神 斬
髪 切 り屋
神 斬
髪 切 り屋
3、都比売(みやこひめ)二
都比売(みやこひめ)神社の輪橋は、朱色の壮大な橋である、橋下に広がる鏡のような
池には、この季節、もみじの紅が映っていた。
その橋の前に、一人の僧が座禅を組み、、黒い犬をかたわらにおき、白髪の神と対峙していた。
座禅を組んでいた僧が、ロをひらいた。
稲荷よ、大事な用とは、何じゃ?それと、コンは、一緒ではないのか?
実はじゃのぉ、コン殿には、ある男と、行動を共にしてもらっておる
今頃は、百五十四町石の稲荷に、旅の無事を祈っておるじゃろぉて
ふむ、そなたが、コンを人に、預けるとはのぉ、珍しいこともあるものじゃな
で、拙僧は、その男に、何を、教えればよいのじゃ?
さすがは、遍照殿じゃ、察しがよくて助かるわい
稲荷よ、そなたが、コンを託した、程の男じゃ、その男は只者ではなく、信頼に足る人物と考えてよいのじゃな
まー、我の気まぐれというかの、しかし、その男は、遍照殿、そなたとも、少なからずは
縁、深き者、じゃろうて
それで、本題の話じゃが、遍照殿に
これから、コン殿をつれて、御山を登ってくる、男を、、壇上伽藍にまで、連れて、登っていく間に、少し鍛えてやってほしいのじゃ
話は、わかったが、拙僧は、その男の何を、鍛えればよいのかのぉ?
空海は、瞑想を続けながら、問うた
その男は、右目にだけ、黒髪が見える、能力を持っておる。
ほぉう
空海は瞑想をやめて、両目を開いた
察しがよい、遍照殿のこと、大体はもう、悟っているのではないか
稲荷よ、拙僧は人ゆえ、この両目には、黒髪を、見る能力は、ないのじゃが
それが、どうした、そなたは、目などで、黒髪を見なくても、六大で黒髪の形を認識しておるではないか
六大、万物の構成要素とされる、地・水・火・風・空・識の六種
真言密教では、これを万有の本体とし、大日如来の象徴とする。六界(ろっかい)とも言うが
遍照殿には、その男に、目だけで、見える物、以外を、感じる力、すなわち、六大を鍛錬をしてやってほしいのじゃ
合い分かった
我は、これから、先に車に乗って、光野山の見物をしてくるので、後は頼みましたぞ
昔は女人禁制であったから、空の上から、御神体でみたことしかなかったからのぉ
身体で堂々と入れるとは、楽しみじゃ
そう言って、稲荷の神は車に向かって歩き出しました。
あっ、そうであった、その男の生死は、そなたの鍛錬 如何(いかん)にかかっておるのでな
車に乗り込みながら、そう言って、稲荷の神は、走り去って行きました。
しかし、去り際に、さらっと怖いことを言ってくれたものよの
光野山の見物じゃと、とぼけた事をいっておるが、稲荷の神が来たということは
いよいよ、黒髪との闘いが始まるということじゃな
やはり、月読みで明日の夜は、十五夜ということか、満月の夜、なるほどのぉ
稲荷がいなくなった、都比売神社で、遍照空海は、待ち人が来るまで
目を閉じ、再び瞑想をはじめた。
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参の巻 金剛 四.六大 一に続く