石上香奈

ねぇ、美子。
今日、校庭でお昼食べようよ☆

月の世界に行ってから

しばらく経ったある日

香奈より外でのランチの提案をうけた。

稲村美子

うん。天気いいし外で食べるの
いいね!

石上香奈

じゃあ、行こう☆

美子たちは、校庭に行くため階段のほうに向かう。

隣のクラスが視界にはいると、胸がドキっと鳴った。

すると、突然…

石上香奈

和田塚くん!!

香奈は大きな声で、

廊下に面して開いている窓から

大きく中に手を振った。


「おおっ、石上!」と

香奈と美子が知らない男子とがしゃべり始めた。


稲村美子

香奈は、誰とも仲がいいなぁ。


美子は、香奈のエネルギーに圧倒される。

和田塚という元気のいい男子をふっとみると

隣に鵠沼ケイが座っていたことに気付いた。


「えっ。」と思った瞬間

鵠沼ケイと目があった。

鵠沼ケイ

…。

鵠沼ケイは和田塚という男子に

「石上の隣にいる子、誰?」と訊ねているのが聞こえた。


美子は、全身がかあーっと熱くなる。

石上香奈

美子?


顔を真っ赤にして

美子は、階段の方へ駆けだした。


頭の中は、ぐるぐる渦を巻き

走っているのか何なのかよくわからなくなっていた。

石上香奈

美子!待って待って!!

稲村美子

ハアハア、香奈。ごめんね。


二人は肩を切らしながら近くの階段に腰を下ろす。


近くに他の生徒はいない。



ひざにお弁当箱を置き、お互い無言で包をひらく。

石上香奈

もしかしてさ、鵠沼くんのこと好きなの?


香奈が口を開いた。


美子は、頭がぐるぐるとしていて

どう言葉にしていいのかわからない。

お弁当箱のおかずをじっと見ながら


「うん。」とうなずいた。

石上香奈

いきなり走ることないのに。


クスクスと香奈は笑う。

稲村美子

だって…びっくりしたんだもん。

鵠沼ケイにとって

自分はまったく無の存在だと思っていたから。

稲村美子

…気持ちバレたかな?

おびえた様子で隣の香奈をみる。


「うーん、大丈夫!男子って鈍いから。」

お弁当をつつきながら香奈は答えてくれる。


少し気持ちがホッとした。

しかし、なぜ私の名前を聞いていたのだろう?

石上香奈

ところで、好きになったきっかけって何?
教えて~。

稲村美子

えーっと。

放課後、美子は一人駅に向かって歩いていた。


前方より、防具をつけた剣道部員達が

「いち、にー、さん、しー!!」と

大きな掛け声を出しながら走ってきた。

皆、ぜーはーぜーはーしんどそうだ。

稲村美子

大変だなぁ…。

美子とその集団がすれ違った瞬間


はっと横をみる


一人の部員がスロモーションで目に入った。

ピンとした背筋で、まっすぐ前を見て走っている。


一瞬だったが目を離せず

遠ざかってもなお

その背中を見つめていた。


それが、鵠沼ケイだった。


何故だろう?

初めて、男の人に胸がドキドキした。

石上香奈

それって、それって…

石上香奈

一目惚れじゃーん!!
きゃあ~~!!!!

稲村美子

やめて~!!恥ずかしいから!
声大きいから!


美子は顔を真っ赤にして香奈にすがりついた。

二人できゃっきゃっしていると


後方より声をかけられた

鵠沼ケイ

えーっと、稲村美子さん?

石上香奈

じゃっ、私先にいくね☆

稲村美子

ちょっと、香奈。

香奈はあっという間に行ってしまい

鵠沼ケイと二人、置き去りにされた。

稲村美子

どうしよう。

世界新記録で駆けだして逃げてしまいたい。


心臓の音がバクバクと聞こえる。

美子はうつむいて悩んでいた。

頭がこの展開についていけない。

声をかけられる理由も思いつかない。

鵠沼ケイ

稲村さん。

稲村美子

…はい。


ゆっくりと顔をあげる。

鵠沼ケイ

変なこと聞くけどさ。
この間、藤沢の世界にいたよね?

稲村美子

えっ…。

美子の頭の中は

月の世界のきれいに輝く満月の光を思い出す。


そして、

ゆっくりと美子の意識は遠のいていった。

化け猫と月の日常(6)

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