【12】


























とっさの時って
なにも思いつかないものだ。

ボクは、ただ祈った。






















う……

気がついたみたいだ

誰?

でも、すごい来店の仕方だったよな

男の人の声?

頭とか打ってなきゃいいけど






 
































































目が覚めると部屋にいた。

青い照明とふかふかのソファ。
鏡みたいにピカピカで
顔が映りそうな床。

どれもボクの町では見たことがない。


なんて言うか
とてもお金を使いそう。

ここならツバメの巣料理だって
出てくるかもしれない。








そして
ボクを覗き込むように
取り囲んでいる男の人、3人。

どう? どこか痛くしてない?

ホント、びっくりしたよねぇ。
いきなり降ってくるんだもん

でもこいつ、金持ってなさそう

こいつ、なんて言わない。
お・客・様、でしょ

金のねぇ奴は客じゃない、って言ってたのは誰だっけ?

キワモノ、と言っては失礼だが
衣装も口調も
「普通」とはかなり違う。

わかってないなぁ。
こんな子供がウチみたいな店に通ってたら、そっちのほうが怖いでしょ?

今のうちに「優しいお兄さんがいる店」って刷り込んでおけば、10年後にはお得意さんになって帰ってくるものよ

鮭みたいに?

……

彼らがなにを話しているのか
ボクにはよくわからないけれど

今のボクは
このお店に来ちゃいけないんだ
ってことだけはなんとなくわかった。






きっと2丁目の角にある

「綺麗なお姉さんがいるんだけど
夜にしか開かない店」

の、男の人バージョンだ。




すみません、お邪魔しました

この店のターゲットとする客層からは
完全に外れているのだろう。

それは
あまり歓迎されてなさそうな
口ぶりからもうかがえる。


お菓子と縁がなければ
ボクのほうにも用はない。

払えるような金もない。



だったら長居は無用だ。



あ、もう行っちゃう?

これからお昼食べるところだから一緒にどう?

い、いえ

知ってる。

こういうお店って
お値段が桁外れなんだって。

「0」が3つくらい
余計についてるって。


なにか食べたり飲んだりしたら

それだけで
偉いおじさんの顔がついたお金が















はらはらと飛んでいくんだって。

















まぁそう言わずに。ピーマンケーキなんて食べたことないでしょ?

ピーマンケーキ!?

あの「お子様の嫌いな野菜No.1」の
ピーマンでケーキ!?

これはちょっと価値があるかも、

……って、ピーマンそのもの?

まあ、パクッと行っちゃいな~

はあ

見た目は悪いけど
持って帰るつもりなら
味見は重要だ。


なんせ
この先何十年もこのケーキの成る木が
生える予定なんだから。






ボクは

と、ケーキを頬張った。





口に入れた瞬間のピーマンの苦み、しかし噛むほどにじんわりと甘みに代わって行き、

苦みと甘さが完璧なハーモニーを奏で始める!

美味しい?

はい!

これなら町に持って帰れる!

余った分、少し持って帰りたいんですが

じゃ、包んであげる

……ね……











あれ?
なんだか眠くなってきた。


疲れたのかな。

寝ちゃった?


やっとお菓子が手に入って
ほっとしたのかも……な……
















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