にゃ!(異常なーし!)

 よし、今日もお城は平和なようだ。

 巡回終わり。
 見回りをしてあげたんだから、お給料を貰いに行こう。

 いざ厨房へ。

にゃ(お腹すいた……)

だれ……?

 お城の通路を歩いていると、とある一室から声がした。
 まずい、テレパシーがダダ漏れだったようだ。

 それにドアが少し開いていて、そこから優雅な私の姿が見えたみたい。


 人型の時はいろいろとオシャレできるからそれはそれでいいのだけれど、やっぱりこの黒猫の姿が一番好き。
 自慢の毛並みにスラッと伸びた脚。
 スコ座りなんて似合わなくていい。
 私が求めるのは美しさ。
 一顧傾城。


 きっと部屋の中の人も私の尻尾をもふもふしたいのね。
 わかる。
 ええ、わかるわ。


 そんなことを考えながら、ドアの隙間から部屋へと入ってみる。

にゃー

 そこには、ベッドに横たわる女性の姿があった。
 よいしょとゆっくり身体を起こす彼女。

ねこちゃん。ここまで来れる?

にゃー

 白く細い手が私を呼ぶ。
 どうして麦わら帽子を被っているのだろう。
 こんな部屋の中で。

 彼女の膝元へと飛び乗ってみる。

あなた、さっき喋らなかった?

にゃにゃ

 首を横に振る私。

 って、言葉を理解してるのもおかしい話か。
 まずったかも。

ふふ、あなたは私を迎えにきた天使かしら

 私を撫でながらそう呟く彼女。
 天使……には違いないけれど、別に迎えには来ていない。

 ノックの音がした。

 どうぞと言われ、入ってきたのは宮廷医師だ。
 エルフの手当てをしているのを以前に見た。

調子はどうだい

先生、いつもすみません

早く元気になれるといいな

ええ……ありがとうございます

 ぽんぽんと診察を済ませ、薬を置いて出て行く主治医。

 彼女の体調が良くないのは見て取れる。
 それも、あとどれくらい生きていられるかというレベルで。
 私も天界では医師のような者だから。
 彼女の下半身はすでに動かない。



 それでも優しく微笑んで、私を撫でる彼女。
 最初にもしも彼女と出逢っていたら、何て願うのだろうか?


 いや、わかりきったことだ。
 死の病を治してほしいって願うのだろう。
 今までも何人もの人間から願われてきた。

 だが、運命というものがある。
 誰かを治せば、誰かが病気になる。
 つじつま合わせが必要になる。
 だからほいほいと治せないのだ。
 天界にもそうゆうルールがある。

 雨は一人だけに降り注ぐわけではない。



 私は彼女を残し、その部屋を去った。

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