時間が止まったように誰も動かない時間が続く。

絢香

……

あたしと、悠美を交互に見つめたあと、紫穂は悠美に近づく。

紫穂と目を合わせようとしない悠美。

張り詰めた空気が、怖い。

紫穂

何かされた?

悠美

ううん。
なんでもないのぉ

紫穂

でもいま、悲鳴が

悠美

……と、突然虫が飛んできたのぉ

紫穂

窓、空いてないよ?

悠美

えっとぉ

紫穂

絢香ちゃんに何かされたの?

悠美

ち、違うの!
絢香ちゃんはなんにもしてない!
悠美が、悪いん、だよぉ……

紫穂

……そっか。
あたしの気のせいか

悠美

うん!
なんにもなかったよぉ。
お話してただけぇ

紫穂

そうなの?
絢香ちゃん

絢香

うん。
お話してただけ

紫穂

……そう

悠美

もうお昼休み終わっちゃうねぇ

紫穂

教室戻ろっか

悠美

うん

そこまで言って初めて悠美が顔をあげる。

立ち上がって、スカートの埃を払う。

紫穂

ほら、絢香ちゃんも。
帰ろ

絢香

うん

促されるままに教室から出る。

教室までの道のりは……多分、過去最高に空気が悪かった。


その後、何事もなかったように、授業を受け今日あったことを牧にだけ話した。

それって、仕掛けられたってこと?

絢香

信じたくないけど、どう考えてもそうだよね

あんまりいい流れじゃないよね。
あと2週間切ってる時に

絢香

ほんと。
悠美がそんな子だとは知らなかった

やっぱ、あの南中で高位にいるってことは、それなりってこと?

絢香

中学差別良くないけど、確かにそうかもしれない

でも、なんでその時絢香がやったって言わなかったのかな?

絢香

私の立ってる位置が微妙だったとか?

なんとなく勢いで押し切れそうなシチュエーションのような気がするけど

絢香

そうなのよね

まあ、なんにせよ、気をつけるには越したことないね。
男どもには?

絢香

言ってない

言えばいいのに

絢香

なんていうか、あたしと悠美の問題だし

こんがらがっていうよりか今言っといたほうがいいんじゃない?

絢香

なんでもかんでも頼りたくないっていう、あたしのプライド?

じゃあいいけど。
最悪なことになる前になんとかしなよ

絢香

うん。頑張る

牧と別れ家にたどり着くと、ドッと疲れが出てくる。

高校生になって始めた一人暮らしは楽しいが、こんな時には気が滅入る。

相談するとかじゃないけど、帰ってきた家にご飯もなければお風呂も準備されてなくて、心はささくれ立つ。

そんな時には、テレビだって付ける気にならないし、誰かに電話したくもないし。

このまま眠りに就きたい。

絢香

……いや、とりあえずお風呂準備しよう

ダークサイドに落ちかけるけど、やっぱりお風呂は大切。

よし、頑張るぞっと、お風呂の準備をする。

お風呂にお湯を貼りながら夕飯の準備をする。

バタバタしていると、不思議と心が元気になってきた。

考えすぎて、ヘトヘトだったみたいだ。

野菜炒めを食べて、お風呂に入った時には、今日のことはなんとか自分の中で決着をつけることができた。

明日、悠美と話をしよう。

そう決意して、あたしは眠りについた。

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