リュウ

女相手に複数で掴み掛かるとかは
流石にスルーしないでしょ。

若者A

て、てめぇ小僧~。

 緊迫感の薄いリュウが、若者の腹を蹴りつけた。意外にも武闘派だ。そしてこうなってしまっては、この場を治める事は出来なくなってしまった。

若者B

なめられんなっ!
やっちまえ!

 リュウと若者、そして役人も巻き込んで喧嘩が始まる。リュウは威勢のよい若者相手に奮闘している。

銀髪の女

馬鹿ばっかりね。

 銀髪の女は、目の前の喧嘩を冷めた視線で眺めて言った。喧嘩はリュウと若者だけではなく、役人も入り混じって大乱闘になっている。

銀髪の女

そしたら、
私は好きにさせてもらうわ。

 銀髪の女は軽いフットワークで、崖崩れがあった土砂を進み始めた。足場がもし崩れたりすると、大怪我も容易に想像出来る。

メナ

危険です。
あまり無茶しない方が……

銀髪の女

私には行かなければならない
理由があるのよ。

 銀髪の女は既に背の高さを越える所まで登っている。一見、無茶な性格に見えるが、しっかり足場を確認しながらの慎重な足運びだ。

メナ

だ、大丈夫かなぁ~。

 ハラハラするメナをよそに、若者達はまだ暴れている。役人は防戦一方。市民の安全を守る立場の彼等は、手が出せないのだ。ところが、一番腕っぷしの強そうな役人が、我慢しきれず反撃に出た。

リュウ

おいおい、大人が本気
出しちゃまずいっしょ。

 リュウは軽口を叩きながら、若者のパンチを涼やかに躱した。

若者B

うぎゃっ!

 威勢のよかった若者が役人の横蹴りで吹っ飛ぶ。その先には、銀髪の女が登る崖崩れの土砂があった。

リュウ

あ、やばいっ!

銀髪の女

っく!
ま、まずいわ、足場が!

メナ

ああっ!

 若者が吹っ飛ばされた土砂が少しづつ動く。異変を感じた時には、止めようのない勢いで崩れだした。銀髪の女は足場を失いかけたが、間一髪跳躍して難を逃れた。

銀髪の女

ふう。でも、もうすぐで
越えられていたのに……。

メナ

危ない!

 銀髪の女の頭上から小岩が降ってきていた。いち早く気付いたメナが庇い、大事には至らなかった。

銀髪の女

……全然気付かなかった。
礼を言うわ。

メナ

……よかったぁ、
頭にでも当たったら
大変だもん。

 その場に居た全員が息をのむ出来事に、乱闘騒ぎは落ち着いた。乱闘以外の怪我もなく、全員無事だ。

メナ

あれ? ハルは?
ハルがいないわ。

リュウ

ずっと一人で、作業してたぞ。

 そう、乱闘の中、リュウは見ていたのだ。乱闘そっちのけで岩や石を運ぶハルを。今ここに見当たないって事は、土砂にのまれてしまったかもしれない。

ぅ~

銀髪の女

うん?

っすぅ~

メナ

え?

ここっすよぉ~

リュウ

分かった、下だ。

ハル

ぱぁっふぅあっーっす!

メナ

ハル! 良かった。
って、そこから!?

銀髪の女

まさか私の足元にいたなんて。

 ハルは土の下から一気に頭を出した。どうやら銀髪の女の足元だったらしい。今、調度この場面に誰かが通りかかれば、顔以外を土中に埋められ拷問されている様にしか見えない。

 そしてハルは土中から引き出された。土まみれだったが、大した怪我もなかったようだ。

ハル

よっし、それじゃあ
続きをするっすよぉ♪

銀髪の女

え!?

若者B

まじか、こいつ……

リュウ

いや、ちょっと休めって。

若者A

は? 喧嘩をか?

メナ

違うわ。
道を開ける作業の事よ。

リュウ

ったく、よそ者だってのに。
そんな頑張んなくていいんだよ。

若者B

よそ者!?

若者A

じゃあ、なんで
そんな事してんだ?
何も得しねぇじゃねぇか?

リュウ

恩返しだってよ。
宿とメシのな。
いいって言ってんのに。

 ブンブン腕を回し、張り切るハル。唖然とする若者達をよそに作業を再開し始めた。

メナ

それじゃあ、私も始めよっかな。

リュウ

やれやれ、元気だな二人共。

 そう言いながら、リュウも二人の後に続いた。

若者B

よそ者のくせしやがって……

若者B

お前らだけで
やってんじゃねぇよ。

若者A

俺にもやらせろ。

さっきまで暴れていた若者達がハル達の作業を手伝い始める。リーダー格の男に続き、街の若者達が続々と参加し始めた。さらに役人も手伝い始める光景を、銀髪の女は目の当たりにする。

銀髪の女

す、凄い。
この人数なら一日で
道を開けれるわ。

ハル

一緒にやるっすよ。
皆でやれば楽しいっす♪

銀髪の女

あなたは一人でも
楽しそうね。
私は、
ベルゼビュート・ユフィール。
皆、ユフィって呼んでるわ。

 銀髪の女は初めて笑顔をこぼした。それはハルに対して何よりの礼だった。そして腕まくりしてから、作業の輪の中に入っていった。

 ~新章~     12、感謝には笑顔を

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