……たった一人の妹にも、私の存在を捨てられたからだよ

…え?

まあ、心当たりはないだろうな。
愛するココロには、気づけないことだろうさ

どういう、こと?

どういうこともヘチマもない
愛するココロ。私のたった一人の、大事な妹。
果たしてお前に『ココロ』はあるのか?

……?

ココロ?


姉の言うそれは、私の名前ではなくて。

心のことを指すのだろう。



少なくても、私はそれを誰もが当たり前に持っているものだと思っていた。

もちろん私だって。



むしろ、そんなことを尋ねる姉の方にこそ、私は似たようなことを思っていた。

今の姉に、ヒトの心はあるのだろうか? と。

心だよ。ココロ。

いろんな心がある。


誰かを愛することも、

誰かを嫌うことも、

何かを志すことも、

何かをあきらめることも、


全部心が成せる技だ。

そして、人にはまず心があって、

それに対して結果が伴う。

それが普通だ。

何かを嫌だと思う。

それを乗り越えるのか、
それから逃げ出すのか

何かを好きだと思う。

それを極めるのか、
ただ愛でるのか。

逆に、行動から入ることもあるだろう。

その場合人は、心の動きをもって判断する。


これは自分に必要なものか。

新しいのか、古いのか。

創造なのか、模倣なのか。

姉は息を吸い込んで、ため息を吐くように言った。

だけど、愛するココロ。

お前は違う。

…違う?

愛するココロ。

お前はなんでもできすぎるんだ。


人付き合いも、運動も、勉強も。

もちろん、お前の努力なくして、これらのことはできなかったことだろう。

でも、お前は努力の末、できるようになってしまった。

悩みを相談されれば、お前は答えるだろう?

助っ人を頼まれれば、嫌とは言わないだろう?

勉強を教えてと縋られたら、お前は教えてしまうだろう?

お前のことを嫌いな人を、お前は嫌うだろう?

逆に、お前のことを好きな人を、お前は好きになるだろう?

別にそのことをダメとは言わない。

それができない私よりも、お前はきっとヒトらしい。

ココロを持ったヒトらしい。


――それが、ポジティブに働いていればな。

――なあ、愛するココロ。

お前、実は何も考えていないだろう?

…そ、そんなこと

ないって言えるか?

私の目を見て、自信をもって。

……な、ぃ

目を見ろ

……

愛するココロ。

それがお前だよ。

なんでもできるから、やるだけ。

決して、やりたいからやるわけじゃない。

ずっと気になってたんだ。

いや、違うな。気になってたというより、ただお前に憧れてた。

このなんでもできる妹は、将来何を選択するのか。

何もできない私は、その成長を楽しみにもしていた。


でも、成長を見守るうちに、いつしかある疑念を抱き、それが確信に変わった。

ココロの行動に、心が伴っていないことに。

その笑顔が、偽物であることに。

……

多分、私だけが気づいた。

そして、それと同時にもう一つ気づいた。


この妹は、私に対してだけは、感情を向けてくれている。

私を、私だけを特別扱いしてくれている、って。

それは多分、愛するココロが私のことを苦手としているだけだったんだろう。

だけど、私にはそれが嬉しかった。


誰かから特別な思いを抱かれることは、
嬉しいんだ。

無視されることよりも、ずっと。

だから、私は今日まで生きてこれたんだ

そして、それがそのままお前の質問に対する答えだよ

それは、


『なぜ今日なのか?』


という問いに対する答え。

愛するココロ。

お前は今日

『私』を殺したんだ

今の物語 ~私が姉にしたこと1~

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