妖怪探偵・稲田実


1・ようこそ稲田探偵事務所

稲田実は、デスクに座り、頬杖をつきながら退屈そうに書類を眺めていた。


彼はこの稲田探偵事務所の所長で、ただ1人の探偵だ。


銀と黒のツートーンカラーの長髪、モデルのようにすらりと伸びる足、切れ長の目の似合う整った顔。


その外見のせいか、探偵と聞かなければ、年齢不詳の謎の男に見える。


側の応接用のソファでは、アルバイト助手の佐藤達也がコンビニで買った菓子パンを食べながら新聞を眺めていた。


その新聞には、『小学生4人行方不明』の大きな見出しが書かれている。

「同じ小学校に通う子ばっかりが行方不明なんて物騒ですねー。うわ、この小学校ここの近くじゃないですか」

「佐藤、茶が飲みたい」

「稲田さん自分で入れればいいじゃないですか」

「新入りバイトなんだからそれくらいしか仕事できないだろ。それに……」

「それに?」

「人の入れた茶の方がうまい」

「意味わかんねえっす」


達也はため息をつきながら立ち上がった。


達也が渋々給湯室に向かうのを確認すると、稲田は再び書類に目を落とす。

「つまらん!!」

稲田はそう叫ぶと、突然書類を投げだした。

「浮気調査に素行調査……もっと面白そうな依頼はないのか!」


二人分の湯呑を持って戻って来た達也は、床に散らばった書類を見て眉をしかめる。

「ちょっと、稲田さん、散らかさないでくださいよ! 片付けるの俺なんですからね」

達也は湯呑をテーブルに置くと、床の書類に手をかける。

「面白い事件って、たとえば?」

「殺人事件とか、密室とか」

「それは警察の仕事でしょう。だったら探偵じゃなくて警察になればよかったのに」

「人が多い組織は好きじゃない」

「わがままばっか……」


達也は、椅子の上で踏ん反り返る稲田を見てため息つく。


散らかした書類を全てひろいあげると、稲田のデスクの端にそっと置いた。


それとほぼ同時に、事務所のドアがゆっくりと開く音がする。

「あの……」

子供の声がして、稲田と達也は、声の方へ揃って振り向く。


半開きのドアから、小学生…篠田翔が顔を覗かせていた。

あの、ここって稲田探偵事務所でいいですか……?」


連れの姿も見えず、どうやら1人でやってきたらしい子供の姿に、達也は目を丸くした。

1・ようこそ稲田探偵事務所

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