚園の先生!

由乃

あー、なんかピッタリな気がしますね

真希

幼稚園ならみんな私のこと小さいって馬鹿にしないからね! なにせみんな私より小さいし! うへへへへ。あっはっはっは!!

由乃

あ、あはは……

真希

それでー、由乃ちゃんの夢は?

由乃

………

真希

あれ? どうかした?

由乃

あ、いえ、ごめんなさい。私、夢とかそういうのって無くてあんまりそういったのとか考えたことないっていうか、なんていうか……

真希

え? じゃあなにしに大学行くの?

由乃

なにしに……なんでしょう? ただ私、本が好きなので本がいっぱいあるところに行けたらいいなーってそんな漠然とした感じで考えてて……

真希

なるほどー、そう言う人もいるんだね

由乃

なんか、すいません

真希

え? なんで謝るの? 由乃ちゃん別に悪いことしてないじゃない

由乃

でも宮永さんに比べて私ってなんて適当なんだろうって思うと、なんていうか申し訳なくて……

真希

ゆ、由乃ちゃん?

由乃

小さい頃からそうなんです、なんというかいつも誰かの後ろにくっついてばっかりでなんていうか主体性が無いというか、だから学校でもなんか孤立しがちで……

真希

お、おーい……

由乃

第一、私みたいな本の虫が隣にいること自体不快ですよね、すみませんなんかカビ臭くて、あ、でもこれは本が悪いわけじゃないんですよ、私が全部悪いんです。だから私は嫌いになって本のことだけは嫌いに……

真希

由乃ちゃん、帰ってきて!!

由乃

はっ!

真希

別に由乃ちゃんカビ臭くないよ?

由乃

気を使わなくても結構ですよ……自分のことは自分が一番わかってますから……

真希

もう、そんなこと無いのになぁ……新田君はどう思う?

な、なんで僕に話振るんですか。隠れてたのに……

真希

乙女の目はそう簡単に誤魔化せないんだよ!

由乃

どうせ新田さんも私のことカビ臭い女だって思ってるに決まってます!

そんなこと思ってないですって。それに、夢がないことなんて別に珍しいことじゃないですよ?

由乃

……本当ですか?

本当です。うちの高校でも適当に大学選んでる人多いですし

由乃

へぇ……

みんなそんなものです。夢があるから立派だとか夢が無いからダメだとかそんなこと決して無いんですよ

由乃

そ、そうでしょうか……

真希

ちなみに新田君はなにか夢あるの?

……あります

由乃

……どうせ私は生産性の無い生ゴミなんです。皆さんと一緒にいる価値なんてこれっぽっちもないおおきなおおきな生ゴミなんです……

真希

ああ! 新田君のバカ! もうっちょっと空気読んで!

ええ? 僕が悪いんですか? というか宮永さんが余計なこと聞かなきゃそれで解決だったんじゃ……

日野

どうしたんですか? 外まで聞こえていますよ? 自習室では静かに、ですよ?

あ、日野先生

日野

なにかあったんですか?

由乃

大丈夫です。ただ単純に私が無能なゴミクズだって判明しただけですから……あはは

日野

ゴミクズ?

真希

由乃ちゃん、自分の夢がない事で悩んでるみたいで

なんか突然スイッチ入っちゃってこんな感じというわけです

日野

なるほど……

真希

なんとかならないかな、日野っち

日野

私もしがない学習塾の講師ですからねぇ、学校の先生とは違いますし……

真希

そこをなんとか! 由乃ちゃんをこんなにしちゃったの私だし!

日野

そうですね……佐久間さん。一つ聞いていいですか?

由乃

こんなゴミクズの私でよろしければ……

日野

たしか佐久間さんは芦原大学の文学部を第一志望にしていましたよね?

由乃

はい。そうですけど……

日野

それはなぜですか?

由乃

えっと、芦原大学の図書館は大学図書館の中で一番の蔵書数だから……

日野

それが理由?

由乃

はい。私には本しかありませんから。まぁ、だからこんなカビ臭い本の虫になっちゃったんですけどね

日野

だったらそれでいいんじゃないでしょうか

由乃

適当なこと言わないでくださいよ。こんなふざけた理由で大学受験する人なんて聞いたことない

都会の女子大生とバラ色のキャンパスライフを送りたいとか言ってた人がいたことは黙っておこう

由乃

最近、勉強しながら思うんです。本当にこのままでいいのかなって。こんな適当なことで大学決めちゃっていいのかなって。みんなにはなりたいものがあって、その夢のために進路を選んでるっていうのに私は……

真希

な、なにこのいつにないシリアスな空気……なんかどっかの教育番組みたいになってるんだけど

元はといえば誰のせいですか

真希

え? 私のせい?

由乃

私だけ何もない。みんなと一緒に頑張る資格なんて私に無いんです……

日野

夢を持ってることってそんなに大事なことでしょうか?

由乃

大事です。大事に決まってます。その大事なことすら私にはできないんです……

日野

それって誰が決めたのですか?

由乃

それは……

真希

それは私です!

宮永さん、今結構真面目な話してますから

真希

ごめん、なんかこういうシリアスな空気に耐えられなくて……隙あらばふざけなきゃって頭の中の天使と悪魔が囁くの

どうなってんですか、頭の中

日野

んんっ、はい、ここで現代社会の問題です。こういうのも試験には出る場合があるのでチェックするように。宮永さん

真希

は、はい!

日野

日本の女性の平均寿命はいったい何歳でしょうか?

真希

え、えっと……大体80歳くらい?

日野

試験じゃ大体だと困るんだけど……正解は87歳。大体4択問題で出ることが多いからチェックしておくように

真希

くぅ、惜しい!

惜しいんですか?

由乃

それが夢の話と何の関係があるんですか?

日野

つまり君のこれからの人生は君が今まで歩んできた道程の4倍以上あるってことだよ

由乃

………

日野

道は長いんだ。だったらできる限り楽しい道を選んだっていいんじゃないかな? その道で出会ったもの、見つけたものを大事にしていけばいい。そうしたら自分のやりたいことなんて自ずと見えてくる

由乃

そうでしょうか? 本当にそうなんでしょうか?

日野

君は本が好きなんだろう? 好きなものがある人間は大丈夫。君の好きがいつか君の背中を押してくれる日がきっと来るはずですよ

由乃

はい……

日野

ま、好きなことをするためにはまずはしっかりと勉強して、自分の行きたい大学へ行ける学力を身につけることですね

真希

うっ……耳が痛い……

なんで宮永さんがダメージ負ってるんですか?

由乃

わかりました……私、とりあえず頑張ってみます!

日野

うん。頑張って!

由乃

はい! ありがとうございました!

日野

それじゃあ、僕は次の講義があるから。
みんな、頑張ってね

君の好きがいつか背中を押してくれる日がきっと来る……か

真希

なんか名言残していきましたな、日野っちは

とりあえず、僕たちも勉強しましょうか

真希

そだね。由乃ちゃん、なんかごめんね、変なこと聞いちゃって

由乃

いいんです。お陰でやる気、いっぱい出ましたから

真希

そ、そう? これは私も負けてられませんなー!

由乃

目指せ、第一志望合格! ですね!

真希

うん!!

私の好きがいつか夢になる日まで……
私、がんばります!

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