Nooooooo!!
Nooooooo!!
9月。
夏休みが終わり、残暑厳しい日々を過ごしながら秋の訪れを待つ、そんな季節。
悲しい声が体育館に木霊する。
舞台となる学校ではひと足早く、文化祭が開催される時期となった。
毎年、一般客も入るしそれなりに盛り上がる。
だが、今年は一味違った。
多くの阿鼻叫喚が出来上がる。
元々この学校では文化祭の前に一日、生徒達が自分たちだけで楽しむ前夜祭的なものが存在する。
今年はそれが実に悪夢なものだったのだ。
その名も。
地獄脱出ゲーム。
……まんまである。
名のとおり、選ばれし参加者達には正に地獄。
選ばれた理由は全校でランダム、あるいは推薦。
あとはドマゾによる立候補。それはいいとして。
このゲーム、内部だけで楽しむには少々過酷だった。
毎年毎年同じものじゃつまらない。
たまには観戦者として眺めるのもありだよね? と秘密裏に進められていたこの企画。
生贄羊となった哀れな犠牲者。
ノリと勢いと若干の悪意の餌食となったのだ。
何が地獄だって?
それはルールにある。
ただ一つにして、絶対に無視できないルールが。
参加者は負けたら黒歴史を全校に暴露します。
以上ッ!!
情報提供者による裏付け捜査などを経て、事実と確認した参加者本人は必死になって隠している秘密を暴露してやろうという最低最悪なルールだった。
犠牲者たちは呪う。
なぜ参加せねばならないのか。
これ文化祭の種目じゃないよね?
弱みを握られたら、言うことを聞くしかない。
泣く泣く従う参加者達。
そんなこったで、全校生徒のうち参加者100名による、ツーマンセルで戦う、意地とプライドを賭けた全力の仁義なき闘争が幕を上げた……。
悪夢だ……
誰だ私を推薦したのは……
ふふんっ
何を隠そう部長なのですっ!
私も犠牲になったのですっ!
よし、小泉
部長潰すよ
ちょっと手貸してよ
がってんしょうち!
哀れな犠牲者たちの中に横山は混じっていた。
地味子のあだ名を持つ彼女もまた、大いなる悪意によって今ここにいる。
そしてその子分、後輩の小泉。
二人ともパソコン部の部員である。
今回はパソコン部部長、北畠の嫌がらせのせいだ。
横山&小泉ペアは早速部長に復讐を誓う。
めんどくせー……
いいじゃん、わたしもいるよ
さっさと脱出しちゃおうね赤坂
有栖川、あんた顔が怖い
気のせいだよ?
違うペアでは有栖川と赤坂という女子生徒がいる。
こちらは友人同士の共倒れだ。
有栖川が悪乗りして赤坂を巻き込み、赤坂が怒って有栖川を推薦した。そんでもって自滅。
親友同士なので最早気にするだけ無駄、と赤坂は諦めて、自分が腐れ系女子だと周囲にバレないために、全力で脱出をすると決めた。
有栖川は取り敢えず楽しめればいいという楽観的な考えの下、赤坂&有栖川ペアは準備をする。
町田さん、どうします?
決まっているだろう、飯島君
脱出だろうが何だろうが突破だ
フッ……頼もしい
あてにしてますよ、町田さん
君も頼むぞ飯島君
黒歴史を明かれるわけにはいかない
飯島&町田ペア。
三年生同士の組み合わせで、ある意味一番負けることを恐れているペアだった。
他はまあ、恥ずかしいとかそんなレベルで済むが。
この二人の場合は、リアルでやばかった。
バレたら死ねる。憤死する。
ぶっちゃけ今の自分が崩壊する。
なので絶対阻止。死んでも勝つ。
そんな彼らの脱出ゲーム。
死物狂いの見ている方は心底下らない理由をバレないために、秘密を墓場まで持っていくために、彼らは必死になって足掻いていく……。
第一ゲーム
食べられそうな名前だけど、食べられないものを探せ。
探せる範囲は学校の一階のみ。
それ以外で発見したら退場。
ルール説明
1、制限時間は30分。
2、持ってくるモノの形状は問わない。
3、持ってくるモノの名前に必ず食べ物の単語が入ってること。
例題 『パン』なら『フライパン』など。
4、持ってくるものは重複不可。
他の選手が出したものは却下する。
先着順で減っていくので注意。
5、クリアした人間から第二ゲームの会場に進む。
6、一つでも違反をした場合は即刻退場。
その場で秘密を全校生徒に暴露する。
では、ゲームスタート!
……なぞなぞか
語彙と実際に見つけられるかだね
これって聞いたことあるのです
パンはパンでも食えねえパンはなんだって問題でしたよね?
フライパンが模範解答だった気がするのです
そうなるね
でもそんな簡単な問題じゃあなさそうだ
なんでですっ?
先着順だって言ったでしょ
つまりは早い者勝ちでどんどん答えが狭まっていく
急がないと、どんどん不利になる
ガッデムッ……
横山&小泉ペアはあれこれ考えていた。
ともあれ、先手必勝。急がないと不利になる。
簡単そうな問題に見えて、時間制限に加えて重複不可、しかも捜索範囲も決められている。
この人数で一階だけの捜索となれば、必然的に潰し合いになる。
いくら広い校内といえど、やはり辛いものがある。
いくよ小泉
いえすまむっ!
横山ペアは取り敢えず何でもいい、と探しに駆け出していった。
思いついたものを二人で言い合いながら見つけ次第持ってくる作戦にした。
あ? フライパンダメなん?
例題に使ってたもんね
ダメだと思うよ?
チッ、めんどくせえなぁ……
じゃあどうするよ?
持ってきた連中の奪って逃げるか?
流石にルール以前の問題
ただの強盗だからそれ
あたしは頭使うの苦手なんだってば……
なんだってんだよ、もう……
まぁ、焦らず行こうよ
ここは他の人が思いつかないようなものを探せばいいだけだしね?
有栖川、あんたあてあるの?
あるよー
多分学校だからこそあると思うんだ
ヒントは『ガム』、かな?
ガム……?
ガムって食うもんか?
ルール的には口に入るものなら食べ物扱いなんだって
赤坂&有栖川ペア。
どうやら秘策が有栖川にはある様子。
面倒そうにフライパンを持参しようとしていた赤坂を止めて、ゆっくりと進めていく予定だった。
だぁーっ!!
わかるかってんだよボケェッ!
相変わらず猪だね……
まぁいいや、行こうか
ブチギレ赤坂を連れて、渋々有栖川も動き出す。
暴れないか心配だった。
一方。
町田さん……
それを持ってくる阿呆は僕たちだけかと
確かに愚行だ……
体育館からの距離は大凡で数百メートル
俺達の体力では、運ぶので精一杯だ
仮に失敗すれば、即終わりだろう
だが考えても見てくれ
そんなリスクをしてまでこれを運んでくる戯けがると思うか?
指摘通り、俺たちだけだと思う
食べられない鯛でまっ先にそれを選んだ町田さんが怖いです僕は
……やはり、時間が掛かりすぎます
食べられないまんじゅうはどうでしょう?
喰えない饅頭、だと……ッ!?
心当たりがあるのかッ!
ええ、一応
ここは僕に任せてもらえませんか
町田と飯島ペアは最初、重たくて確かに喰えない鯛を持ってこようとしていた。
だが手間とリスクが多いので、切り捨てて違うベクトルで進めることとする。
それならば、あまり考えないのでいけるのではないかと。
飯島の提案により、彼らはそちらに切り替える。
野郎二人も早速とある場所を目指して駆けていった。
終了まで、あと25分。