総裁の病室
総裁の病室
「しばらく声が不自然かと思いますが、殿下」
「リッチー君か」
はっとする。機械の発声だった。人間声音ではなく、どことなく不愉快な音声だ。
「報告しますね、地上の作戦について、副総裁のアルテモード夫人より指揮官に僕、指名されました」
「あの人は相変わらず無茶なお人だな」
「使えるものは何でも使え、ですからね。総裁殿下の負傷については全世界に知られてますので、こちらにも考えませんとね」
「暗殺を計画したものがいる、それはどういう仕掛けだ」
「政府高官の一人が情報部より限りなくグレーに近いと報告がありました」
「また、奴らか、フィッツジェラルドとは無関係なのか」
フィッツジェラルドとは以前事件を起こした政府高官の名前である。
「はい、この男にはテロリストとの接触が見当たりませんでした」
「見当たらない、か」
「でも資金源におかしな点があり、調査したところ、テロリストとも接触していた武器商人からのものがあり、その商人をしめあげたところ…」
「しめあげた、ね」
「総裁殿下暗殺未遂事件について聞きたいことがある、と情報部員がつついたら、あっという間に吐きましたよ」
「君…」
「僕の素性をご存知でいらっしゃるのでしょ、だったら、聞き流してください」
「そうするしかあるまいな」
「その商人との接触範囲内にテロリストがいたことに彼は最初から知っていた模様です」
「それで」
「この程度大したことはあるまいとたかをくくっていたところに、あのフィッツジェラルドの事件です。疑心暗鬼になった彼は総裁さえ動きを封じればすむと判断して暗殺者を雇った…」
「やつらの計画が失敗したのは、何故だ」
「聖歌隊の少年です。もっとも彼は僕と同じ、中身は大人です。パートナーの男性と暮らしている人です」
「パートナー、か」
「ボディガードだったそうですよ、その人と彼の判断が殿下を狙った銃口を下げさせました」
「下げなければ」
「額を撃ちぬかれていましたね」
「なるほどな」
「詳しい事情はこれから彼に聞きますが」
「それは軍関係者に任せないのか」
「警戒されます、学生のふりして近づきます。もっとも僕の本業は学生ですが」
「君も油断ならないね」
「そりゃ…」
「その先言ったら、兄君も艦長も悲しむよ」
「はい、では、彼と話してきます」
「他にも何かあるんだな」
「事件のあらましをはっきりさせるのも任務ですから」
「リッチー君」
「はい」
「何かあるんだな」
「遠方の移民星に不穏な動きがあるので旗艦艦隊の出動命じられました」
「それは本当か」
「ニセの情報です。でも旗艦艦隊は出動しました、率いているのは兄上ですけど」
「なるほどな、君も使えるものは何でも使うというわけか」
「はい、では、またのちほど」