シャワーを浴びて朝食を作ろうとした。
しかし、よくよく考えてみると食材や食パンもないことに気づいた。


当然だ。昨日はどこにもでかけていないのだ。

すると、露樹さんが

露樹 梓

任せときな!

と言って自室の食材を持ってきてくれた。

工藤 柊作

露樹さん、調理は…

露樹 梓

もちろん、よろしく~!

岸ノ巻最初の朝で2人分の朝食を作ったのは後にも先にも俺だけではなかろうか。

昨晩江岸が持ってきた制服に袖をとおす。
小さすぎることなく、見事にピッタリだった。

露樹 梓

馬子にも衣装だねぇ

工藤 柊作

黙って下さい


露樹さんの皮肉にまじめに対応する。
ネクタイに苦戦していると、外から声が聞こえた。
それも馬鹿でかい声が。

くどうくーーーーん!!あさだよーーーーーー!!

工藤 柊作

…………!?

血の気が引いた。

この声は100%江岸だ。
確かに、あいつがここに来た理由も分かる。
学校初日の俺を迎えに来たのだろう。
それは理解出来る。


だが、まさか朝っぱらから怒鳴りこむとは夢にも思わなかった。


俺は頬をひきつらせて露樹さんを見る。
彼女はため息をつく。

工藤 柊作

露樹さん……

露樹 梓

そんなすがるような目で私を見るな。切なくなる

工藤 柊作

正直に言います、マジで助けて下さい


途端に頭にコツンと露樹さんに叩かれる。

露樹 梓

何逃げてるの。さっさとあんたが外に出ればすむ話でしょ!あの娘はあんたの友達なんだから。逃げる必要ないわよ

工藤 柊作

…あいつの中の友達との接し方をぜひとも聞いてみたい

露樹 梓

口実ができたじゃない。行ってきなさい


露樹さんは姉のようであり、母のようだ。
弟をからかうかのようにちょっかいをだすかと思えば、今みたいに優しく俺を諭してくれる。

工藤 柊作

…行ってきます

露樹 梓

はい、弁当

工藤 柊作

さりげなく一緒にチューハイ出さないで下さい。俺はまだ未成年です

完璧に姉に戻ってる…


ガッハッハと笑う隣人の相手が面倒くさくなり、逃げるように部屋を出る。

即座に露樹さんを追い出して鍵を閉めた。

露樹さんは空き缶を持ちながら自室に戻った。



とうとう逃げ場が無くなった。

下を見ると、江岸が真剣な表情で待っている。


逃げる気力も失せた俺は素直に階段を降りる。




江岸がパァッと笑顔に変わる。
俺は気まずそうに頭をかきながら挨拶をした。

工藤 柊作

ぉ、おはよう


恥ずかしくて目は完璧に地面を見ている。
それでも十分嬉しかったのか、江岸はにっこりと微笑んだ。

江岸 梨奈

おはよう、工藤くん

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