夕日が山の奥に消えてしまった頃。
夕日が山の奥に消えてしまった頃。
も、もう動けないっすよぉ。
そ、そんなに簡単に
見付からないわねぇ。
私もお腹ペコペコだわ。
儲け話など簡単に見つかる訳もなかった。お腹を押さえ背中を丸める二人は、道端に座り込んでしまった。そしてここは、どうやら大きな屋敷の壁らしい。もうすぐディナーに舌鼓を打つんだろうか。
二人の空腹に響く怒声は、屋敷の玄関付近から聞こえてきた。あまりのボリュームに、ハルの頭上のカエルが跳び起きたくらいだ。
すっごく怒ってるみたいだね。
怒鳴り声を聞くと、無条件で
謝りたくなるのは自分だけっすかね?
普通の人はならないと思うわ。
そんな事を言いながら、二人は少し開いた玄関の隙間から様子を覗き見た。
おそらくは屋敷の主人であろう中年の男が、声の主だったようだ。その主人に頭を下げているのは、召し使いの若い女性だ。ひどくご立腹の主人に、何度も何度も頭を下げている。
何したんだろうね?
えらく怒らせちゃってる
みたいっすね。
あんなに怒鳴らなくていいのに……。
どうやら何か大切な物を失くしてしまったらしい。昼から探し回って手掛かりがなかったようだ。主人の怒りは収まらないようで、遂には召し使いに暇を出すと言い出す始末だ。
ええっ!
可哀想……。
暇を出すって
どういう意味っす?
驚くメナの隣で、言葉の意味を分かっていないハル。
玄関の騒ぎに、屋敷から主人の息子であろう青年が現れる。そこまでしなくていいだろうと、父親にゆる~く訴え始めた。父親の怒気に正比例したような緩さだ。しかし息子に何と言われようが、主人の怒りは収まらなかった。
荷物を纒めなさい。
いつも言っているように、
失敗するのはよろしい。
だが、自分の言った事には
責任を持ちなさい。
……はい。
申し訳ございませんでした。
辞める事はないんじゃないか?
リュウ様、私が悪いのです。
帰宅時にマダムを見失ったばかりか
行方を見失い、お約束した半日が
たっても見つけ出せないのですから。
マダムと言っているので、おそらく婦人でも見失ったのだろう。深刻そうな話に息をのむメナ。心の底から召し使いの事を心配しているようだ。
もう~いいだろ~。
カエルなんてまた新しいの
捕まえてくればいいし。
カエルなんてだとっ!
リュウ! 貴様口を慎め!
今頃、空腹に身をよじらせて
おるのかもしれんのだぞ!
カ、カエル~!?
大騒ぎの原因はどうやらペットのカエルが行方不明らしい。あの厳格そうな屋敷の主人が、カエルを溺愛しているのがすぐに二人にも分かった。メナは、マダムと聞いて婦人を想像していたので、拍子抜けたように、つい大きい声を上げてしまった。
んむ!?
その大きい声に、瞬時に反応する屋敷の主人。メナがしまったと思った時には、次の声が飛んできていた。
そこで聞き耳を立てているのは誰だね。
大人しく出てきたまえ!
顔を見合わせるハルとメナは、同時にまずい表情になる。なんとなく男が先陣を切らねばならない気がして、ハルが顔を見せる。メナも申し訳なさそうな顔で姿を見せた。
ああっ!
おおおっ!
何と!?
お~。
一件落着ってやつだ。
どういう事かね?
なぜマダム・グリーンが
戻ってきたのだ?
もしかして、街中の人に聞いて
まわったので、それを伝え聞いて
わざわざ足を運んで頂いたのでは。
おお! それはご足労でした。
それにわざわざ見つけてきて
頂けるとはありがたい。
ありがとうございます。
この御恩は忘れません。
感謝致します。
ささどうぞ御客人。
口汚しでありますが、
ディナーでも食べて行って下さい。
へ?
ハルに懐いていたカエルは、主人の探していたマダム・グリーンと呼ばれるカエルだった。しかも、覗き見していたのを咎められるどころか、勘違いされて客人扱いにまで昇格。今、二人が最も欲する食事まで提供してくれる事になったのだ。