* * *

城塞都市ツギノ

* * *










ダイ

ついた!





森を抜けるとそこには


天を衝くような高い城壁が


どこまで続くとも知れず


広がっていました。




勇者

んー……。
なんか、前に来た時より塀が
スゴく高くなってないか?



勇者様の過去の記憶のツギノとは


だいぶ違うようです。

ダイ

領主のスレッジ・ハンマ様が堅牢な城塞都市を目指して、日々増築してるみたいだよ。

勇者

へー……。

勇者

にしてもスゴイなぁ……。




ツギノの城壁を見上げる勇者様。



この壁を昇るのは、まず不可能でしょう。



勇者

まあ、いいや。中にはいろう。



勇者

ええーっと、正門どこだっけ……。




勇者様はキョロキョロと


正門を探し始めました。



それを見たダイさん。

ダイ

勇者様は追われてるんでしょ?
正門から入るのは無理じゃないかな……。



と苦言を呈します。


ダイ

よし、内部従事者用の裏門から入ろう。
















侵入!城塞都市ツギノ
















勇者

裏門?

ダイ

うん。

勇者

裏門は簡単に入れるの?

ダイ

簡単に……っていうのとは
ちょっと違うけど……。
裏門は基本的に警備の衛士がいないんだ。

勇者

へぇ……。

ダイ

ともかく裏門に行こう。
こっちこっち。



ダイさんは先陣を切って進みます。






城壁沿いに北東へ進みながら



勇者様とダイさんは、



裏門について話します。


ダイ

俺達みたいな内部従事者は、納品等は正門で行われるけど、そうでないただの出入りの場合は裏門から出入りするんだ。

勇者

それはどうして?

ダイ

正門で行われる所定の手続きでは時間がかかるし、正門の衛士のチェックだと内部の人間であっても照会に時間が掛かるんだ。



しかし、勇者様はいささか納得がいきません。

勇者

昔来た時は普通に入れたような覚えがあるんだけどなぁ……。
前からそんなんだったっけ?

ダイ

うーん……。



唸り声を上げて腕組みをするダイさん。

ダイ

俺が父ちゃんの代わりに出入りするようになったのはここ1年だから、勇者様が前に来た頃……3年位前だっけ?その頃の事はちょっとわからないなぁ……。

ダイ

あ、でも父ちゃんに聞いたんだけど、2年位前にスレッジ・ハンマ様の所に泥棒が入って何かが盗まれたって言ってたよ。

勇者

へぇ……。泥棒か……。

ダイ

結局犯人は捕まらずじまいらしいんだ。

ダイ

そのせいで厳しくなったのかもね。

ダイ

よし、ここだ。







ダイさんが指差す城壁の部分には、


大人がギリギリ1人通れるくらいの高さの横穴と


その奥には鉄の扉が取り付けられていました。

勇者

小さい扉だね。

ダイ

この裏門は無人でも大丈夫なように工夫が凝らされているんだ。

ダイ

はい、これ勇者様の分。



そう言いながら、ダイさんは


一つの鍵を勇者様に手渡しました。


勇者

この鍵は?

ダイ

これは内部従事者それぞれに与えられている鍵だよ。



そう言いながら、ダイさんは


もう一方の手で自分の懐から


鍵を取り出しました。


ダイ

これが俺の鍵。

ダイ

で、それが父ちゃんの鍵。

勇者

ダイのお父さんの鍵かぁ。



勇者様は受け取った鍵をまじまじと眺めます。






突然ダイさんはすぅ、と息を吐き



改まった様子で話し始めました。


ダイ

じゃあ、これから中への入り方を説明するよ、勇者様。

勇者

う、うん。



ダイさんの雰囲気の違いに


少し戸惑う勇者様。





これはきっと、ちゃんと聞かないといけません。

ダイ

まず、この鍵をあの穴に入れて回すと、一つ目の扉が開くんだ。

勇者

一つ目?

ダイ

そう。裏門には全部で4つの扉があるんだ。

ダイ

一つ目の扉が開いていると、
二つ目の扉が開かないんだ。

だから、一つ目の扉の中に入ったら扉を締める。

勇者

うん。

ダイ

すると二つ目の扉が開くんだ。

同じ要領で二つ目の扉の中に入ったら
二つ目の扉を締めないといけない。

ダイ

で、三つ目の扉なんだけど……



ダイさんの表情がこころなしか曇った気がします。


ダイ

三つ目の扉の床は秤《はかり》になってるんだ。

ダイ

城壁の内側から三つ目の扉を開けようとする時、特殊な秤《はかり》で、それぞれの鍵の持ち主の重さを覚えさせてるんだ。

ダイ

で、前回覚えた体の重さから著しく差があった場合は扉が開かなくなって、衛兵が来るまで身動きが取れなくなるんだ。

勇者

ひえぇぇ……?



なにやら物騒な仕掛けです。

ダイ

でも俺が見た感じ、
勇者様は父ちゃんと同じくらいの
体の重さだと思うから、
父ちゃんの鍵で通れると思うよ。

勇者

ほん……とうに……?




疑心暗鬼の勇者様。






ダイの言う通り、


このまま行って大丈夫でしょうか?








そんな勇者様の心配をよそに



説明を終えたダイさんは



ドアへと向かいます。

ダイ

よし行こう。





しかし、勇者様は何かが引っかかります。



勇者

んんんー……?

勇者

はっ!

勇者

ちょっと待って!





進もうとするダイを引き止める勇者様。



何かに気がついたようです。



勇者

ダイのお父さんって剣とか鎧とか着けて通ったの?

ダイ

着けてないよ?

勇者

……。

勇者

もう一つ!

ダイ

うん。

勇者

ダイが俺とお父さん同じくらいの体の重さって思うのは装備抜きの話じゃない?

勇者

鎧とか着けてたらぜんぜん違うんじゃない?

ダイ

……あー!
そう言われればそうかも。





勇者

うひぃ……、危ない危ない。



間一髪の勇者様。


持ち前のカンの良さで危険を回避します。



勇者

ちょっと待ってて、ダイ。
装備品をいくつか森に隠して来る。

ダイ

うん、わかった!


勇者様は森の中へ入り、


目印になりそうな大きな樹の根本に


装備品を置きます。

勇者

重そうな金属類は、この木の裏に隠していこう。

勇者

新品の短剣と……鋼鉄のよろい……。
いつもの額当ても置いていって……。
王の冠も重いな。

勇者

カジノコイン×2560はスゴイ重いな。
てか、これまだいるのか?




そう言いながら、森の中で


重量のある荷物を次々まとめます。


勇者

あとは、木の葉を被せておけば大丈夫かな……。








勇者

よーし、準備オッケー!
行こう、ダイ。

ダイ

あ、そうだ、勇者様!

ダイ

勇者様、念のためこれを着て!



そう言いながら、


ダイさんは勇者様に


紫色のローブを着せます。

勇者

……。

ダイ

よし、OK!

勇者

いや、これはこれで怪しくないかい?

ダイ

大丈夫!全然怪しくないよ!

勇者

ホントかなぁ……。

ダイ

じゃあ、俺から先に行くね。

ダイ

しばらく進んだところで待つから、中に入ったら道沿いにまっすぐ来てね。

勇者

うん、わかったよ、ダイ。



勇者様が応えると、


ダイさんは横穴に一歩入り


右手の壁に鍵を挿して回します。

勇者

あそこに鍵穴があるんだな。













ダイさんの姿が暗闇の中へ消えていきます。



そして、入口の扉が閉まりました。








勇者様はダイさんに続こうと、



ダイさんが鍵を挿した場所へ近寄ります。






……しかし






鍵穴は蓋のようなもので覆われていていました。



これでは鍵を差し込めません。

勇者

え……?これどうやって鍵を挿すんだ?




困惑する勇者様。





しばらくすると、



遠くの方でガチャリと言う音が聞こえました。



すると、鍵穴の蓋が横にずれ



鍵穴が顕《あらわ》になりました。

勇者

おぉー。なんかスゴイ。
一人ずつしか通れないようになってるんだ。




勇者様は早速ダイさんから渡された鍵を



鍵穴に挿して回します。









勇者様は開いた扉から



その中を覗き様子を見ます。


勇者

なるほど、よく考えられてるなぁ。
次の扉までの広さはひと1人とちょっと分しか
すきまがない。




勇者様は横穴を中からぐるりと見渡します。


勇者

カラクリもスゴイけど、この狭さならハンマーなどで壊そうにしても振りかぶれない。
きっとポメラでも無理やり通るのは無理だな。




* * *









ポメラ

ハックシュッ!!

ソルフェ

どうした、ポメラ?

ポメラ

いや、ちょっと……。
風邪ひいたかな……。

シーラ

もうちょっと厚着した方がいいんじゃない?

ポメラ

あー……いや……。
イザという時に動きにくいと困るんでな。





*  *  *







勇者

一つ目。



と言いながら、


扉の中に足を踏み入れる勇者様。


勇者

……で、閉めるんだったな。




勇者様が一つ目の扉を閉めると、


その背中の方から




……と、扉の開く音がしました。


勇者

 二つ目の扉……。



同じように次の扉の中に入り




と入ってきた扉を閉めます。


勇者

これが……三つ目。




三つ目の扉の前に立つと、



心なしか床が沈んだような気がしました。


勇者

えっと、この扉は秤《はかり》で体の重さを量って開くんだよな……。
このまま待てばいいのかな?











扉が何らかの反応をするのを待つ勇者様。











しかし、一向に反応しない扉に



不安が募ります。



勇者

……もし、体の重さがダイのお父さんとかけ離れてたらどうなるんだ……?







最悪の事態が勇者様の頭をよぎります。






勇者

捕まったとしても、尋問があるよなぁ……。
いきなり処刑とかされないよな……。





















果たして、本当に扉は開くのでしょうか?











































































勇者

良かった、開いた…‥。




その間わずか数秒程ですが、



勇者様はとても長い時間のように感じました。









幸い、ダイさんの見立て通り、



勇者様の体の重さは



ダイさんのお父さんにかなり近いようです。




勇者様は三つ目の扉をくぐり、





と扉を閉めます。


勇者

四つ目。やっと外に出れるぞ。















四つ目の扉をくぐり、太陽の下に出た勇者様。










衛士

お、利用者か。

勇者

え……。




しかし、そこにはダイさんの話とは違い



一人の屈強な衛士さんが警備をしていました。


衛士

おい、お前。



手に書類のようなものを持つ衛士さんは



勇者様を怪訝そうに覗き込みます。


衛士

そのフードを取って顔を見せろ。

勇者

ヤバイ。


戸惑う勇者様。





そして、時間がかかるほど


衛士さんの顔はこわばっていきます。



衛士

早くしろ。
フードを取れない理由でもあるのか?

勇者

えーい、くそッ!



これ以上は無理と判断した勇者様。



覚悟を決めてフードをとります。

勇者

バッ!







衛士

………。









衛士は書類と勇者様の顔を見比べます。








勇者

ドキドキドキ








衛士

……違うな。
いいぞ、行け。

勇者

へ……?




想定外の事に



あっけにとられる勇者様。



衛士

もういいって言っているんだ。
さっさと行け。

勇者

あ、はい。








勇者様は



その場を立ち去る素振りを見せながら、



どうなってるんだろうと思い



衛士が持つ紙を覗き込みます。










すると……。








勇者

うわ……似てな……。

衛士

……なんか言ったか?

勇者

いえ、なんでも……。
今日は暑いですね。

衛士

そんな厚着してるからだ。




そうとぼけながら、



勇者様はその場を後にしました。
























しばらく道沿いに行くと、



街路樹の脇にダイさんが立っていました。






ダイ

遅かったね、勇者様。

勇者

見張りの衛士に足止めされちゃってね……。

ダイ

ごめんね、勇者様。
いつもはいないんだけど……。

勇者

いいよいいよ、なんとかなったし。




と言いつつも、


ダイさんの大雑把な性格に


いささかを不安を覚える勇者様。






無事、城塞都市ツギノの中に入れた勇者様とダイさん。







もし最初から手配書があの内容だと知っていたら



正門から堂々と入れたのに、と



ひとりごちりつつ、街の中心へと向かいます。
































つづく





【勇者勇の装備】
レベル  :18
めいせい :186
ぶき   :なし
よろい  :なし
かぶと  :銀の額当て
たて   :なし
どうぐ  :野ばらのペンダント
      焼豚×2
      焼きとり×2
      霊薬草×5
      淡水ザメの煮凝り
      淡水ザメの骨
      淡水ザメの牙
      黒王の羽
なかま  :泉守ダイ
      もふもふ
とくぎ  :ファイアブレス
      トキシックブレス
      釣り
      カン
じょうたい:カジノ破壊の容疑者、軽装


簡易あずかりじょ:
      新品の短剣
      鋼鉄のよろい
      いつもの額当て
      王の冠
      カジノコイン×2560

【シーラの装備】
レベル  :11
めいせい :230
ぶき   :いつもの本
よろい  :いつもの服
かぶと  :いつもの飾り
たて   :なし
どうぐ  :やくそう×94
      イーサ薬×9
      乗船券×4
      おみやげ×99
      ガラスの破片
なかま  :戦士ポメラ
      大魔導ソルフェージュ
      コボルト
とくぎ  :しょうかん
      値切り
      冷やかし
      虫の知らせ
      ディゾネの思い出
じょうたい:パーティーリーダー

第41話 侵入!城塞都市ツギノ

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