正太郎

そういうことだから、行ってくるね

百合

……

いつもの通りの光景だが、百合の元気がない。
正太郎はその理由に気がついていた。

正太郎

大丈夫だって3日間出張に行くだけだから

百合

分かっています……
でも……

正太郎

お土産買ってくるから。楽しみに待ってて。

百合

……

百合の表情はやはり浮かない
正太郎はやれやれといったような表情で百合の頭の上に手を置く。
そのままポンポンと軽く頭をなでた。

百合
正太郎

心配しなくてもちゃんと戻ってきますよ。

そう言って正太郎は出ていった。

正直、気が気ではない。
それが百合の正直な気持ちだった。

百合

少しくらいなら……
いいよね……

百合は数分悩んだ挙句、薄めの化粧をし履物を履いて外へ出ていった。

百合

なんで私はこんなことしてるのかしら……

正太郎は出張に行くと言っていた。ならば行先は駅であろうと推測した百合は、駅への道を歩いていた。
すると途中で正太郎の後ろ姿を見つけたため、後をつけていたのだ。

百合

確かめるだけよ……確かめるため……

心の中で自分に言い聞かせながら一歩づつ百合は進んだ。

すると正太郎が突然立ち止まり、一軒の店を見上げていた。
出張に行くために何か必要なものでも買うのだろうかとも思ったが、どうもそうでは無さそうだ。

物陰に隠れながら様子をうかがっていた百合の目に一人の人物が映った。
忘れもしない顔だった。

――――――

正太郎

―――――

百合

ここからじゃ何も聞き取れない……
でも……

どんな会話をしているかは分からないが、仲良く話していることは分かる。
明らかに初対面ではない。

仲の良い……それも自分と同じくらい
もしかすると……

百合

私より大切な人……?

百合がしばし思案している間に二人は店の中に入っていった。
さすがに店内にまでついていってしまえばばれてしまうかもしれない。

とにかく一度家に帰って状況を整理しようと、百合は今まで歩いてきた道を引き返した。

百合の中にはモヤモヤと煮え切らない感情が残る。

百合

なんで……?

百合は一人で鏡と向き合っていた。
姿見の鑑には正座した自分の姿が映っている。

百合

なんであんな店に行く必要があったの?

百合の中で一番引っかかっていたのは入っていった店だった。

そこは装飾品を扱う店である。
どう考えても正太郎が個人的に行くようなお店でもない。
そして一緒に入ったのが女性……

百合

もう、私、必要ないのかな……?

不安を抱く百合は、一気に襲ってきた疲労感に負けそのまま眠りについてしまった。

続3章:疑心はやがて闇となりて

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