あの日以来、彼女に対するいじめは始まった。





最初は靴が無かったり、教科書が捨てられていたりする小学校でありそうないじめだった。




まあ、あのグループはバカの集まりだったのだろう。





既読無視が原因で始まるいじめ…間違いない。





だが、一週間、また一週間と時が経つにつれて、いじめはエスカレートしていく。





スマートフォンの電話番号や、家の住所が黒板に書かれていた日には、正直僕でも鳥肌が立った。





そんな事をされ続けている彼女は、それでも学校を休むことは無かった。





そんなある日、僕はいつもの様に一人で家に帰り、途中晩御飯の買い物するためにスーパーに寄った帰り道である。





通りがかった公園に、ブランコに揺られて彼女は一人で泣いていた。





もちろん、僕にはこれっぽっちも関係が無いので、見て見ぬフリをして通り過ぎようとした。





だが、彼女の手から鋭く光る物が見えた瞬間、僕は歩く方向を変えた。

おい、ここで何してんの?

初めてだった。





高校…いや、中学校に入って以来、初めてクラスの人に自分から話しかけた。

彼女は気まずげに顔を逸らしながら、手に持っていた物を制服のポケットにしまった。

…あんた、誰?

僕は、君と同じクラスの…

あ、いつも一人でいる奴か

あえて、ツッコミなどは入れなかった。





名前を忘れられることなど、いつもの事で慣れている。

悪いけど、今は構っている暇なんてないからほっといてくれないかな?

悪いけど、死なれると僕にも迷惑がかかるから、やめてもらえないかな?

彼女が持っていた物は、間違いなく彫刻刀だった。





視力Aの僕の目に狂いはないだろう。

制服のポケットの中身を見せてみろよ

僕は少し強引に、彼女のポケットに手を突っ込んだ。





叫ばれたら完全に捕まっちゃうね。





だが、彼女は叫ぶ事もなければ、僕の手を拒むことも無かった。

ん…これは…?

彼女のポケットから出て来たのは、確かに彫刻刀なのだが、ストッパーの様な物が装着されており、外すことができない様になっている物だった。

君が何を勘違いしているのかは知らないけど、もう要は済んだんだから帰って!

待ってくれ。お前は死ぬ気じゃなかったのか?

は? 何言ってるのよ。そんな事をする訳ないじゃない

どうやら僕は、早とちりをしてしまったようだ。





やっぱり、自分から話しかけるとろくな事がない。

じゃあ、これは一体…

あんたには関係ないでしょ!

発言と同時に立ち上がった彼女は、僕の手に握られていた彫刻刀を奪い、公園を駆け足で出て行った。





僕はそれを、ただ黙って見ているだけだった。

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