入学してからショックだったこと。


泰明とクラスが別れた。

あ、でもそのほかの4人は一緒のクラスだった。

どんなクラス分けの方法なのだろうか。

学力均等?いや、でも偏りすぎだろう。



あれー?

あたしそんなに入試悪くなかったと思うんだけどな。

理系文系?いや、あたしは文系だけど、4人は理系だし。



名前の順番かな?生年月日かな?

疑問のクラス分けは、あたしの第一の困惑だった。

絢香

絶対おんなじクラスだと思ったのにー

泰明

俺も一緒だと思ってた。
学力別だろ普通

授業初日、靴箱に靴を入れながら、会話する。

うちの学校は鍵付きの靴箱に上履きという、お寝坊さんには辛い靴箱になっている。

鍵は安っぽいものだが、鍵をつけることは義務になっており、これを破ると反省文を書かなければならない。

抜き打ちで検査が入るので毎回かけているのが間違いない。

そうそう、あたしたちは、今日は二人だけで登校だ。

部活の朝練がある人と、例に漏れずお寝坊さんした人のおかげで、ふたりっきりだ!

その一点だけなら気分は晴れやかなのに。

絢香

去年は学力別よね

泰明

一昨年は願書受付順だぞ

絢香

あー、もしかして、5人ほぼ同時だったからこそ起きた悲劇?

泰明

それだったら、俺ほんと辛いんだけど

靴箱を出ようとしたとき、後ろから元気に挨拶された。

悠美

おはよ!

声に反応して振り向くと、なんだか可愛い感じの女の子がいた。

髪の色は写真で見ていたのと違うし、制服もちょっと改造してるし、化粧もしてるし、思ったよりキャピキャピしてるけど。

これって、もうひとりだよね。

泰明

おはよ

絢香

おはよー

悠美

一緒に教室行っていい?

ダメな理由もないし、泰明を見る。

絢香

いいよね?

泰明は頷く。

悠美

やった。
あ、そうだ

悠美

はじめまして、中学最終序列第3位の南波悠美です。
3年間よろしくね!

そう言って笑いかける南波悠美。

揺れた髪の隙間から上位序列ネクタイと、高位バッチが見えた。
やっぱりそうか。



私たちの地区の学校は序列によって成り立っている。

序列は、人気、人望、学力、運動能力、そして顔面偏差値によって決まる。


決め方は結構ややこしくて、全ての項目についてベスト30まで他薦しなければならない。

そのベスト30を序列役員と言われる人たちが学年全員に聞き取りをし、ポイントを付け上位序列者を決める。



それが決まったところで、残りの選ばれなかったものは再びベスト30を決める。

それを何回か続けていくと、序列が出来上がる。



というシステム上、生徒が高位見極め期間として1ヶ月が用意されている。


その期間は、中学最終序列を言って自分の目安を作ったり、派手な行動をとってみたりという宣伝活動を行うのが普通である。


そして、前年度の上位序列はネクタイがみんなとは違うし、高位に至っては、ピンバッチをつけなければならない。

悠美

えっと、2位の絢香ちゃんであってるよね?
おんなじクラスなんだけど

絢香

……う、うん。
よろしくね

しまった。

昨日のガイダンスの時あまりの衝撃で前しか見てなかった。


きっとこれ、自己紹介とかやってるよね。
あたし、喋った記憶あるもん。

絢香

はじめまして。
中学最終序列2位の松崎絢香です。
楽しい1年にしたいです

やってる、やってる。

これ絶対、あたし今日知ってないといけない流れだった。


良かった。写真で予習してて。

でも、昨日の今日ってことはこの子にとってあたしは、射程範囲にいるってことかな。


光栄というか、怖いというか。

泰明

最終1位の児玉泰明な。
よろしく

絢香

悠美ちゃんの中学はどんな感じだったの?

悠美

悠美でいいよぉ

絢香

じゃあ、悠美で。
あたしも好きに呼んでー

悠美

なんか恥ずかしいしぃ

悠美

……悠美の学校かぁ、荒れてたねぇ?
多分、南中でも歴代何位レベルだったかなぁ

絢香

へー、大変だったんじゃない?

悠美

んー、でもぉ、悠美友達いたし、なんとかなってたよぉ。
絢香ちゃんはぁ?

絢香

私のとこは、そうだね。
普通だったかな。
良くも悪くも

悠美

そっかぁ

泰明

南中に比べれば、どこだって普通だろ

そう言ったところで泰明は足を止めた。

泰明

俺、こっちだから

絢香

はーい

絢香

じゃあ、また後でね

泰明と別れて教室に入ればそこそこ人がいた。

入学したばっかりなのに、教科書開いて勉強してる人が多くてびっくりした。



あたしはどちらかというと、勉強は最低限しかやりたくない。

最低限で十分。

別に東大に行くわけじゃないし。


とか思っていると悠美に手を引っ張られた。

とあるグループに連れて行かれる。

悠美

悠美のお友達ぃ。
みんな素敵な子達なのぉ

そこには、派手な女の子達がいた。

髪の長いヤンキーと、髪が短いギャル雑誌に載ってそうな子と、肩つかないくらいのゆるふわ髪のちょっと系統の違う子。

悠美

翠ちゃん、紫穂ちゃん、碧ちゃんでーす!

あ!こいつが噂の絢香ちゃん?

絢香

噂?

悠美がビビってた。
怖い人だったらどうしよって。
よろしく!

翠ちゃんは爽やかに挨拶してくれる。

なるほど、人がいい方のヤンキーか。

絢香

別に怖くないって。
よろしくね

それに答えれば、なんとなくそのまま話す流れになりそうなので、適当に椅子を引っ張ってくる。

紫穂

でも、思ったより絢香ちゃんって普通なのね。
もっとこう、違うイメージあった

絢香

あたしは、南中の人たちのイメージには合わないと思うよ

確かにぃ、うちの中学ってぇ、時代が違うもんねぇ

悠美

時代ぃ?

絢香

なんか、ほら、校内暴力とか聞くし

悠美

あ、それかぁ。
でも、学級崩壊の延長だしぃ

いじめの延長だしな

紫穂

それに、そこまでひどくないよ?

悠美

序列がはっきりしてるから、ほんとにやばい時は止めるしぃ

絢香

それもそうだよね

校外に噂で出たときに、いろいろ盛られるんじゃん?

紫穂

きっとそうだよ

絢香

そういうものよね。
そういうのって

朝のホームルームまで4人で話していた。

女友達は新鮮で、この子達といい関係を築いていけたらなって、この時は思っていた。

2時間目:いつものように

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