城を出て、街を出て……

 広野を走って、山を登った。

はぁはぁ……

だれじゃ?

私よ

 サリエルの小屋へやってきた私。

 今、なんの力もない私にとって、サリエルしか頼れる者はいない。

姉さま!!

ねえ、サリエル。死の病を治すのはルール違反だったわよね

そうじゃ、殺人を回避したりは構わんが、死の病だけは治しても他の者に病魔が移るだけじゃから禁忌とされておる

じゃあ、私の魂の一部を彼女に……人間にあげられないかしら

 死の病を治すのはルール違反である。


 だが、天使の魂すなわち、寿命を分け与えるというのは許されている。

 それによって延命させたり、生き返らせたりすることはできる。


 何が違うのかわからないけれど、神はそういう掟を作ったのだ。

 それを今、利用してみようと思う。

ななな、なんじゃと!?

長くとは言わないわ。一日分だけでいいのよ。明日を生きられる体に

ラファエル様とあろうお方が何を言っておられるのじゃあ!

お願い、知りたいことがあるの

 するとサリエルは、そっぽを向いて腕を組む。

嫌じゃ……

どうして? 貴女の計画の役にも立つかもしれないわよ。一人の人間が幸せになるの

嫌じゃ!!!

サリエル……?

嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃー!!!!

 サリエルは泣き喚いた。
 いったいどうしたというのか。

そんな人間なんかどうでもよいじゃろ!!

どうでもいいって……それはさすがに酷いんじゃなくて?

 いくら私でも、知り合った人間が志半ばで死んでいくのはできれば見たくない。

わらわは……わらわは……

姉さまの寿命が減るなんて絶対嫌じゃ!!

え、私?

姉さまがもし死んでしもうたらどうするんじゃ!!

サリエル……

 この子もまた、他人の私を心配するのか。
 ヒーチという少女と同じではないか。

優しいのね

違うな!

え?

優しいのではない! わらわのワガママじゃ! わらわが姉さまに会えなくなるのが嫌なんじゃ!! たとえその人間がどうなろうともな!

……よくその考えで堕天されないわね

 サリエルも、まるで人の子みたいなことを言う。


 神の考えていることが分からない。

 人を死の病から救うのもダメ、かといって自分の保身だけを考えててもダメ、いったい私に何を求めているというの。

 寿命を使って死ねる天使を欲しているの?


 ブラック企業なの?


一人延命させたからといって、すぐに死なないわよ

わらわは……ラファエル姉さまが一番大事なんじゃ……それならわらわの寿命を使ってくりゃれ

 一番大事……か。

 彼女も旦那の事が一番大事だからこそ、ただただ置いていく彼のことだけを心配をしていた。

わかったわ。じゃあ、ごめんなさいサリエル

なんじゃ?

貴女と私、二人で半分ずつの寿命を分けさせてもらえるかしら?

半分ずつ……かや

ええ、貴女にまで代償を負わせるのは心苦しいのだけれど

……わかった!

わらわは姉さまとずっと一緒じゃ! ずっと一緒じゃからな!!

 こうしてサリエルは、私たち二人の血を含めた薬を調合した。


 一日延命するだけの薬。

 ただその一日は病魔からも解放され、自由に動き回れる体になる特典付き。

 サリエルの粋な計らい。

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