妖怪探偵・稲田実


2・小さな依頼者

応接用のソファに、偉そうに足を組んで座っている稲田。


その向かいには、翔が緊張で固まったように腰掛けていた。


達也は、盆にのせた湯呑を翔に出すと、稲田の横に座る。

「子供の依頼人は初めてだな」

「あの、ネットで調べたら変わった依頼も受けてもらえるって……」

「変わった、とは?ええと……」

「あ、僕、篠田翔っていいます」


翔は、名乗ると戸惑うように目を泳がせた。

「依頼は…その…心霊現象っていうか怪奇現象っていうか…」

……!

翔の言葉を聞いて、稲田はにやりと笑う。

はあ……

稲田を横目に、達也は、大きくため息をついた。

「心霊現象、妖怪の類まで、他の探偵事務所では受けない様な案件にも対応しますよ」


稲田は、先ほどまでとは人が変わったように、にこやかな笑みを浮かべる。

「あのね、依頼にはお金がかかるけど大丈夫?」

翔はポケットから小さな紙の袋を出すとテーブルの上に置く。


それは、お年玉袋だった。

「友達を助けてください! 本当の事を言っても、誰も信じてくれなくて……俺の学校、行方不明の子が何人かいるんだけ
ど」

「あ、もしかして新聞の」

達也は、テーブルに『小学生4人行方不明』の見出しが書かれた新聞を広げた。


新聞記事を見つめ、翔は頷く。

「学校の鏡の中に、いなくなった子がいるのを見たんだ」

鏡の中に写る子供達と、勝手に笑う自分の姿を、翔と時也は青ざめた顔で見つめる。

「なんだよこれ!行こう!」


現実と違うものがうつる不気味な光景に、翔は慌てて走り出した。


校門までやってくると、翔は立ち止まり、肩で大きく息をする。

な、なんだと思うあれ…


その言葉に返事は返ってこない。


辺りを見回すが、時也の姿がどこにも見当たらなかった。

「……時也?」

「友達もそれから行方不明になった。きっと鏡の中にいるんだ、でも誰も信じてくれない。友達がいなくなって混乱してるんだろうって……」


翔は、膝の上に置かれた両手をぎゅっと握りしめる。

「私は嘘つきは嫌いだ」


稲田の声に、翔は泣きそうな表情で顔を上げた。

「信じたつもりにはなってやろう。嘘だった場合、子供だからと甘やかすつもりはないがいいかな?」


稲田はお年玉袋を手に取り立ち上がると、翔を見下ろし、不敵な微笑みを浮かべる。

……!

……仕方ないなあもう…

嬉しそうにうなずく翔。

その隣で達也がため息をつきながら頭をかいた。

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