【71】
























住所からいけばここ、かなぁ


ボクたちは1軒の店の前で
足を止めた。

ほら、早く入れ

え? 用があるのはそっちでしょ?

いいから!

……なにしてるの? そんなところで


店先で騒いでいる声が
聞こえたのだろう。
奥から少年が出てきた。

うひゃ!

買い取り?


少年は
女神が手にしている斧を見る。

生憎、僕は店番だからその斧がいくらになるかはわからないんだ。
じきに店主が帰ってくるから、それからでいい?

あ、うん。もちろんじゃ

……


僕は女神を小突く。

斧売りに来たわけじゃないでしょうが!

え、いや、だが

わらわとのやり取りに飽きただけかもしれないのに、こんなところまで押しかけてくるなんてまるでストーカーじゃないか、とか……思ったり

んなこと思わないってば

今、ハロウィン商品が2割引きなんだ。よかったら見て行って

あ、そうじゃの!
ほ、ほら、このカボチャなど良い感じじゃ


女神は


手近にあった
カボチャの置物を手に取る。

買う? 他にもお安くしておくよ。シーズンが過ぎたらただの余剰在庫だもんね

ほら、魔女のホウキとかあるよ

買う買う

……

なんだろう。

催眠商法で高級羽毛布団を
売りつけられているお婆さんを
彷彿とさせるのは。



あのさ! この子、文通相手を探しに来たんだけど


このままでは
サン・デルモント爆買いツアーで
終わってしまう。

ボクは用件を切り出した。

文通?

住所はこの店だったんだけど!
きみだよね!?

……

知らない

え?

え?

住所が間違ってるってことは無いよね

そんなはずは


そんなことを囁き合っていると、
ふいに
カボチャが口を開いた。

あ、それそれ、オレ

は?

オレが書いてたの

カボチャが?


と言うより
これは売り物じゃないのか?

売り物の分際で何故手紙を書く。
どうやってポストに投函したんだ?
どうやって受け取ったんだ?

そもそも手もないのに
どうやって開、

何年も売れないでいたから暇でさー

いつも在庫になってたもんな


気の毒そうに相槌をうつな、少年!

それはカボチャだぞ!?

カボチャと
コミュニケーションが取れる事態を
不自然だと感じなきゃ、

そうか、そなただったのか!

そなただったのだ!






女神は少年に振り向いた。

それではこのカボチャを頂こう。
お代はこの斧で良いな?

え?

え? あ、まいどあり


女神は
カボチャを受け取った。

なんで

わたわも暇だからの。
一緒に住めば手紙が届くのを待つこともなく語ることができよう?

それに誰かに買われて食べられてしまっても困る

……

……


ひとはそれを
ツンデレと呼ぶんだぜ?





ってことで世話になったな


女神はボクに

ホウキを差し出した。

これ、

買ったはいいが、わらわには不要のものじゃ。持って行け

あと……金の斧を代償とするからにはもう少し買えるはずじゃの?
そのあたりの菓子類も頂こうか

あ、はい!


店先に積み上げられていた
菓子箱を全部。

これだけあれば、キルバスでも”はろいん”はできよう

野菜の種類は問わないのかな

さ、わらわは帰るとするかの

女神はカボチャを抱えなおした。

文通相手が見つかって
連れ帰ることにしたのだ。

もうこの店に用はないだろう。

あ、そなたにも駄賃をやろう。
汽車旅は面白かったぞ


そう言うと
女神は菓子箱をひとつ差し出した。

帰るって、そんなに荷物抱えて帰れるの!?


ここでお土産をくれるってことは
ひとりで帰るつもりだろうか。

荷物持ちなら大勢おる






めぇぇぇぇぇぇがぁぁぁぁぁみぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁ!

生きてた





じゃあの


そうして女神は
カボチャと荷物持ちを従えて
帰って行った。










ボクの手元には
ホウキと

怪しいお菓子。

……まぁ、いいか





ボクも、帰ろう。














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