稲村美子

キレイな満月。

美子は、一人しかいない浜辺で

月を見上げた。



ココは、


夕焼けと海がキレイにみえる


人気スポット。


夜でも人の行き来も多い場所だが


今は、美子以外だれもいない。





海沿いの道路の向こうには


住宅が立ち並び明りがついている。


しかし、人がいる気配は一切ない。



形は同じだが、まったく別の場所




ココは、、「あやかしの時間」



ココは、「月の世界」


稲村美子

月は、どこにいるんだろう?

あたりを見回すが


近くにはいない。



大きな満月に照らされた


海の方をみる。



月の世界の「月」は

キラキラと輝く光の粒を

発していて

とても、キレイだ。



その白く輝く光の中に


月がいるのが見えた。

月は、穏やかな海面を

全身の力を抜いて

浮かんでいる。



海に耳を澄ますが

音はしない。


ここは、とても静かだ。



そっと目を開けると、

そこにはボールほどの

大きな満月が輝いていた。

俺は、「月」に還りたい。


そっと上から

地上にいる人達を

見守りたい。


祈りをささげる人達の声を

聞きたい。



ただ、そこに穏やかに

ある存在になりたい。



藤沢月

んっ?


月は、気配に気づき

浜辺の方に視線を向けた。

藤沢月

なーんだ。美子か。

浜辺に向かって月は泳ぎだした。


浜辺には、毛がフワフワとした

大きな猫がこちらをみていた。

化け猫:美子

月、何してたの?

藤沢月

考え事。
相変わらず、化け猫ちゃんは大きいね~。


海から月はあがってきたが

濡れてはいない。



ココでは、彼がルール

彼が望めば何でもありだ。



月は、美子の横に腰をかけた。

見た目は可愛い猫の姿の美子だが

大きさは2mほどある。


化け猫:美子

ココは、とても気持ちいいね。
久しぶりにこの姿になったよ。

藤沢月

そっか、それは何よりだ。
やっぱり家でもその姿にはならないんだ?

化け猫:美子

うん。もし、見つかったら通報されちゃう。
耳としっぽまでかな~。

藤沢月

もったいないな。すごく可愛いのに…。

化け猫:美子

ええええぇぇぇ!!!!!!!!

石上香奈

あのさ、美子さ。
藤沢くんとつきあってるの?

今朝の、香奈の言葉を思い出し

美子は、全身が熱くなった。

藤沢月

うん、すごく可愛い。
でも、もうちょっと太った猫の方が
俺はタイプかな。

藤沢月

痛っ!!



美子は、大きなしっぽで

月の頭をはたいた。


中々、痛かったようで

月をはたかれた箇所を両手で押さえている。

藤沢月

なんなんだよ。

化け猫:美子

お…女の子に向かって
失礼なことを言うからです!

藤沢月

はいはい。
それは失礼しました…。


美子の胸はドキドキしていた。

化け猫:美子

なんで、月にドキドキしなきゃいけないのよ!
もう!香奈が変なこというから!!


ふっと

鵠沼ケイの顔が浮かんだ。



今度は、胸が痛む。


最近、身体が忙しなく感情に動かされている。

化け猫:美子

月の前ではこんなに自由になれるのに…。

藤沢月

…。

藤沢月

何?鵠沼のことで悩んでるの?

化け猫:美子

!!なんで、知ってるのよ!?

藤沢月

ココは、俺の世界。なんでも知ってるさ。

化け猫:美子

そんなことまでできるなんて…。

ガクっと


美子はうなだれた。

ハッと顔あげる。


満月の光に照らされた海に

大きな魚のしっぽのようなものが

動いたのが見えた。

化け猫:美子

くじら…?

藤沢月

うん、新人さんだよ。


月は、すくっと立ちあがった。

美子の眼をじっとみつめる。

藤沢月

美子。
そんなに暗い顔しないでいいんだよ。

化け猫:美子

えっ?

藤沢月

「月」のお導きを待ちなさい。
今日は、もう終わり。


くるっと月は美子に背を向けて歩き始めた。

化け猫:美子

おやすみなさい。


「ん。」と背を向けながら手を振り


月は行ってしまった。


美子は空を見上げて

深呼吸をする。

稲村美子

さあ、私も帰るか。


気持ちはどこか不安定だったが


月の言葉を胸にしまって

来た道を戻り始めた。

化け猫と月の日常(5)

facebook twitter
pagetop