稲村美子

つ~き~!!!!!

昼休み、

屋上で一人、月は昼寝をしていた。


屋上は立ち入り禁止のため、鍵がかかっているが

月がドアノブを回せばそんなの簡単に開いてしまう。


だれも来ないため、いつも悠々自適に過ごしている。


名前を呼ばれたので目を開けると

フェンスを乗り越えようとしている美子の姿が

目に入った。

藤沢月

…何してんの?
っていうかパンツみ…。

藤沢月

あっぶね。

美子は上から思いっきし弁当箱を月に投げつけた。

スカートを押さえながらストーンとフェンスの上から

飛び降りる。


寝起きで事態を把握しきれていないが

月は、屋上の入り口をチラッと見て

美子は、フェンスの向こう側より屋上に上ってきたのだと

悟った。

藤沢月

よくまぁ、ここまで登ってきたね。

稲村美子

そんなことより!
なんで、鵠沼くんが月の世界に私がいたこと
知ってるの!?説明して!

月は、一瞬驚いた顔をしたが

すぐにニヤッと笑った。

藤沢月

王子様とついに会話できたのか…。
良かったじゃん。

稲村美子

そうじゃなくて!

藤沢月

名前と顔を把握してもらえた、
片思いとしてはかなり発展したんじゃないの?

稲村美子

もう、だからそうじゃなくて~

先程起きたことを、月にざっと説明をした。

鵠沼より問いかけられたことに対して

美子は答えずダッシュで逃げて、人に見られぬよう屋上ま

で登ってきたということだった。

藤沢月

石上に鵠沼のこと打ち明けたの!?

稲村美子

月?
さっきから何をゆってるの?

藤沢月

一気に美子の悩みが2つ解消されそうじゃん!
石上に鵠沼の事を言えなくて悩んでいただろう?

稲村美子

それは…

藤沢月

美子、なんでもいいんだよ。
何したっていいんだよ。
自分を一番に大切にしていいんだよ。
なんで、恋をした自分を恥じるの?

稲村美子

月にはなんでもバレてる


私が、自分自身を恥じて

香奈に鵠沼くんのこと相談できないことを

自分の事を呪っていることを



肺の中が水でいっぱいになるように

胸が苦しい。



だって

私、化け猫なんだもん

ふつうの女の子じゃないんだもん



誰にも言えない、自慢にもならない

むしろ絶対隠さなきゃいけない
 

そりゃ、能力を感謝して使うこともある


でも、


鵠沼くんだってふつうの女の子に好かれたいよね?

欠点がある私なんかが好きになっても困るよね?



香奈にだってなんて相談すればいいの?

言えない秘密に悩んでるのに



こんな自分じゃあ勇気なんて持てないよ




藤沢月

でも、石上に話した時
恥ずかしいけど楽しかっただろ?

藤沢月

もっと本当の自分をさらけだしたい
って思っただろ?

稲村美子

それは…

月の言葉を聞いたら

胸があったかくなってふんわりと浮かぶ


すると


じわっと涙があふれてきた



苦しいな…



藤沢月

1つ不安・コンプレックスを打ち消しても
次から次へとでてくるだろ?
理想を追い求めてしまうものだからね。

藤沢月

そんなことしてたら現世終わっちゃうよ。
恥かいたって苦しくなったてなんだっていいから好きな人追いかけな。

稲村美子

グスっ。うん。

藤沢月

来週は、また満月だ。
美子は、俺の世界にくる?

稲村美子

…うん、行く。



袖口で涙を拭くと


予鈴のチャイムが鳴った



同じころ

石上香奈

あれっ?鵠沼くん一人?

鵠沼ケイ

ああ、そうだけど。

石上香奈

美子は?

鵠沼ケイ

うっ、話そうとしたらなぜか逃げられた…

石上香奈

逃げた~!?

鵠沼ケイ

声でけえよ…。

石上香奈

もう、美子なにやってんのよ!!


香奈は天井を仰ぎみた。


鵠沼がバツが悪そうに頭を掻くと


予鈴のチャイムが鳴った。



美子が席に着くと


怒っているぞ!!のジェスチャーをした

香奈がこちらを見ている。

稲村美子

うわあ。なんかヤバそう。

放課後、案の定香奈に頭を

クチャクチャにされ怒られたが


美子の気持ちはなぜだかスッキリとしていた。


その日、美子は一人で駅に向かって歩いている。

夕焼けで赤くあたりが染まっている



まるで、初めて鵠沼に会った日のように同じだ。



鵠沼から逃げてしまったことを思うと

ため息をついてしまう。

月のおかげか

強く自分を責めることはなかった。


稲村美子

もう、あんなチャンスは来ないのかな…。

小さく美子が呟くと


前から大きな声で

「いちー、にー、さん、しー!!」と

防具をつけた集団が走ってきた。



デジャウ゛?


そう思った瞬間、集団が美子の横を駆け抜けた。

はっと前をみる


一人の部員がスローモーションで目に入った。


鵠沼ケイだ。

初めて見たときと同じ光景だったが


違った。


前から来る鵠沼ケイは美子の目をはっきりと見ていた。


美子の横に並んだとき

鵠沼は軽く右手をあげた


すれ違って慌てて鵠沼を追い振り返ると

鵠沼も美子のほうを見ていた。



「えっ?」と美子は呟く


鵠沼は後ろを走ってる生徒より

「なにやってんだよ。」と茶化されていた。


美子の顔は赤く染め、遠ざかる鵠沼の背中を見つた


自分の胸がどきどきと鳴っているのがわかった。


身体がまったく動かず立ちつくしている。


恋というものは

身体の機能さえ奪ってしまうものなんだと

ぼんやりと美子は思った。

次回で最後になります★

化け猫と月の日常(7)

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