翌日も、いつもと変わらない日常を僕は過ごした。




別に、昨日彼女と会った事を誰かに言うわけでもなし。





いや、もはや言う友達が僕には存在しないのだが。





彼女も、僕と昨日会った事など全然なかったかのように、いつもと変わらない生活をしていた。





そう、いつもの様に…。

あ~、いっけね。おかず落としちゃった

え~、バッチ~

捨てなよ~

いや、捨てるのはもったいないじゃん? だから、ほーらよっと

その女の手から放たれたおかず君は、放物線を綺麗に描きながら、彼女の背中に命中した。

うちって偉くな~い? 廃棄物を減らしてるし、他人におかずをあげたんだよ~

偉~い

マジ、リスペクトだわ~

この小学生以下…いや、猿以下の知能をもった糞女どもは、何に対して偉いと言っているのか、誰でもいいから説明をしてくれ。




まず、おかず君を投げた事に対して、食べ物に謝れ。





食べ物は粗末にするなと習わなかったのかよ。





次に、床を汚した事に対して、この僕に汚れた床を舐めながら土下座をしろ。





今日は僕の掃除当番なんだよ。なぜ、僕がこんなに汚い床を綺麗にしなければならないんだ。

ね~、汚れた床は、あんたが綺麗にしてね~

猿さんは、おかず君を当てた相手のもとに近づき、そうお願いをした。

だが、少女は何も反応しない。





ただ、自分のお弁当をモグモグと口に運んでは噛んで飲みこみ、運んでは噛んで飲みこみ、という作業を続けるだけだった。

おい、無視すんなよ!

瞬間、お猿さんが強く机を蹴ると、彼女が持っていたお弁当は地面に落ちて、床にばらまかれた。





彼女は、散らかったお弁当の中身を何も言わずに回収を始めた。





だが、その時。

うん? なんだよこれ

それは…!

お猿さんは、四つん這いになっていた彼女のポケットから、あの彫刻刀を引き抜いた。

あれ~、なんでこんなに物騒な物を持ってるの~?

返して…

ダメだよ~。危ないから先生に渡してくるね

返して!

彼女にしては珍しい程に、大きな声を出して、お猿さんから彫刻刀を奪い返した。

あぶねーからこっちに渡せよおら!

三人の猿が彼女を囲み、無理やりでも彫刻刀を取ろうとした。

やめて! これは、おばあちゃんからもらった大事な物なの!

彼女は、我が子を守るようにして、彫刻刀を握りしめて、離さなかった。





そのまま彼女は、お弁当が散乱している床に倒れ込み、完全防御態勢に入った

うわ、気持ち悪り。もう行こーぜ。こいつはマジでやべーって

お猿の群れは、彼女から離れて行った。





後に残ったのは、汚れた床と倒れた彼女と握られた彫刻刀。





見ていた人たちは、誰も近づこうとはしない。





僕の足は、彼女のもとへ動いた。

これ、片付けるぞ

やめて、何もしないで

そんな事を言われたが、僕はそのまま続けた。





散らかったおかづ君と、お米君をゴミ箱に捨てていくだけの単純な作業を、クラスにいる人たち全員が見て来る。

ねえ、やめっててば!

勘違いをするな。僕はただ、掃除当番だからやってあげてるだけだ。お前らみたいな素人がやると、俺の仕事が大変になるんだよ。だから、邪魔するな

無論、照れ隠しでも何でもない、根っからの本音である。





昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るころ、全ての作業を終わらせることができた。





結局、彼女と傍観者の方々は一切手伝ってくれなかった。





まあ、別にいいけど。

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