さらに流れて拾年後の秋。
さらに流れて拾年後の秋。
どうお父ちゃん?
上手えばい?
今のちゃんと狙って額ブチ抜いちゃったべ。
もう何でも撃ち殺せっから。
おう、いい塩梅だ。
あとは肉を村さ運んで、捌き方を隣のじいちゃんに教わりなっせよ。
うえっへへえ
もうオラ無しでもやっていけるな。
後は頼んだぞ?
え?父ちゃん、どういう事?
お前、独りで生きていけるよな。父ちゃんは長い狩りに出かけっから
狩りって父ちゃん!
だってお父ちゃん昔キツネに噛まっちぇからもう銃さ二度と握れねえって言ってたっけな?
探さねばいけねえんだ。
おめえが間違って母ちゃんぶち抜いちまわねえようにさ。
そろそろ、あの女狐さとっ掴まえにゃいけねえんだ。
どういう事、お父ちゃん。
全くわがんねえ…わがんねえよ。
帰ってこれたら全部話す。
それまでオメエは立派な村一番の猟師さなるんだぞ?わがったな?
それと
どんな間違いがあっても
キツネだけはブチ抜くなよ?
必ず冬の終わりには
帰ってくっからな
息子を置き去りにして
暗い森の奥へと入っていった。
愛しの女狐を掴まえるために。
ほほう、中々情緒豊かなおとぎ話でしたな。
多少大人向けではありましたが。
で、結局お父さんは戻って来たの?
その真相を突き止める何かヒントになればと思い、この店にお伺いしたのですが…
ふむ。今の昔話を聞いて亡き妻が語っていたのを少し思い出したのですが、
嬉(うれし)の稲荷様はね、本当は元はどこにあったか定かではないの。
でもね、関東大震災や戦火からみんなを守って下さった浅草の火伏の神様なのよ。
つらい冬を越えた春にみんなでお祭りするのよ。
なるほど。浅草の隅田川って何かトラブルが起きる度にキツネ様がみんなを守ってくれてるんだね。
ワォ!どうしたの大丈夫?
あんがとうなえ、坊や。
ごめんね、おっ母が悪さしねえように、ずっと父ちゃんや村のみんなの事さ、守ってくっちぇたんだねえ。
え、今何て?
意外と訛りが激しくて何て言ってるか…
おい、そこの帰国子女!シャラップ!
女性に涙のワケを聞くなんて野暮なボーイだよチミは。
いえ、ごめんなさいつい嬉しくて涙が。
ご馳走様、もう充分です。
それじゃあ。
ごきげんよう。