彼女に手を引かれる旦那は、瞳に涙を浮かべている。
虹ではなく、妻に見惚れて。
あなた、ほら見て! 虹が出てるわ!
本当だな……綺麗だよ
彼女に手を引かれる旦那は、瞳に涙を浮かべている。
虹ではなく、妻に見惚れて。
――今日、二人は思い出の海を見に、去年と同じ砂浜へやってきたのだ。
来るはずのなかった明日がやってきた。
彼女が回復したのは奇跡だと医師は言う。
神に何度も感謝を述べる旦那。
だが人間が言う奇跡なんて、実際はこんなもんだ。
天使の気まぐれ。
最後にここへ来れて、良かった……
そう呟く彼女。
彼女自身、もう明日が来ないことを理解しているようだ。
最後の奇跡だと。
ん? なんか言ったか?
……ううん。なんでも!
ほら、こっちこっち!
あんまり無理するなよ、病み上がりだろ
大切な麦わらを押さえながらはしゃぐ彼女。
旦那も嬉しそうにそれを見つめている。
そんな二人をテトラポットの上から眺める私。
――これで、彼女の願いは叶えられただろうか。
あ! 猫ちゃん!
私を見つけた彼女が駆け寄って来る。
よいしょっ……と
白く細い手が私を抱く。
昨日までは私を抱き上げることすら出来なかった彼女。
初めて包まれる彼女の胸は、とても温かった。
血が通っている。
生きている。
最後の温もり。
にゃ(一日しか延ばせなくて、ごめんなさい)
え?
私がテレパシーでそう話しかけると、驚いて周りをキョロキョロする彼女。
だが、すぐに私を見てこう言った。
……やっぱり。あなたがこの一日をプレゼントしてくれたのね
にゃ(願いは叶ったかしら?)
そう問いかけると、彼女は少し寂しそうな顔をしたように見えた。
が、それを打ち消すようにいつもの優しい顔で私に微笑みかける。
……凄く嬉しいわ。ありがとう
最後の思い出作り、それが願いではなかったのだろうか。
だが彼にとっても、あのまま逝かれるよりずっと幸せなんじゃないか。
最後にまた、想いを伝え合えばいい。
永遠の愛を誓いあえる機会。
そうすれば、美しい想い出に変わると。
二人に幸せになってもらいたいと、私は思ったから。
にゃ(あの時、本当はなんて言おうとしてたの?)
……
私はもう一度、彼女に質問してみた。
にゃ(……もしも)
にゃ(もしも願いが叶うなら……何を願う?)
すると彼女は笑顔でこう言った――
彼に……
彼に……どうか新しい伴侶を
そしてくるりと彼のほうを振り返る。
風に舞うワンピース。
頬を伝う涙。
屈託のない、最高の笑顔。
本当に……幸せな人生でしたっ! ありがとう、あなた!
その夜、彼女は亡くなった。
安らかな顔をしていた。
美しい顔をしていた。
今まで私が求めていた美しさなんてちっぽけに思えるほどに。
最後まで他人《ひと》を想う姿は――
ただただ美しかった。
貴女はここに存在していた……私は忘れないわ
私も環境を恨むのは止めよう。
神が私に与えた試練にどうゆう意味があるのか、真剣に考えてみようと思う。
まずは腹ごしらえからですが。
作者より
長い間お世話になりましたが、サービス終了に伴い、罵倒天使はここで打ち切らせて頂きます。
応援してくださった読者様、懇意にしてくださった作家様イラストレーターの皆様、誠にありがとうございました。
あと、どなたか存じ上げませんが、「感動」タグ、「罵倒されたい」タグ等の追加ありがとうございます笑。タグを読者様に追加して頂けること、今頃になって気づきました。
他にも皆様からの沢山のコメントやお気に入り登録、とても嬉しかったです。ありがとうございました。
そしてストリエ運営の皆様、新しい形を作っていくのはいろいろと大変なことが多かったと思います。
おかげさまで楽しい時間、面白い作品、素敵な人々に出会えました。
そんな機会を私たちにたくさん与えてくださったこと、感謝してもしきれません。
本当にありがとうございました。
また新たな挑戦を楽しみにしております。
それではまたどこかで……
2016.10.15 すずろ
――P.S.
と、思っていたらストリエ運営移管でサービス継続してくださるそうで何よりです。今後とも宜しくお願い致します――
2017.6.10