集中治療室で意識も無しに力なく瞳を閉じた少女が横たわっていた。
彼女は心臓に病気を持って生まれた。そんな彼女を家族は受け入れてくれず、彼女の存在自体を家族の中から抹消した。
生まれて早々彼女は施設に預けられたのだ。
しかし持病は良くなるものではない。今回も何度目かわからない発作を起こし、入院したのがつい数日前の話だ。
しかし数日が経って持ち直したかのように思えた彼女の状態であったが、今朝方急変し集中治療室に運び込まれた。
集中治療室で意識も無しに力なく瞳を閉じた少女が横たわっていた。
彼女は心臓に病気を持って生まれた。そんな彼女を家族は受け入れてくれず、彼女の存在自体を家族の中から抹消した。
生まれて早々彼女は施設に預けられたのだ。
しかし持病は良くなるものではない。今回も何度目かわからない発作を起こし、入院したのがつい数日前の話だ。
しかし数日が経って持ち直したかのように思えた彼女の状態であったが、今朝方急変し集中治療室に運び込まれた。
もって後1時間でしょう
医師の重たい宣告が彼女を親代わりとして育てた施設経営の女性の心に突き刺さる。
そして女性は祈るように手を合わせた。
しかし当の彼女は医師の声も聞こえない別世界にた。
そこでの彼女は普通に立つことが出来ていた。
周りを見てみると一面花畑だった。
……綺麗なお花畑
呟いて瞳を閉じ、花の香りを楽しむ。
不思議……ちゃんと私立ってるし、花の香りも嗅ぐことが出来る
瞳を閉じたまま微笑を零す。
もしかしたら死んでしまったのかも知れない……。此処は死んだ人が来る黄泉の国なのかも知れない
そう思いながらも彼女は幸せだった。
何故ならこうやって普通の人のようにすることが彼女の夢だったからだ。
病室ではそんなことはとても出来ない。
自分はそんなに辛くないとしても周囲に心配を掛けてしまうからだ。
心優しい彼女はこれ以上心配を掛けたくなかった。
でもきっとこの幸せも束の間の間だけ……
そう思い、再び開けた瞳を閉じてもう一度空気を吸い込む。
痛くも苦しくも辛くもない。
でもそれは同時に人の世を離れたことを示しているようだった……。
施設の先生は皆は……悲しむかな?……だったら嫌だな……
大切な人が悲しむのは辛い。
傍に行って、「大丈夫」と伝えたい。
でも死んでしまったらそれは叶わない。
そう思い、彼女が自身が辛いような表情をした時、声がした。
おや……どうしたのですか? こんな所に一人で……
少女は驚き、弾かれたように顔を上げた。
すると長髪の男性が目に入ってくる。
十代後半から二十代前半と言った所だろうか?
でも年齢の詳細はわからない。
……ただとても美しい男性だった。
貴方は誰……?
少女が問いかけると男性は少し考え込んでから言った。
私は……死神です
死神?もしかして……私の魂を狩りに来たの?
そう問い掛けると死神と名乗った彼は静かに頷いた。
ええ
しかしその表情はどこか苦しそうで、何かを堪えているようにも見えた。
……貴方、大丈夫?
そう……思わず少女が問い掛けてしまう程に。
…………!
死神はそんな彼女の言葉に一瞬驚いた様子だったがすぐに冷静に問い返す。
……何がです?
だって貴方……とっても辛そう
辛そう? 何を……
……私はずっと辛そうな表情ばかりを見て来たからわかるの……貴方本当は望んで来てない……そうじゃないの?
私には貴方が傷だらけのように思える
…………!
死神は再び驚いた様子になり、少し沈黙してから言った。
……この私を見て返り血だらけではなく傷だらけとは……貴女はとても純粋な方なのですね
その口元は笑っているように見える。
……これは美しい花畑に惑わされた哀れな死神の一度だけの気まぐれ……
彼は静かに続けた。
……貴女が生きたいと願うのならその魂を助けましょう
…………!
今度は少女が驚く番だった。
貴女が今1番望んでいる事、それは……『生きて大切な人を哀しませない事』……違いますか?
……どうしてわかるの?
私が魂の最期を見届ける死神だから、でしょうか
死神はそんな風に答え、続ける。
唯選ぶのはあくまでも貴女です。願いを叶えるには代償が伴いますから
……代償?
ええ。貴女は私と血の盟約を結び私の血を半分受け入れ宿す代わりに生きる事が出来ます。
唯それは逆に言えば盟約を結べば最後、貴女は人間としてはもう生きられないという事です。
年老いる事も無く、死ぬ事も無く、大切な人が亡くなったその後も貴女は一人孤独に生きる事になるでしょう
少女は少し迷った。
しかし今まで親代わりとして来て必死に育ててくれた先生や仲良くしてくれていた仲間の哀しむ姿が浮かび、すぐに答えは出る。
それでも私は……皆の哀しそうな顔を見たくない……
その言葉にすぐに死神が応じる。
では私と盟約を結びましょう
少女は決意した表情で頷き、尋ねる。
どうすれば……良い?
まず貴女の名前を私に教えて下さい
私は花蓮(かれん)……夢咲(ゆめさき)花蓮だよ
有難うございます。続いて左手の甲を出して頂けますか?
うん
花蓮が言われた通りにすると死神は何処からか小刀を取り出して自分の手の甲を切って血を流す。
…………っ!!
思わず息を呑んだ花蓮に彼は
大丈夫です
そう静かに返し、花蓮の出したままの左の手の甲に血文字で『夢咲花蓮』と書いた。
同時に花蓮は仄白い光に包まれた。