ヴォルヴァイン

……

 ――あれから、一ヶ月の時が流れた。ヴォルツヴァイは帰ってこず、ただただ使う者のいなくなった調理場だけが、時の流れを語っていた。

 つまり――腐敗臭である。
 元々ヴォルヴァインは料理が一切できない。しかしこの世界の創造主から「特別な役持ち」にのみ支給される食材は調理前の物のみ。
 辛うじて野菜などで食べてはいけるが、もったいなくて捨てられなかった肉等は、腐敗していた。

ヴォルヴァイン

だーっ! くそっ、ヴォルツヴァイめ! こんな臭い耐えられるか! それと何か増えてないか? 頼むから料理ができる奴か、調理済みにするか、支給をなくしてくれ!

 その声に反応してか否かは不明だが、「ぽーん」と軽い音がヴォルヴァインの脳裏に響く。
 ――それは、特別な役持ちに舞台の幕開けを知らす声であった。

「明日、昼ごろに七匹の子山羊の始まりじゃ。一人になったが気にせずゆくように。あぁ後、腐った食材は消去しておくからのぉ。じゃ、頑張れ」

ヴォルヴァイン

あー、あいつがやっちまったからやり直しか。……ま、この臭いが消えるならやってやるか。

 早速とばかりに仕度をする。。小麦粉にのどの薬は現地調達だ。どこで売っているのかは調べねばならないだろう。

母山羊

それじゃあね、皆。お母さん以外が来ても、絶対に開けちゃだめよ。

「はーい」「わかっているよ!」と無邪気な声。物陰からちらりと様子を窺うが、あの時の記憶は消されたようだ。

ツィーズィプト

大丈夫だよ、僕がお母さんを間違えるわけないじゃない。……いってらっしゃい。

 約一名見たことのない顔だ。彼が、七番目の山羊の子だろう。
 様子を見る限りだと、記憶は消えているのだろう。あの歳の子供なら、あんな光景を記憶に残しておいて平常ではないはずだ。

 つまり、本当にやり直しといったところである。

ヴォルヴァイン

良い子達、私の可愛い子供達、お母さんよ。開けてちょうだい。

 数十分たった後、まずは何もやらずに声をかける。その後は声をどうにかする流れだ・

「え、ちょっと開けちゃだめだよ! 何持ってるの!」

「この声お母さんじゃないよ! だから」

「いや……やめて。なんで? 家族でしょ? ねぇ、ねぇ……イヤアアアアアアアアアアアアア――!」

ツィーズィプト

これで……やっと……!

 満面の笑みの末っ子が、ヴォルヴァインの腹を、とんっと押した。

ヴォルヴァイン

 腹をみると、そこは赤く染まっており、赤い何かが流れている。鈍い痛みが体を蝕み、痛い。



 ――赤い。痛い。何か、生えて、いや、刺さって? 赤くて、痛くて、刺さって、痛くて……何故?

ツィーズィプト

僕、あの時のこと覚えてるよ? 兄さんが死んで、皆死んで、狼が笑っていた。
そこに君が来て、話してて、僕時計から見ていて、母さんが来て、倒れて、兄さんたちは動かなくって。

ツィーズィプト

だからね、この一ヶ月考えたんだ。なんで兄さんたちは死んだのに、何も変わらず生きているんだろうなって。なんで僕だけが覚えていて、皆覚えていないんだろうなーって。

ツィーズィプト

そしてね、どうすればいいかわかったんだ!

ツィーズィプト

兄さん達はもう死んでいて、一緒にいるのは狼の手下なんだって! そして唯一生き残って、狼の姿を見た僕を、殺そうとしているんだって! だからね、だから――

「殺すんだ! 兄さんたちに化けていた狼も、そして、君も!」

 そう言って彼はナイフを引き抜き、悪なる狼を殺すため、その切っ先を突きつけた。

ヴォルヴァイン

……ちっ。しょうがない、退散か!

ヴォルヴァイン

ガルル……。

 足の速い狼の姿になり、ヴォルヴァインは、必死に森の中へと走っていった。

 どこかから母山羊の悲鳴が聞こえた気がしたが、やがてそれは途切れたのだった。

第二幕「結論結果、皆敵だ!」

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