その日の朝、あまり鳴らない私の携帯が音を立てた。

泰明

今日、ちょっと用事があって早めに学校に行くから一緒にいけない

絢香

はーい。
またお昼休みにー

少しの疑問を抱えながら学校までの道のりを歩く。

一人で学校に行くのなんて何年ぶりだろう。

今まで誰かしらと一緒に学校に行っていたから、不思議な感じだった。

すれ違うクラスメイトたちに挨拶しながら、教室に入ると牧が駆け寄ってくる。

絢香ちゃーん、
おはよー

絢香

おはよ。
今日早くない?

ちょっと、いろいろあってね

絢香

いろいろって?

まあ、役員関係のこと

絢香

あ、じゃあ、何も聞かない

助かるー

少し経つと、朝練が終わった人たちが教室に入ってきて、一気に人が増える。

ざわめく教室。

悠美と話をしたいとけど、なかなか悠美が学校に来ない。

昨日あんなことあったし、やっぱり休みなのかな。

千裕

絢香ー

絢香

なにー?
うわ、汗臭。
制汗剤ちゃんとやってきた?
剣道の防具みたい

千裕

そこまでじゃないだろ

絢香

ここでいいからやりなよ

千裕

ちぇー、絢香の為に急いだのにー

絢香

はあ?

千裕

ちょっと、聞きたいことあってさ

そう言いながら、あたしの机の近くで恥ずかしげもなく、服をまくりあげてシートで汗を拭う千裕。

もうシャツに匂い移ってるんじゃぁ……。

とか思ったけど、何も言わずに次の言葉を待つあたし。

千裕

初彼って、泰明だよな

絢香

他に誰かと付き合ってる隙が、私にあったかしら?

千裕

いや、ただの確認

絢香

何それ

千裕

そんでもうひとつ。
絢香って、昨日放課後牧と一緒だったよな

絢香

放課後は……
学校出て、踏切あたりまでは一緒だったけど

千裕

だよなぁ……

絢香

なんかあった?

千裕

いや、多分大丈夫だろ

よくわからないけど、大丈夫とくり返しながら千裕は席に戻っていった。

結局悠美はギリギリに登校してきて、それからなかなか時間が作れないまま、昼休みに突入した。

昼休みは、匠と拓也に、泰明のどこが好き?とか、何系の男が好きなの?とかやたら恋愛話をもちかけれ、ウザったくなったあたしが、キレた。

泰明

何キレてんだよ

絢香

だって、こいつら朝からずっと!
飽きずに泰明のこと聞いてくるの!

減るもんじゃないしー

絢香

恥ずかしいでしょ!
私が!

泰明

俺恥ずかしくねーもん。
嬉しいもん

絢香

もんとか言わないでよ、かわいい

あれだよね、泰明捕まえて可愛いとか言えるの絢香だけだよね

拓也

逆に、なんで本人はあんな堂々としてんの。
僕だったら恥ずかしいのに

千裕

愛だろ、愛

絢香

ほら!これ!
こういうの!
恥ずかしい!!

泰明

でも、実際、俺から告白だから
自信ねーんだよなー

絢香

えー、じゃあ、
一回別れて、
あたしから言う?

泰明

そういう問題じゃない

絢香

男子ってよくわかんない

ふと、悠美はあれから何も仕掛けてこないけど、昨日のあれはなんだんたんだのかしらと疑問が沸く。

だけど、みんなと一緒にいる時間が楽しくて、警戒心は薄れていった。

簡単に人を疑うのはいいことではない。

しかし、その日の5限の休み時間に、牧が私を空き教室へと連れ出した。

たのしい休み時間中ごめんね

絢香

いや、全然いいけど

多分、使うことはないと思うけど、これボイスレコーダーとペン型のカメラ

絢香

私持ち歩いてるよ?
自分の

あ、じゃあ大丈夫かな

絢香

まずい?

ちょっと、まずいかも。
悠美ちゃんたちが変な噂流してるし

絢香

そっか……。
なんとかしなきゃね

一応こっちでも気をつけとくけど、本人も気をつけといて

絢香

わかった

序列の世界では意外とこういう小競り合いって行われてて、高校生にもなってまたかと思った。

でも、考えてみれば高校生の方が自由に動けるから取れるものはとっておきたいということなのかしら。

これも実力のうちって、なんかちょっとおかしな世界ではあるけど、別にこんなの初めてじゃないし。

いつもみたいに、あたしたちがあたしたちなら、乗り越えられるって信じてた。


放課後靴箱にて悠美とばったり遭遇してしまった。

やっちゃった。

こっそりポケットに手を入れてレコーダーのスイッチを押す。

大丈夫かな、ちゃんとおせたかな。

ちゃんと録音できてるかな。

悠美

あ、絢香ちゃん

絢香

昨日ぶりー

悠美

今日全然話せなかったねぇ

絢香

紫穂ちゃんがすごい警戒してたもんね

悠美

悠美、前も嫌がらせ受けたことあるからぁ

絢香

そうなの?

悠美

うん。
悠美が高位なのが気に入らないってぇ

絢香

でも、私は悠美と一緒に高位になれたら嬉しいなー

悠美

ほんとぉ?

悠美

でも、悠美は一人だけ特別でいたいって思うんだ

絢香

え?

悠美

なんでもないよー

そう言って、悠美は走って帰っていった。

悠美の言った言葉の最後に、言い知れぬ恐怖を感じた。

おんなじ女の子なのに全然別の女の子になる瞬間がある悠美を、改めて警戒し始めた。

6時間目:不可解なこと

facebook twitter
pagetop