昨日の話である。

美子は、剣道道場の裏手にある

通気用の小さい窓から

しゃがんで中を覗いていた。

稲村美子

いた!

中では、50人ほどの剣道部員が稽古に励んでいる。

男女混合で稽古しており、皆が上下が紺色の道着、顔は面で隠れている。
苗字は書いてあるが、大勢が一斉に動くので普通であれば判別は難しい。
だが、美子はあっさり見つけることができた。




鵠沼ケイ




こんな時は、自分の特異体質に

素直に感謝する。


ドーーーーン!!


道場の中は、大勢が足を踏み込んでいるので

大きな音が響いている。



とりわけ、ケイは大きな声を出し

ものすごいスピードで面を決めていた。


身長が高いので迫力がある。



美子は、少し顔を赤くして

胸がキュンとするのを感じた。

稲村美子

かっこいいな。

藤沢月

誰みてるの?

いつの間にか

月が隣にしゃがみこんでいた。

稲村美子

!!!!!!!!!!!!!!


美子は、大声で叫びそになったが

かろうじて、両手で口を塞いだ。

藤沢月

美子、耳としっぽ出てるよ。

稲村美子

うそっ!!



慌てて頭をさわると

そこには大きな猫の耳があった。



美子は、両手で耳を押さえながら

深呼吸を繰り返した。




藤沢月

ごめん、驚かせちゃったね。


驚いたくらいでは

普段はこんな事にはならない。



月が原因だ。

稲村美子

もー!!驚かせないでよ!
月、力が強いときなんだから!

藤沢月。


月は、「月の欠片」の血を引いている。

遠い昔に、地球に降ってきたそうだ。

月も特異体質だが

美子のように見た目の変化はない。



しかし、

「月」の満ち欠けによって

力は左右され

時期によってはできる事とできない事がある。


明日から

満月になるので

月の力は周りにも影響を与える程

強い時なのだ。


藤沢月

で、誰がかっこいいのかな?


月は、ニヤニヤと笑っている。

稲村美子

それより、なんで月がココにいるのよ。

藤沢月

コソコソとしているのが見えたから
つけてみたんだよ。

稲村美子

性格悪いんだから。


耳としっぽが収まったので

美子は、鞄を拾い

すくっと立ちあがって

月に背を向け歩きだした。

藤沢月

まっ、だれを見ていたか
わかってるけどね。

駅に向かって歩いていると

月が後ろから追いかけてきて

横にならんだ。

稲村美子

…。

藤沢月

怒らない、怒らない。いいことじゃん。
というか、用件はこれじゃないし。

稲村美子

何?

藤沢月

明日、あっち行くけど
美子はどうする?


美子は、パッと月をみた。

稲村美子

行くー!

藤沢月

わかった。



月のせいでちょっとイライラしていたが

「あっちに行く」事を考えたら

ウキウキと晴れやかな気分になった。



その後は、他愛もない話をしながら

月と駅に向かって帰ったのだ。

…それを香奈達に勘違いされたのだ。



しかも、ケイの教室を覗いているのを

月に見られている。



誰をみていたのかを

特定されているのは明白だ。



月をちらっとみると

頬杖をつきながらノートをとっている。


最前列の席にいる香奈も見る。

美子は、キュッと胸を痛めた。

稲村美子

香奈、ごめんね。ケイくんのことまだ話せてなくて。


ほんのりと暖かい日差しを浴びた

まっ白なノートを見つめて

美子は、小さくため息をついた。

化け猫と月の日常(4)

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