事件が起こったのは、それからすぐのことだった。

その日も、あたしは泰明と一緒に学校に行っていた。

階段を上がり、教室に近づくと何やら騒がしい。

教室の前まで行けば、その場でわかるほど、尋常じゃない騒ぎ方だった。

騒然としている教室。

喧嘩でもしたのかな、とのんきに考えていた。

そのまま、あたしが教室を覗くと、悠美が泣いていた。

驚いてドアの近くで傍観していた田島勇太に聞く。

田島くん

さあ、俺も学校来たらこうなってて。
静観してたんだけど

絢香

そうなの。
聞いてこようかしら

田島くん

ああ、松崎さんは聞いてきたほうがいいと思う

絢香

どういうこと?

田島くん

俺はそうは思わないけど、ほかのみんなは、いろいろ考えるんじゃないかな

絢香

田島くん

まあ、言動には気をつけたほうがいいんじゃない?

絢香

絢香

……わかった

気を引き締めて、悠美たちの近くにいく。

これなんかきっと、やばい。

やばい感じがする。

こんなの初めてすぎてどうしていいのかわかんないけど、これ、絶対なんかやばい。

心臓が、痛いほどなりながら、一番近くにいた翠ちゃんに声をかける。

絢香

どうしたの?

悠美の机に落書きがあって

机を見れば、油性マジックで

バカ

死ね

ブス

ひどい言葉が書いてあった。

絢香

なにこれ、ひどい

紫穂

……

悠美

悠美、なんにもしてないのにぃ

絢香

新しい机持ってくるよ

あたしの発言に怪訝そうな顔をするみんな。

絢香

まさか、この机で今日一日授業受けたくないでしょ

紫穂

……そうだけど

じゃあ、あたしもぉ、手伝うぅ

新しい机は、倉庫からもってこなければならない。

人手はあったほうがありがたい。

絢香

ありがとう

教室を出れば、何事かと一緒に登校していた泰明が見ていた。

泰明

何事?

絢香

誰がやったか知らないけど、悠美の机使えないから

泰明

手伝う?

絢香

碧ちゃん手伝ってくれてるから

泰明

わかった。
お前も気をつけろよ

絢香

うん

絢香

ごめん、碧ちゃん行こう

机を持って教室に戻ってくれば、不穏な空気が漂っていた。

当たり前だけど、犯人探しが始まっていた。

机を持ってきたものの、なかなか悠美の席まで行ける空気じゃなかった。

机を持ったまま立ち往生する。

誰だよ、こんなのやったの

悠美

もういいよ、翠ぃ。
あたし何かやっちゃたのかもだしぃ

紫穂

そうだよ、何かあるなら直接いいなよ。
こんなことしないで

紫穂とバッチリ目があった。
…え?あたしじゃないよ。

悠美

でも、もし何か言いたいことあるなら、誰でもいいから直接言ってぇ

悠美

悠美泣いちゃうかもだけど、ちゃんと聞くからぁ

ちらりとあたしに視線を送る悠美。
いや、だからあたしじゃないってば。

悠美

碧ありがとう。
絢香ちゃんもわざわざありがとう

そう言われてやっと、あたしは机を悠美の席まで持って行き、悠美の机を今度は廊下に持っていく。

時計を見ればもうホームルームが始まる時間だった。

倉庫まで持っていくには時間が足りない。

廊下に置いて昼休みにでも持っていこうと思い、そのまま教室に戻った。

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